クリスマスの話

クリスマスの話


「ウソよ絶対ウソ! サンタさんは本当にいるわよ!」

「そうだすやん! ローはウソつきだすやん!」

「嘘じゃねえ。まだサンタのことを信じてるのか?」

「去年も一昨年もサンタさんがプレゼントを持ってきてるだすやん!」

 フレバンスからローが遠路遥々一人でやって来て、ファミリー入りして暫くの事。いつもなら何だかんだと仲良くやっている子ども達が喧嘩をしているようだった。何をしているのかとあむあむと哺乳瓶に噛み付いているデリンジャーを抱き上げていたジョーラと顔を合わせ、タンチョウは子ども達の声が聞こえてきた部屋を共に覗いた。

 そこには涙を目に溜めながらローに怒っているべビー5と一緒に怒っているバッファロー、そんな二人にクールに返答しているローの姿があった。中身のなくなった哺乳瓶をデリンジャーの口元から離したジョーラがああ、と納得したように声を漏らす。

「そういえばまだローはファミリーに来てからクリスマスを体験していないザマスね」

「確かに……というか、フレバンスでクリスマスにプレゼントが枕元にある、という定番のやつをやっていると思うんですけどね。トラファルガー家はそういうものを大事にしてましたし」

 治験に協力していた頃、季節ごとのイベントは大切な思い出だからと色々やっていたようでその話をされたり参加しないかと誘われたりしたものだ。ローの方もサンタさんありがとう、などと言っていたとトラファルガー医師が嬉しそうに言っていたのを思い出す。

「それは此処の誰かがプレゼントを置いただけだろ。おれの家でも父様がこっそり枕元にプレゼントを置きに来てたのを確認したことがある」

 トラファルガー医師……。見られていたとあればそれはバレてしまうに決まっている。それでもサンタを信じているラミと父親に気を使ってサンタはいる体で合わせていたのだろうが。あちゃあ、とジョーラと二人して苦い顔をする。デリンジャーは話を理解していないので3人の声につられてペチペチと興奮気味にジョーラのネックレスを叩いていた。

「ドンキホーテファミリーにはきちんとサンタさんが来ているわよ! 欲しい物を言わなくてもちゃんとプレゼントを置いてくれているし、サンタさんのお手紙に返事も貰えるわ!」

「そうだすやん! 若様だってサンタさんは居るって言ってるだすやん!」

 増々ヒートアップしかかっているのを流石に止めるべきか、と声を出そうとしたところで横をピンクのコートを羽織った男と黒いコートを羽織った男が通り過ぎて部屋の中に入っていく。ドフラミンゴとロシナンテだ、この時間にドフラミンゴが自室を出ているとは珍しい……。

「何の騒ぎだ、3人共」

「あっ若様とコラさん! ローが信じられないこと言うのよ!」

「サンタさんが居ないなんて言うだすやん!」

 ドフラミンゴの声でバッと振り向いた子ども達。べビー5とバッファローが二人してドフラミンゴの足にしがみついてローを指差している。

「フッフッフ、そうなのか? ロー」

「……おれはサンタを見た事がねえからそう結論付けただけだ」

 少しだけムスッとした顔でローは自身の帽子を直すようにしてそっぽを向く。そんなローを見てドフラミンゴは大袈裟な口調で話し始める。

「なんだ、お前が見た事ないだけなんだろう? ふ、フッフッフ……なら教えてやろう。おれは子どもの頃、サンタに会ったことがある」

「えっ?」

「その時はコラソンも一緒だった、なあそうだよな? コラソン」

 思わずといった様子で声を漏らしたローを見て面白そうに笑みを深めたドフラミンゴは後ろに佇んでいたロシナンテに声を掛ける。ロシナンテの方も慌てた様子一つ見せず神妙な顔つきで頷いてみせた。

 これは二人に任せておけば喧嘩は収められそうだ……と考え、未だにジョーラのネックレスを叩き続けているデリンジャーを預かることにした。流石にネックレスに罅が入りそうだし。

「けど前に父様がプレゼントを置くのを」

「置くのを? ……ああ、なるほど。ロー、お前の家には暖炉が無かっただろう? サンタは暖炉から家に入るんだ、ない家には……サンタが親にプレゼントを渡して代わりに枕元に置いてもらうんだ」

 よくまあスラスラ嘘が出てくるな……。嘘に乗っていた筈のロシナンテの方も心なしかそんな雰囲気でドフラミンゴを見つめている。

「確かに暖炉は無かったけど……本当にか?」

「フッフ、アジトには暖炉があるから間違いなく来る。……そんなに気になるならクリスマスイブの夜にでも起きて確認してみたらどうだ?」

 真意を探るようにドフラミンゴの顔を見つめるローだったが、サングラス越しではドフラミンゴの表情を読み取ることは出来なかったのだろう。分かった、と疑いながらも頷いた。

 今年はもしかして例年以上に大変なことになるのではないだろうか……タンチョウはデリンジャーにガスガスと頭突きをされながらドフラミンゴの笑顔をジョーラと共に見つめていた。

−−−

「フッフ! 手元にリストは行き渡ったな? まずはディアマンテ軍の若い連中が食材の買い出し、あとはメインディッシュの狩りをディアマンテに頼みたい」

「いやおれには無理だ」

「お前にしか頼めねえ」

「よせよ、人を天性の狩人みたいに」

「そうか、じゃあ辞め……」

「そこまで言うなら引き受けよう!」

 何時ものお決まりのやり取りを繰り返しているドフラミンゴとディアマンテを横目に他の幹部面々で例年の割り振りと同じように仕事を分担していく。飾り付けの担当は美術への素養が高い……? ジョーラが所属しているトレーボル軍が、ピーカ軍の担当はプレゼントの調達。そしてドフラミンゴとロシナンテが子供が欲しがるプレゼントの調査だ。

 隠密行動が得意な2人が組むのだ、焦らずとも子ども達が欲しがっているものは直ぐに分かるだろう。先にプレゼントで欲しがりそうなものを確保しつつ、それ以外のものを欲しがったらピーカ軍が用意すればいい。そこは例年通りなのだから問題はないだろう。

 ……だが問題は。

「今年はサンタ役をどうするんだイーン? 何時もは子ども達は寝ていたけど今年はきっとローが起きてるイーン!」

「フッフッフ、アイツは疑り深いからなァ! まあ安心しろ、サンタ役はもう考えてある」

楽しそうにドフラミンゴが笑ってタンチョウに手紙を差し出す。これは……?

「何、ちょっと遣いを頼まれてくれる序でに久々に顔を出して来い」

 手紙を裏返すと宛先が書かれている。……これはホーミング様と奥様宛の手紙? あ、まさか。

「父上はサンタ役には丁度いいだろう? 見た目も優しそうで髭も生えてて、それに本来ならローと会う機会もない。暖炉から入ってくるってのもローが起きてる様子があれば糸で補助してやれば問題ないだろう」

 そうかもしれない……。ドフラミンゴの言い分に少し納得してしまった。それに初恋の人にも会いたいし。手紙を届けるくらいならいいだろう……。タンチョウは単身、ドンキホーテ一家の屋敷を訪れることにした。

−−−

 結果から言うと、ホーミング様は任せて欲しいと笑顔で了承した。大丈夫なのだろうか……? 奥様も奥様でそれなら衣装を用意しなくてはと張り切っているし、きっと大丈夫なのだろうが。

 クリスマスイブ前にはこちらに来てもらえるように諸々の手配を済ませてタンチョウが戻ってくると、ディアマンテ以外の幹部陣が真剣な面持ちで何やら本を開いて顔を突き合わせて相談していた。

「ああ、戻ってきていたのか。丁度いいから此方に来て知恵を貸せ」

 同じピーカ軍に所属しているグラディウスが真っ先にタンチョウに気が付いて声を掛けてきた。何か不備でもあったのだろうか……。タンチョウがグラディウスの手元にある本の中身を見ようとしながら近寄ると、グラディウスの方も本の中身が見えるように身体を動かす。……これはカタログか?

「若様の命令だからとそれぞれのプレゼントを見繕っていたが……ローへのプレゼント選びが難航しているんだ。お前何度かアイツの誕生日にプレゼントを贈っていると聞いたぞ、手伝え」

 ドンキホーテファミリーでは子ども達にサンタが来てプレゼントを置いて行く他、それぞれの幹部陣からちょっとした贈り物を渡すことになっている。下っ端たちはどうやらプレゼント交換なるものを楽しんでいるらしいが……。

 グラディウスが見ているのは銃のカタログだった。流石にこれまでそういった類のものを贈ってきて居なかったが……グラディウスはローに射撃を教えている。ならばそのグラディウスから見てローの身長や反動を抑え込める力などを加味して銃を選べばいいのではなかろうか? というかだからカタログを見ていたのでは……?

「これは必要経費として落とせる分だ、個人的なプレゼントの括りにはならない」

 武器は大事だからな、と言いながらグラディウスはカタログを捲っている。見る限りカタログには何箇所か折り目が付いており、銃自体にはある程度目星を付けているらしい……。敬愛するドフラミンゴの命令とあっては手が抜けないのだろう、そういうところがお気に入りポイントなのだが。

 とはいえ、ローの好みというのをタンチョウは然程知らない。何しろフレバンスにいた頃は元よりドンキホーテファミリーにローが入ってから暫くはタンチョウ側がローを避けていた訳だし。グラディウスの要望に応えられるか分からないが、今までプレゼントしてきたものはシロクマのぬいぐるみや人体模型……それから解剖セットの入門編などか。ぬいぐるみはともかく医学関係のものはあげたら使ってくれているようだった。その辺りはハズレがなさそうだ。

「医学系か、参考になった。……タンチョウだったら何を贈る? よく聞くのは自分が貰って嬉しい物や欲しい物を渡すといいと言うが」

 ふと思い付いたようにグラディウスが問い掛けてくる。自分が貰ったら嬉しい物か。そう言った考え方は盲点だった。それならば……。

−−−

あれから暫く経ち、クリスマスイブがやって来た。数日前にはホーミング様と奥様がスパイダーマイルズに到着して此方が手配した宿に泊まっている。幾ら船長の両親とはいえ、相手はカタギだ。大っぴらに歓迎するのは難しい……。ということで仕方なくそうなった。のだが幹部陣は何名かに分かれてホーミング様たちに挨拶をしに行っていた。ホーミング様たちの方も怯えたりすることもなく、息子であるドフラミンゴが選んだ仲間なのだからと好意的だった。

 それにイブのパーティではホーミング様たちは参加出来ないが、25日の夜には家族全員で食事を取ることになっている、非常に楽しみだ。


 クリスマスイブのパーティは非常に賑やかなムードだった。ディアマンテが仕留めてきたメインディッシュの極大トロ艶鶏(これはとても美味しいが一部の島にしか生息しない非常に凶暴な鳥)の丸焼きを切り分け、この日の為に買い付けてきた個人生産者の貴重なワインやジュース、海の幸もふんだんに使われた料理の数々……。それらが幹部陣どころか下っ端たちにも振る舞われるのだからその騒ぎも頷ける。毎年のことながら夢中で食べる者もいるくらいだ。

 べビー5、バッファローと共にローも普段なら見られない楽しそうな表情で食事をしている。何時もはもっと落ち着いた態度なだけに微笑ましい。ロシナンテと共にグラスを傾けながら近くにあったオードブルを摘む。

『ローも 楽しそうで 良かった』

「ええ、本当に良かった。……何時も早く強くなろうと必死ですから、こういう時くらいはね」

 このまま会うことはないだろう、と思っていた少年がオペオペの実を手に入れたいとドンキホーテファミリーのアジトに飛び込んで来た日は昨日のことのように思い出せる。追い返そうとした幹部達どころかドフラミンゴ相手に交渉をしてみせたのは強烈だった。その一件でドフラミンゴのお眼鏡に叶ったどころか次期右腕候補とすら言われてしまったのだからとんでもない。……まあそのお陰でタンチョウとロシナンテは最初の頃色々あった訳だが。

『そういえば ローのプレゼントは どうなった』

「ああ、それはドフィが用意するから問題ないって関わらせてくれなかったんですよね。ちゃんとパーティで渡す分は用意したんですが」

 兄上が? と声に出さず口だけ動かしてくるロシナンテに頷く。あれはホーミング様達のところから戻って来た日のことだった。グラディウスとプレゼントについて話をした後、帰還したことを伝える為にドフラミンゴと会った際に言われたのだ。中身についてまでは教えてくれなかったが、問題ないと言い切っていたのでドフラミンゴに任せることにしたのだが。一緒にプレゼントについて調べていた筈のロシナンテがその内容を知らないのは不思議だ。

 そんな話をしていると青いコートが小さく引っ張られ、意識を足元に移す。いつの間にやら子ども達がこちらに来ていたらしい。しゃがみこんだタンチョウとは対象的にロシナンテがスッと少し離れた。未だに子ども嫌いということになっているロシナンテの努力も虚しくバッファローにタックルじみたハグを右足にされて悶絶している。……そっとそこから目を逸らして目を輝かせているべビー5へと視線を戻す。

「タンチョウさん、メリークリスマス!」

「メリークリスマス、べビー5。今年も素敵なドレスを着ていますね。それに今年もお手伝いを良くしてよく遊び、とても良い子でした」

「えっ!? 褒められた、わたし必要とされてる!」

「勿論。貴女が例え悪い子でもファミリーは貴女のことを大事にしますよ」

 キャーッと頬を染めているべビー5にやんわり釘を刺す。ドフラミンゴが拾った当初よりは強迫観念じみていないが、まだまだ必要とされたがる癖が抜け切らないらしい。家事などを率先して手伝ったりするのはいいことなのだが、度が行き過ぎては将来碌な事にならない。ドフラミンゴやロシナンテはともかく、他の幹部達はあまりべビー5のこういった面を良くないことだとは気付けていないようなので今のうちからしっかり釘を刺していかなければならない……とはドフラミンゴの弁だ。確かに大きくなってから変な男に借金を背負わせられたり良いように扱われるかもしれないのでその反応にもなるだろう。誰だってそうなる。

 べビー5の林檎のように真っ赤に染まった頬をツンと突いてからもう一人、静かにしているローへと視線を向ける。じ、とタンチョウとロシナンテを見つめる視線にどうしたのかと問い掛けようとしたところで、ロシナンテがバッファローを引き剥がして(比較的優しく)地面に転がした。どうやら痛みから復活したらしい。

 バッファローはそれに対してゲラゲラと楽しそうに笑い、べビー5もそれに加わろうとローの手を引いてロシナンテの方に行ってしまった。何だったのだろうか。ロシナンテに同じように転がされているべビー5とローを見届け、声を掛けてきた下っ端との会話に応じることにした。

−−−

 パーティもすっかりお開きの時間になり、幹部陣だけが会場に残っていた。子ども達も2時間ほど前には眠気を訴えていたので部屋に戻している。……此処からが幹部陣達の最大のイベントだ。

「フッフッフ、今年もいいクリスマスイブだった。準備は例年以上に大変だっただろう……皆ご苦労だったな。此処にヴェルゴが居ないのは残念だが……アイツには労いの意味を込めておれからグリーティングカードとプレゼントを贈っている。向こうからもメッセージカードが届いているから後で見てやってくれ」

 中身が改められる可能性があるから当たり障りないことしか書かれていないのだろうが、ヴェルゴからのグリーティングカードはここ数年の楽しみでもある。暫く顔が見れていないのでその内様子を見に行きたいが……難しいだろう。最後に会った時は頬にチーズハンバーグを付けていたな……今は何を付けているのだろうか。

「それからこの後の主役を呼んである。おれとコラソンの父であるホーミングだ。一応括りとしちゃ一般人に入るから下手な真似はするんじゃねえぞ」

 ドフラミンゴの言葉と共に赤い服を着たホーミング様と付き添うように奥様が会場に入ってくる。とても似合っている。奥様が張り切っていたので、彼女の手作り衣装なのだろう。……普通に売っていそうなレベルの出来だ。

「皆さん改めて。ドフィとロシーがいつもお世話になっています、父のホーミングです」

「フッフ! 世話してるのはおれだぜ?」

 丁寧な言葉遣いで話すホーミング様は健康に良い……。タンチョウは思わず胸をときめかせていた。

 久し振りに会えたからだろう、ドフラミンゴの口角がいつもより柔らかく弧を描いている。ロシナンテも海軍になる、と家を出て以来の再会なので嬉しそうだ。

 挨拶や再会のハグもそこそこに、ドフラミンゴが見取り図を広げる。このアジト内が詳細に書かれたそれには暖炉がある部屋から子ども達が眠る部屋へのルート、万が一子ども達が追い掛けてきたら撒く為の隠し通路……。様々な情報がくまなく書かれていた。これをホーミング様にやらせる気か、とタンチョウがドフラミンゴの方を見ると心配するな都度指示を出すさ、と糸をしゅるりと操る。

「フッフ! フレバンス以来でこの技を使うな」

 操られた糸によりフレバンスで見慣れていた手乗りドフィが作られる。まあ可愛らしい! と奥様が手のひらで掬い上げてマジマジと見つめている。そのフォルムのドフラミンゴはとても愛らしいので気持ちが分かる、声はいつものドフラミンゴだからアンバランスなのもいい。

 手乗りドフィを眺めている奥様を他所に、ドフラミンゴがそれぞれの枕元に置くプレゼントを出させる。ピーカが満を持して、といった様子で白い袋から3つのプレゼントを取り出してみせた。

 それぞれプレゼントにはメッセージカードが付いていて流暢な筆記体で子ども達の名前が書かれている、のだが。

「ローのものがないな」

 セニョールが葉巻を吹かしながら呟く。それぞれデリンジャー、バッファロー、べビー5と書かれているメッセージカードを見る。……確かに、ローのプレゼントがないようだ。ドフラミンゴが任せておけと言っていたのに用意出来なかったのだろうか?

「ああ、それなら問題はない。もう此処に2人共居るからな」

 軽い口調でそう言ってドフラミンゴが指をクイと動かす。四肢が勝手に動き出してドフラミンゴの前に立ち……お手軽に胸元のポケットにリボンを着けられた。すぐ横では同じようにロシナンテがリボンを胴体に巻かれている。

「ローへのプレゼントだが、お前らとの時間が欲しいんだそうだ。まあ確かに幹部である二人を独り占めできる時間なんてないからなァ。フッフッフ、なかなか可愛いところがあるだろう?」

 酷く面白そうに笑みを浮かべたドフラミンゴがドカリとソファに腰掛けて足を組む。その様は非常に整っていて素晴らしいのだが、サンタが居るという話にしたいのではなかっただろうか? ロシナンテをバッと見れば聞いてないと首を横に振っている。でしょうね。

「何、ちょっとした時間だけでいいんだ。父上と一緒に少し行ってこい」

 糸で操られたまま部屋の外に追い出され、すぐにプツリと糸が切れて自由に動けるようになる。行くけれども。……うーん、とロシナンテと二人で顔を見合わせる。ホーミング様はホーミング様で好かれているんだね、そのローという子からとニコニコしている。好かれているのはロシナンテの方だろうな……とこっそり思いながら頷いておく。

 すやすやと眠るべビー5やバッファロー、デリンジャーといった面々の枕元にプレゼントを難なく置いて部屋を出てきたホーミング様。普段からそこまで動くイメージがなかったがドフラミンゴやロシナンテの身体能力を考えると動けるのは当たり前だったのかもしれない……。補助の為に手乗りドフィがホーミング様に指示出しをしていたのだが、それにも楽しそうに従っている。久し振りに頼ってもらえて嬉しかったのだろう。

 ローの部屋の前に来ると、手乗りドフィがストップをかける。

「此処からは二人で行ってこい」

 ホーミング様は部屋に入らないらしい。本当にそれでいいのだろうか?

「ローはサンタが居ないのなんざ百も承知だ。あの後話をしたんでな。居ないことは分かってても信じてる奴にそれを言っちまうのは夢が崩れるってな」

 ローも納得してくれたぜ。と続けて手乗りドフィがスルリと解けてドフラミンゴと同じサイズの影騎糸が現れる。

「さァ早く入ってやれ。いい加減ローも眠くなってそうだ」

 指をくい、と動かしローの部屋の扉を開けてドフラミンゴが促した。

−−−

 ローの部屋にロシナンテと共に入ると、うとうとしかかっていたローがハッと目を開く。

「コラさん、タンチョウさん!」

「あ、こら。夜に大きな声を出したら駄目だぜロー!」

 サイレントと能力を慌てて展開するロシナンテにローが枕元に置いていた2つの小さな包みを持って来る。

「ドフラミンゴに頼んで2人に来てもらったんだ。……ずっとお礼がしたかったけどなかなか2人とこっそり話すことが出来なかったから」

 お礼? とロシナンテと一緒に声がハモる。お礼を言われるようなことはしてなかったと思う。……最近何かあっただろうか。

「……何で2人共気付かないんだよ、フレバンスのことだ。タンチョウさんは薬の治験にも協力してくれてたし、コラさんは電伝虫の連絡を聞いてドフラミンゴとタンチョウさんを連れて来てくれた」

 恩人なんだ、お礼くらい言うだろ。と少しぶっきらぼうにローが包みをそれぞれぐいっと押し付けてくる。落とさないよう2人で受け取るとローが何時も被っている帽子で表情を隠している。ロシナンテと2人で顔を見合わせ、ふ、とどちらからともなく笑みが浮かぶ。

「ロ〜〜〜! ありがとなあ、おれすっげぇ嬉しいぜ! 中身見てもいいか?」

「ありがとう、私もとても嬉しいです。……此方も開けてみても?」

「うわ、っと……好きにしろよ!」

 感極まったロシナンテがローを抱き上げてぐるぐる回っているのを見守りながら自身の包みを開けてみる。中身は……ペンだ、光沢のある黒が上品に光っていて普段使いしやすそうだ。わざわざ名前まで彫ってある。ロシナンテの方はジッポライターだ。以前お気に入りのものを無くしてしまったと嘆いていたのを覚えていたのだろう。ありがとな、ずっと大事にするぜ! とロシナンテがジッポライターを嬉しそうに見つめている。まさかクリスマスに今になってプレゼントを貰うなんて……と少し不思議な気持ちになりながらローにお礼を言う。

「……喜んでもらえたなら良かった」

 小さな声でそう聞こえてきて、今度はロシナンテと2人でローの小さな身体をめいいっぱい抱きしめたのだった。すぐに痛え! と怒られてしまった。

−−−

 翌朝。ローの部屋から大きな声が上がる。何だ何だ、と幹部陣が集まってくるとローが部屋から出てきて知らないプレゼントが増えてる……と猫のように目をまんまるにして大きな箱を抱えて出てきた。それを見てドフラミンゴが小さく肩を震わせて笑い始める。

 あの後、ローの部屋から出て。ローが寝静まった頃を見計らってドフラミンゴが大きな箱を置いていた。何、サプライズだと笑っていたのだが……。

「本当にサンタがいた……?」

 本気で驚いた顔をしているローに今度こそドフラミンゴが大きな声で笑ったのだった。

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