クオンツ全滅、マヌル死亡、人類同士討ちルート
「おい、そいつは俺の獲物だ失せろ」
ドレッドノートは突然の乱入者に苛立ちを隠せず睨みつける。突然の煙でコハクもマヌルも眠ってしまったが、こんな真似が可能な人間はそうはいない。
「俺はコイツを倒すためだけに生きてきたんだ…俺の手で成し遂げないと意味がねぇ…テメェは引っ込んでろ!」
「残念だけど…このクオンツ族は私のものよ、貴方には譲れないわ」
「こんなにも美しく鉱石化させる方法を聞き出すまでは…いえ、聞き出した後も貴方に譲る気は無いわ」
「力は正義でしたっけ…〜〜」
ハイバニアは気持ちよく語り始めるが、この会話のズレにいち早く気づいたのはドレッドノートであった。彼はコハクを倒したい、ハイバニアはクオンツ鉱石が欲しい……これは両立可能であった。
「オイ、一旦落ち着け、俺達が争う意味がねぇだろ」
それを聞いてもハイバニアは鼻で笑う。
「貴方がこのクオンツを殺したら鉱石化の方法が分からないでしょう?その手には乗らないわよ」
「…………他のクオンツには逃げられたのか?」
「捕獲してるわ、でもこの女の鉱石も欲しいのよ」
とんだ強欲っぷりを発揮するハイバニアにドレッドノートはいっそ呆れるが、彼女の要求は元々彼の意思に関わらず通る道理がないのだ。
「あー……これは秘密だったんだがよ、実はその女の鉱石は皇帝が欲しがってる、お前がそう言い出すのは目に見えてたからお前に黙って遂行するつもりだった」
ドレッドノートは皇帝との密約をあっさりと打ち明けた。コハクを自分の手で葬れるなら後の処分など些事であるからだ。
「なんですって……」
対してハイバニアはタバコを握り潰して怒りを露わにする。彼女に中で自分の正義を認めてくれた皇帝への忠誠が一気に反転した瞬間であった。
「だから俺と交渉したところで無駄だ……頭は冷えたか?一旦お前は引っ込んでろ」
ドレッドノートはこの場から離れることを促すが、ハイバニアの怒りは留まる様子は無かった。
「アハハハハハハ!!あの狐男ォ…私をコケにしてくれたわね…!」
怒気の籠もった笑い声と皇帝への怨嗟を吐くと、今度は不気味なほど落ち着いた。
「お、おい…?」
「分かりました、この女のトドメは貴方に譲ります、しかし死体は私がいただきます、邪魔はしないでくださいね?口軽大将殿?」
暗に機密漏洩を黙ってる代わりに死体を寄越せと行っているのだ。もちろんドレッドノートはそれに応じる。彼にとって皇帝の目的など十年後の恵方以上にどうでもいいことだった。
「いいだろう…交渉成立だ、ついでにそこのガキを始末するサービスを付けてくれ」
言われた瞬間、ノータイムでマヌルの首を刎ねてハイバニア肩を怒らせてその場を後にする。その後マヌルの死体を見てコハクは発狂するものの、ブースト切れの体では抵抗もままならずドレッドノートはその手で父親の仇を取ることができた。
――――数日後
「オイ、本気でやる気か?」
「ええ、私を怒らせた報いを受けさせないと」
ハイバニアとドレッドノートは帝国に帰らず、王国で謁見していた。目的はロストヘイヴンの詳細な情報を売りつけることであった。
「こんな戦略兵器を生産していたとは…!しかし、帝国の尉官殿が誠実な方で良かった!」
破格の値段でロストヘイヴンの情報を手に入れた大臣と国王はカモを見る目を隠さず、貼り付いたような笑顔でハイバニア達を称賛した。
「ええ、こんな大量破壊兵器を帝国が独占するなどあってはならないもの」
(皇帝を困らせたいだけだろうが…)
ハイバニアも負けないほど白々しい笑顔を貼り付けて英雄を気取る。その後、大量の報酬を持って帝国へ帰還……はせずに連邦のクオンツの里へとんぼ返りした。
「準備はできてるかしら?」
「勿論ですぜ!ハイバニア様!」
「共和国は不運でしたね…」
「コイントスで裏が出たんだから仕方無い」
親衛隊がハイバニアを受け入れる。他の雑兵達も、ここまできたら一蓮托生としてなにやらせっせと働いていた。
「ハイバニア様!ロストヘイヴンが共和国の迎撃を受けています!また、戦艦のブリッジに帝国からの通信が何度も送られております!」
雑兵の1人が報告をする。今、かの戦艦は無人操作で意気揚々と帝国の紋章が入った旗を翻しながら、共和国に侵攻していたのだ。
「頃合いね…」
「それは…!」
ハイバニアは丸い装置を取り出して魔力を込める。何を目論んでいるか察したドレッドノートは驚きを超えて笑いがこみ上げる。
「…ハッ!皇帝も俺も、お前を見くびりすぎていたようだぜ」
「全くよ、私から宝石を奪おうなんて身の程知らずなんだから」
ハイバニアが言い切った瞬間、共和国内でロストヘイヴンが最大出力で発射された。放たれた光線は凄まじい威力で国土を焼き貫きながら帝国領にまで到達、両国に甚大な被害を発生させる。
「まだよ…まだまだぁ!!」
「おい、それ以上は…」
本来はもう照射停止するべきだが、ハイバニアはそうはしない。限界を超えたロストヘイヴンは魔力暴走を起こし、凄まじい爆発を誘発した。
その爆発の光景は魔法を使えばクオンツの里からでも少し見えるレベルであった。
「お前…マジかよ…」
「ん〜完璧ね♪」
上機嫌なハイバニアに雑兵が何やら箱を持ってきた。
「ハイバニア様!今帝国から帰ってきた者共から物資が届きました!ハイバニア様のコレクションがこの箱になります!」
そう、自分の手勢を別働隊として堂々と帝国へ帰還させて物資や宝石を事前に運ばせていたのである。
「ちゃっかり自分のモンは全部手の内にしてやがる…良い死に方しねぇぞ」
「あら、私は欲張りだから全部手に入れてないと気が済まないのよ?死に方だって最高のものになるわ…超越者様も味方になったことだしね」
「俺も立派なお尋ね者ってことか…精々俺達を率いてくれよ、少尉殿…いや、族長殿」
後にドレッドノートの乱と呼ばれる史上最悪の"自爆テロ"は、人類の深刻な分断を招き、魔族をも巻き込んで世界を混沌に陥れる。
その戦争において、珍しい宝石を報酬にあらゆる任務を遂行する傭兵団の伝説が生まれるがこれはまた別のお話。