クイーンと化け物海賊団
船に取り付ける新しい砲台を弄りながら、クイーンは少し離れたところにいる黒ずくめの男に視線を投げた。
白い髪、褐色の肌、それらが全て露出している。この船に乗る前は、あいつは今よりも全身を黒で包んでいた。
いや、正確には乗ってからもしばらくはそうだった。だがエニエスロビーを出た頃には船内で仮面をつけることは無くなっていた。クイーンはそれを揶揄いつつも、内心嬉しいような気持ちも抱いていた。あいつには絶対に言わないが。あと、暑苦しくないのもいい。灼熱の太陽の下で真っ黒な男が隣にいるのは堪える。おれがまる焦げになる。
ガシャンと金属がぶつかる音がして外の騒ぎ声が大きくなった。どうやら三馬鹿どもがまた喧嘩をしているらしい。今度は何が原因なのかクイーンはいくつか候補を出してみた。誰が1番強いか、誰が1番速いか、誰が1番頭がいいか…。
「おれが1番寝んのが早ェに決まってんだろ!!」
ルフィの声に思わずクイーンはずっこけた。どんな喧嘩だよアホ。
「バカ言え!おれが1番早ェんだよ!!」
「なら勝負でもするかユースタス屋。3人同時に寝る、それでこの話には決着が着くぞ。まあおれが1番早いがな」
上等だ!かかってこい!とローの言葉にルフィとキッドが答えると途端外の喧騒は止んだ。寝たのかよ。
ふうと一息を吐いて肩を鳴らす。天才科学者のおれもコン詰めて機械をいじっていると少しは疲れる。
ジャッジの倅にコーヒーでももらおうか。料理をするだけでなく洗濯をしたり、掃除をしたり、たまに散歩がてら空を駆けていたりと色んなところにいるやつだが、厨房にいるだろうか。道具を脇に寄せ立ちあがろうとしたクイーンに大きな影が被さった。
「それは新しい砲台か」
「カイドウさん!」
眉間に皺を刻んだカイドウがクイーンの背後から砲台を覗き込む。
「いいじゃねェか。雑魚どもはそいつで十分だな」
ふ、と唇を釣り上げたカイドウにクイーンは胸を躍らせた。
今日はいい日だ。
「サンジのやつなら厨房にいるぜ。酒とつまみを貰いに行ったが追い返された」
メシのことではジャッジの倅に敵わないらしいカイドウにクイーンは思わず笑いを漏らした。
カイドウはそれに何も言わずのしのしと音を立てて甲板へと歩いていった。
「おいサンジ、コーヒーくれ」
「ったくしゃあねェな。待ってろ」
クイーンをちらりと見てサンジはすぐにカップを取り出す。
カウンターではビッグマムが巨大を丸めて何かをちまちまと作っていた。
背後のソファではゾロが大口を開けて寝こけている。
「何やってんだ」
ビッグマムの隣に腰掛けると、意外とちゃんとした形の餃子が並べられているのが目に飛び込んできた。
「餃子を作ってんだよ。今日は餃子パーティらしいからねェ」
メシのこととなるとこの化け物ババアはやけに協力的だ。WCIの一件の時はどうなることかと思ったが、サンジとも相変わらず仲がいい。
「お!見てみなサンジ、こいつは上手くできたよ。おれの自信作だ!!」
心底嬉しそうに餃子を掲げたビッグマムは子供のように楽しそうだ。
「おお、すげェな!それはビッグマム、あんたが食べるといい。別に取っとくよ」
クイーンにコーヒーを差し出しながらカラカラと笑うサンジも実に楽しそうだ。
平和。この船の面子からは想像もつかないくらいこの船は平和そのものだ。
「おいぐる眉、酒」
ガリガリと頭をかきながらゾロがクイーンの隣に腰掛ける。昼寝から目を覚ましたらしい。
「後少し我慢しろクソマリモ。もうすぐメシなんだ」
「つまみは」
「ある。ったくカイドウのおっさんと同じこと言ってんな。酒飲みは考えることも似んのかね」
「餃子か」
クイーンが入ってきた扉からキングが姿を現す。
「ああ。焼くのは食べる時な」
「そうか。おいクズ、焦がすなよ」
「焦がすか!!てめェこそその炎でまる焦げにすんなよ!」
流れるように噛みついてきたキングのやつに負けじと答える。
「いつも喧嘩してよく飽きねェな」
「「お前らもな!!」」
ブーメランすぎるゾロの言葉に思わずハモって突っ込んでしまう。
「仲良いねェ」
ビッグマムは豪快に笑うと最後の一つを机に置いた。
「完成だよサンジ!」
「ありがとう、助かったぜ」
テーブルに料理を並べ終えた、ふきんで手を拭ったサンジは甲板へと続く扉に手をかける。
騒がしい船の最も騒がしいメシの時間だ。
食いっぱぐれないように気をつけよう。