ギルガメッシュ✖️伊織
後ろから手が伸ばされる気配がした。
敵意も害意も感じなかったため何も言わずにいると、意外なことにその手は伊織の首筋をするりと撫でた。別に、首に触れられることは意外ではない。人体を制するために首を抑えることは当然のことだ。特に違和感も持たずにそのまま待っていると、首の付け根で手は止まった。しばらくしても動き出す気配はない。不思議に思って、伊織は背後に座る男に尋ねた。
「どうした?」
「いやそれは我のセリフだが…」
せりふ?と疑問符を飛ばせば、言葉という意味だ、と説明が返ってくる。そうかと納得してそれきりの伊織に、ギルガメッシュはため息を吐いた。
「貴様、この状況に何も思わんのか」
その言葉に、伊織はしばし思考する。
刻は昼と夜の境。場所は巴比倫弐屋の奥座敷。セイバーは師匠、もといバーサーカーと共に祭りに行っており、ここには伊織とルーラーが二人だけ。何をするでもなく、時の移ろいに身を任せている。
ここまで考えて、伊織は後ろを見向きもせずに答えた。
「いや、特に」
「…我が貴様の肌に触れていることを加味した上で、か?」
それは暇つぶし以上の意味を伴うのか?と聞きそうになり、伊織はなんとか口を閉じる。下手に意図を決めつけると、この男は酷く機嫌が悪くなるのだ。正直かなり面倒くさい。だから、少し切り口を変えて言葉を返した。
「殺し合うというわけでもなしに、警戒する必要が見出せない」
「まさか情緒は幼子のそれか貴様」
呆れを多分に含んだ口調に、さすがに反論しようと伊織は体を捻って振り返る。振り返ろうとした。
気がついたら、伊織の背は畳につき、その頭上にはギルガメッシュの顔があった。それを数秒見つめた後、小首を傾げて伊織は問う。
「…殺したくなったのか?」
「…一応聞いてやろう。なぜそうなる」
「逆にそれ以外があるのか」
ないだろう、と言わんばかりに伊織は断言する。
今この時は聖杯戦争、その最中。伊織はセイバーのマスターで、ギルガメッシュはルーラーだ。裁定者が不用意に参加者に手を下すことはないだろうが、それも絶対とは言い切れない。ならばこの状況も、その例外の内と考えると納得がいく。
伊織は素早く頭を回す。膂力では負ける。速さも、手数も、地の利も何もかもあちらが上だ。令呪でセイバーを呼ぶより早くに、こちらの首が落ちるだろう。さて、どうしたものか。
いつもと変わらぬ表情の伊織にギルガメッシュは再度息を吐く。雰囲気作りはもう無理だろう。そもそも、自分がその気になったから誘いをかけただけだ。別に断られてもやるつもりだったし。
「分かった、もういい」
「何がだ」
「殺しはしない。端からそんなつもりではないわ、たわけ」
「そうか、なら退いてくれ」
「それはならん」
ギルガメッシュの返事を聞いた瞬間、伊織の顔に面倒の文字がはっきりと見えた。こういうときだけ、この男の表情は動くのだ。
これ以上問答をしても意味がないと、ギルガメッシュはさっさと伊織の袴の紐を解く。反射で手が出た伊織の右手を絡め取り、ついでに左手も纏めて畳に押し付けた。そのまま着物の前をはだけさせ、体の線をなぞるように右手を侵入させる。ここまでやっても伊織の顔には驚愕以外の感情が乗らない。想像よりもつまらないかもしれんな、と思いながら、ギルガメッシュは伊織の首筋に舌を這わせた。
「…ッッ!……いや、なにを」
「しているのかと、今聞くのか。遅いわ」
漸く返ってきた反応に気をよくしつつ、足を股に差し込み、やわやわと押し込んでやる。何か言おうとしていた口は、自身の口で塞いだ。
舌を口内に入れ、相手の舌を絡め取る。歯列をなぞり、上顎を擦り、唾液を流し込んでやれば、少し遅れてこくりと飲み込む音がした。顔をわざとゆっくりと離す。二人の間を銀の糸が伝い、ふつりと途切れた。
さてどんなものかと伊織の顔に目をやれば、それはもう見事なまでに——
「——そういうことなら吉原に行け。手近な者で済まそうとするな」
先ほどと一切変わっていなかった。なんだこいつ。
さすがにギルガメッシュも嫌そうな顔になり、その思いのままに文句を言う。
「ここまできてそう言うか。情緒がないにも程があろう」
「ここまでくるも何も、俺は相手をするとは言っていない。それに吉原での方が、ずっといい思いができるのでは?あちらは本職だぞ。金なら持っているのだろう」
余りに冷めた物言いに、ギルガメッシュの呆れと苛立ちは一周した。一周した結果、気まぐれが本気になり変わった。
成程成程、そうまでして歯牙にもかけず、か。いいだろう、そういうことならば——
「ならば、貴様を思う存分鳴かせてやろう、雑種」
「なぜそうなる」
「なぁに、光栄に思うが良い。我自ら貴様に悦楽を味わわせ、この玉体に触れる幸福に浸らせてやるのだから」
「成程、話を聞いていないなルーラー?」
そうこう言っているうちにも、伊織の前は完全に露わになり、袴はあっさりと脱がされていく。褌を解かれる段になって、漸く朴念仁は思い至る。
(…この状況、もしかしてかなり不味いか?)
もしかしなくて不味いのである。かなりどころか破茶滅茶にである。
そしてそれを伝えるものはここにはおらず、伊織に抵抗する術は始めからない。
「安心しろ。どうせ女役の経験はないだろうが、善くはしてやる。——女を抱かなくなっても、文句は聞かんぞ」
ギルガメッシュの指が鍛え上げられた腹筋をなぞる。ざわりとした感が伊織の背筋を走って消えた。
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「フッ……ウア“、グ」
「声を抑えるな。色気はさしてないが、堪えるよりはずっと良い」
「………ッ」
「息を止めるな、たわけ」
袴の紐で括られた手が、行き場のない快楽で握りしめられる。この行為に一切の乗り気はないが、魔羅を弄られれば男は誰でもこうなる。それはしょうがない。だが同時に後ろを解そうとするのはやめて欲しかった。いや前を弄られるのも嫌なのだが。どこからか取り出した香油をまぶして、指がもう二本は伊織の中に入っている。正直わけが分からない。
快楽と痛みが絶えず襲い来り、伊織は苦悶の声を漏らす。閉じられたままの目と口に、ギルガメッシュはつまらなそうな顔をする。まあだからといってやめる気もなく、そのまま指を動かしていく。そうして見つけたお目当てのものを、ギルガメッシュは無遠慮に押した。
「ぅあっっ⁈」
伊織の腰が跳ね、目が大きく見開かれた。今までと違う、経験したことのない感覚に脳が震えた。ギルガメッシュは愉しげに笑い、愉快そうに声をかける。
「どうした。耐え忍ぶ時間はもう終わりが?」
「ふざけっ、今のは、なんだ」
「我が慣らしてやっているという慈悲に感謝しろ、雑種。本来ならばここまでせぬ」
隠れていたしこりをつまみ、撫でて押しつぶす。ギルガメッシュの指が動く度、伊織の体は悦に震えた。
「待て、少し待っゥフア、ハッ」
「言葉は最後まできちんと話せ」
「アッハアァァッッから、待て、と言ってっっ」
「聞く理由がないな」
絞り出した言葉を一蹴され、最悪だと頭の中で悪態をつく。口を開けば霰もない声しか出てこない。自分の体がどうなっているのかも分からない。さっきまでの痛みの方がずっとましで、もうどうすればいいのかも分からなかった。
ギルガメッシュはギルガメッシュで、思わぬ反応に驚いていた。初めてにしては反応が良すぎないか?もう一種の才能でいいだろうこれは。
伊織を鳴かせる、という目的にはだいぶ余裕ができそうで、ギルガメッシュはその麗しい貌に笑みをのせる。これならば、こちらも存分に楽しんでやれそうだ。
もう一度唇を合わせ、今度は容赦なく口内を蹂躙する。漏れ聞こえる嬌声を聞きつつ、ギルガメッシュは伊織の髪結をするりと解いた。