キヴォトス噂話『人の言葉を喋るゾイド』
最近、キヴォトスではまことしやかに囁かれる噂がある。
それは、百鬼夜行のとある場所にある霧が深く迷いやすい森に
『人の言葉を喋るゾイド』
がいるというものだ。噂によると、そのゾイドは
『大きな背びれがある』
『トゲトゲしている』
『白くてとても大きい』
『流暢なやさしい口調で話してた』
『ちょっと怖い話し方をする』
『カタコトで子供っぽい喋り方』
など、様々な姿や話し方をすると語られているが、不思議と共通している部分がある。それは
『骨のような姿をしている』
『森で迷った人を森の外へ案内してくれる』
という点だ。
極稀にゾイドの言葉をおぼろげに理解できる人もいるが、人の言葉を話すゾイドは前例がなく、さらには道案内をしてくれるなど、なんとも不可思議なゾイドである。
そしてどういうわけか荒唐無稽なこの噂
『百鬼夜行連合学院の百花繚乱紛争調停委員会や陰陽部が詳しく調査をしている』
なんて話まであがっているらしい。
そんな『人の言葉を喋るゾイド』の噂が広まるキヴォトスのある日、件の森に生徒が迷い込んだ。
「カブター?あれ……?ここどこ〜〜!?」
百鬼夜行連合学院の勇美カエデだ。
彼女は森の入口付近で遊んでいたところ、カブターの亜種であるカブターヘラクレスを見かけ……
「珍しいカブター!?待て〜!」
と、それを捕まえようと追いかけてしまい、知らず知らずのうちに森の奥深くへと入り込んでしまったのだ。
カブターヘラクレスを見失った彼女が辺りを見渡すと、霧深い鬱蒼とした森は不気味な雰囲気を醸し出し、否応なく不安な気持ちにさせてくる。
「うーん……あっ!こういう時は信号弾で……あれ?」
不運なことに、何かあった時に救難信号として使おうとカエデが持っていた信号弾は、カブターヘラクレスを夢中で追いかけている最中に落としてしまっていた。
「うー……えっと、あっちから来たんだよね?」
このまま立ち止まっていても仕方がない。
そう考えた彼女がもともと来た道だと思われる方向を向いて歩き出そうとした瞬間、森の奥から枝が折れる音と何か大きな存在の足音が聞こえ、どんどん近づいてくる。
「ど……どうしよう……」
こんな森の奥深くに人が乗ったゾイドが現れるとはあまり考えられず、彼女はそれが野生か野良のゾイドであると直感する。
森で迷子のただでさえ不安な状況、得体のしれないゾイドが迫りくる恐怖から身が竦んで動けなくなった彼女の前に現れたのは、――骸骨のような姿をした大型ゾイドだった。
「ひっ……!」
その恐ろしい姿を見た彼女は今にも泣きそうになり、へたり込んでしまう。だが、恐怖で震える彼女が目にしたものは……
〈ダイジョウブ〜……?〉
彼女へと目線を合わせ、カタコトながらも喋りかけてくる不思議なゾイドの姿であった
――彼女が出会ったのは、噂の『人の言葉を喋るゾイド』だったのだ。
「ゾイドが……喋っ……!?」
限界に近い恐怖、普通では考えられない存在の出現、それは彼女の脳をパニックに陥らせ
「う〜ん……」
気を失わせるには十分すぎる衝撃であった。
〈エッ……ダ……ジ……!?〉
気を失う直前、彼女のぼやけた視界に映ったものは、
〈何……やっ……〉
〈運……ま……しょう〉
三体に増えていた喋るゾイドの姿だった。
――その後、カエデは自分が森の入口付近で眠ってしまっていたことに気づく。
「んぅ……?あれ?」
先ほど森に迷い込んだことや、喋るゾイドとの遭遇は夢を見ていただけなのか?
そう思う彼女だが、カブターヘラクレスを追いかけ森の中を走ったせいでついた汚れや疲労感、そしてリアルに耳に残るゾイドの声がそれが夢ではないと告げている。
「う〜ん……?」
不思議なゾイドとの遭遇について考え込んでいるが、時刻はもう夕暮れだ。そろそろ帰らないと心配されるだろう。
「……そうだ!帰ったらミモリ先輩とツバキ先輩に聞いてみよ!」
このまま一人で考えていてもなにもわからない。ならば、先輩たちや友人たちに聞いてみたほうが何かわかるかもしれない。思い立った彼女は足早に帰路へとつく。
――そして、カエデの不思議な体験の話は先輩や友人たちの間で話題となり、『人の言葉を喋るゾイド』の噂はさらに広まっていった。
〈アノコ、ダイジョウブダッタカナ……〉
〈元気な子でしたし大丈夫でしょう〉
〈気にしすぎだ〉
――
マザーバイオ・バイオスピノ・バイオゾイド死神
ゾイドジェネレイションズの後日談のあったゾイドサーガオンラインで言語能力を得て人の言葉を話すことができた特殊なバイオゾイドの三体
出生的にみんな野良ではなく野生体にあたる