キラー×ゾロ
どんちゃんと陽気な音が響き、様々な声が重なり合っては人混みに混じって消えていく。麦わら帽子を被ったあの男がカイドウを倒してから、国全体に巻き付いていた龍の支配はなくなり、まるで人々の喜びだけがこの国を包んでいるように思えた。
メイン通りから少し外れたところで地べたに座り、酒を片手にずず、と焼きそばを啜る。どおんと音が鳴って遠くで本日二度目の花火が上がったのが見えた。キラーはきっとまだあの男に巻き込まれているのだろう相棒が目に見えるようで、少しだけ笑みを溢した。
「よお」
見知った声にそちらを向くと、隻眼の男が立っていた。
「酒、呑んでんのか」
男は近くまで来てどかり、と座ると左手に持っていた酒を見て、くれと言う。確かにこの酒は船員から譲り受けたため、恐らく良い物ではあるのだろう。だが、出国すれば命を狙い狙われる敵だというのに、やはりこの一味には緊張感がないのだろうか。
「ファッファッファッ、本当に酒好きなんだな。起きた瞬間浴びるように呑んでいた、と聞いたが?」
「それとこれとは別なんだよ。で、くれんのか?」
男はむっとした顔をすると、餌を傲慢にねだる猫のようにこちらを見る。その態度にしょうがねェな、と笑って瓶ごと渡すと、おお、と男が声をあげた。
「なんだ、いらなかったか?」
「そんなわけねーだろ。ただ、まさかなんの代償も無しにくれるとは思ってなかったからな」
「じゃあ何か用意してきていたのか?」
「おう」
こんな男が何かを用意する、というのは中々興味深い。
「題して、“俺と全力で戦わせてやる”権だ」
「…ほお?」
小さい子供が母の日にプレゼントする権のような安直な名前だが、果たしてどんなものなのだろうか。
「お前、屋上で戦ってたとき“全力じゃなかった”みてーなこと言ってたよな?」
「ああ。言ったな」
一度ゾロと戦ったとき、己の使う武器は手に馴染んだパニッシャーではなく、異国の「鎌」という武器であった。
「だよな。だから次戦うとき、てめーは絶対全力で来いよ。俺もあん時は邪魔が入ったからな。そんときゃ本気でてめーの斬撃を受けてやる」
どうだ?とまるで綺麗な石を見つけた子供の様に得意気に話す。でも、まあ、確かに悪くない話である。
「分かった。乗ってやる」
「そうこなくちゃな!んじゃ、酒は貰うぜ」
先程までキラー自身が飲んでいたのも気にせず、男はぐびぐびと瓶を傾けて酒を喉へと流し込む。
「…俺たちかお前らか、どちらかが先に死ぬ、なんてことがあったら?」
「…んや、俺たちゃ死ぬつもりもねえし、お前らもそんな簡単に死ぬタマじゃねえだろ…まあ、そうだな…そんときゃ地獄で戦りあおうぜ」
「ファッファッファッ…!」
やはり、この男は海賊だ。
どれほど子供の様に見えたことがあったとしても、生粋の海賊には変わりない。だが、自分はそんな男だからこそ、気に入っている。
「このまま手放すにゃ惜しい様な気もするがな」
「あ?なんか言ったか?」
こういうところも、気に入っている一つの理由である。
「いいや、何も」
「ふーん、そんならいーけど、よっ」
そう言っていつのまにか飲み干したのか、男が立ち上がる。
「んじゃ、“約束”な」
「…ああ、約束する」
海賊同士の約束って、なんか変か?といっていたずらっぽく笑った顔が。
とても綺麗に見えて。
「ん?」
立ち上がった自分をなんの警戒もなく見つめる男に、マスクを取ってそっと唇を重ねた。
「悪いな、俺も海賊なもんで」
“約束”くらいじゃ物足りないのだ。
「じゃあな、海賊狩り」
そういって去ってしまったキラーは、ゾロの顔が祭りの提灯にも負けないほど紅く染まっていることを知らない。