キャプテン

キャプテン

一二一


膝を抱え、震えている男を発見したのはベポだった。後ろにいるキャプテンを振り返る。いたのか?とアイコンタクトされたので静かに頷いた。ベポは身体の向きを戻すと、ゆっくりと目線を合わせるためにしゃがみ込む。顔はまだよく見えないがペンギンの言っていた通り、指や手の甲にあるタトゥーも髪の色も、どこからどう見てもキャプテン本人にしか見えなかった。

ただ右腕がない以外は───。


「怪我をしてるってペンギンから聞いて…探してて……あの…キャプテン?」

「…………………………ベポ」


ペポの名を呼ぶその声は、今まで聞いたことがないような絶望を滲ませた声だった。男の伏せていた顔を見たとき、ベポは思わず涙が零れ落ちそうだった。だって、こんな深く澱んだ眼をしたキャプテンを見たことがない。こんな今にも死んでしまいそうな眼でベポを見るローなんて見たことがなかったのだ。

キャプテンではない、というのはわかってる。だってベポの慕うキャプテンはこの部屋に入る時も一緒にいたのだから。それでもキャプテンと全く同じ姿をしている男を放っておくことなんて出来るはずがなかった。思わず手を伸ばして、抱き締める。男は無抵抗だった。まるで、安心しきっているかのようにベポへと身体を預けてくる。


「ベポ」

「ッキャプテン! このキャプ、いやこの人……怪我を、してるみたいで……怪しいのはわかってるんだけど、でも…ッ!」


いつの間にかベポの背後にいたローは、ベポに抱き締められた男を見る。服は綺麗だが、一眼見て酷い環境にいたのがわかった。ボサボサの髪に、肌の見える場所にある幾つもの傷。そして何より目を引くのが存在しない右腕。ロー自身、こうなっててもおかしくなかった。一度斬り落とされた腕がこうして繋がっているのは、ドレスローザの小人達のおかげだ。彼らの能力がなければ同じように右腕がなかったかもしれないのだから。

しかしわからないのが、近くに落ちているナイフとシャツに滲む血だ。ナイフに付着している血を見るに、この倉庫に来てから自傷しているという事になる。何故そんなことを? とりあえず、こんな場所では落ち着いて話も出来ない。


「ベポ……わかったから、そんな顔するな。“ROOM”  ”スキャン“!!」


傷の状態を把握しようと、ローは能力を使って男をスキャンする。男は服の下も夥しい数の傷を負っていた。まるで長期間拷問でもされたかのようで、特に酷いのは胸の中心と背中だ。何度も何度も同じ箇所に執拗に傷を負わされていて、治り切っていない状態で放置されている。震えているのはこの傷の発熱も原因の一つだろう。


「……ベポ、そいつを今すぐ医務室に連れて来い。シャチ、ペンギン…お前らも付いててやれ」

「「「ア…アイアイ、キャプテン!」」」


あんな状態では敵船の送り込んだスパイという線はないだろう。向かってきたとしてもいつでも返り討ちにできる。わからないのが、あの容姿だ。ローと全く同じ姿をしている理由。世界には自分と似ている人間が三人はいるというが、あれは似ているというレベルではなかった。タトゥーも、声も。ペンギンとベポの名前を知っていることも。謎なことばかりだが、あの男から話を聞けばわかることだろうとローは先に医務室へと歩き始めた。


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