キミが好きだからに決まってる

キミが好きだからに決まってる


『…俺、生きてていいのかな』


あの日、出会ったキミは昏い目で僕にそう告げた。

別の場所から連れてこられたキミはひどく傷だらけで、いつも他の子たちから離れていた。


『ねぇ、』

『…またキミか』


同年代の中で、キミは誰よりも落ち着いていて。

同年代から勝手にボスに押し上げられた僕を何も言わず受け入れてくれた。話を、聞いてくれた。


『…あぁ、キミか』


そうして。

大きくなったキミは、気づけば遠い場所にいた。

誰もキミに敵わない。

女の子も、男の子も、年下も、同年代も、年上も。

たった一頭、孤独に、頂点に座していた。

孤独な王様。

お姫様なんて可愛いものじゃなく、女帝、なんて言葉も似合わないほど強い。

いつしか​──『蹂躙者』と呼ばれるようになったキミを僕はずっと傍で、近くで、見てきていた。


『……キミが、いてくれて、よかった』


静かで、凪いだ眼が僕を見る。

走り終わったあとの熱い体が、別の意味で熱くなる。


『キミがいてくれたから、俺は、走ることが楽しかった』


心の中に浮かぶのは『歓喜』、その一言に尽きる。

キミは、ずっと僕を見ていないと思っていた。

僕だけが、ずっとキミを見ていたんだと。

いつか見てもらえればいいって、慰めていた心に急激な熱が灯されていく。

キミは僕を見てくれていたんだ。

僕だけの、独りよがりではなかったんだ。

それが嬉しかった。

…けど、


『…久しいな』


いっぱい走って、やっと再会したキミは出会った時と同じくらい、いや、それ以上に傷だらけで。

近づくだけで怯えたようにビクリと震える体に、僕は…。


『…いいよ。お前も好きな風にすればいい。

俺のこと、嫌いだろう?ずっとずっと、お前を負かしていた存在を好きにできるんだ。…好きにしてくれ』


諦めきった声が鼓膜を打つ。

諦めきって、身を捧げるキミを僕は細心の注意をもって扱った。

キミは『もっとひどくしていい』と何度も言って来たけれど『僕がそうしたいんだ』とその度に言えばいつしか大人しくなって、


『大丈夫?痛くなかったかい?』

『う、うん…』

『なら良かった』


終わったあと、『よく頑張ったね』と言ってあげるととても困惑した顔をされる。


『な、なんで俺に、優しくするの…?』


ビクビクオドオドして、ひとつひとつ言葉を選んで、こちらの機嫌を損ねないように気を使っているキミに悲しくなる。


『なんでって、そりゃあ…』


*****


俺:

元ヒトミミ♂現牝馬。

ヒトミミ時代に絶望してあぼんしたら、馬として産まれた場所で虐待されて育ち、基本傍に同族を寄らせなくなる。が幼なじみだけは別だった模様。

競走馬時代は生涯牡牝混合戦に突っ込まれ、落鉄等のアクシデントさえ無ければ基本周りをボコボコにしていた。

しかし繁殖牝馬になった途端、相手した種牡馬たち(過去自分が負かした馬+俺の無反応具合が気に入らない馬)からDVされるようになりボロボロになっていく。

が、ボロボロになってもヒトミミがそう望むから…と健気に繁殖牝馬を続けていたところで幼なじみと再会。

で、やっとこさ子どもが出来、名牝 √ に乗っていくようになるし、自他ともに認める幼なじみの正妻になる。

実は唯一自分に優しくしてくれる幼なじみに依存しているかもしれない。



幼なじみ:

薄幸だけどクソ強幼なじみ牝馬な俺にずっと恋慕してた。

俺が引退するまではずっと俺の2着で、俺の引退後に『自分をちゃんと見てくれていた俺に見合う男になるぞ!』と奮起した結果、俺に見劣りしない男になった。

しかし再会した俺がまた薄幸してて心痛…ってなった。

僕が幸せにしてあげるからね…!

最終的には俺を正妻にすることに成功する。

なお俺が依存してきたとしても『いい子にするから捨てないで』タイプの依存なので喜んでヨシヨシしてあげる模様。

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