キッドの過去鑑賞会【幼少期編】
【三船長の過去鑑賞会―キッド幼少期編】
座りながらキッドの船員たちは(4人を除いて)複雑な感情を抱いていた。確かに船長であるキッドの過去を見たいような気持ちもあるが…あのスピーカーが流れていた時間のキッドの無表情に近い怒りの顔には見られたくないという意思を感じたのだ。
「おー!?映ったああ」
しかしそんな船員の気持ちを構わず映写機がくるくる音を立てて映画を映し出す…やがて映像は鮮明に映し出され始めた。
***
ガチャガチャ カンカン 鉄を打つ音が辺りに鳴り響く。
南の海のとある島である少年はロボット作りの真っ最中だった。
「おーいキラー!今までで一番カッケェの出来たぞ!」
キラーと呼ばれた前髪の長い少年が振り向くと満面の笑みで油まみれの手でロボットを掴んだ少年がいた。
「おー…確かに今までで一番でかいなお前はすごいなキッド」
「だろっ!?ゴミかき集めるのはダリィけど集めた甲斐あったぜ!」
そう語る少年はのちの大海賊 ユースタス"キャプテン"キッドだった。
「よーしキラー!今からドルヤナイカにも見せに行ってくんな!」
「ヴィクトリアに?お前ホントにあいつのこと好きだな」
「はぁ!?ちげぇよ!!!あいつが見たいだろうから見せてやりにいくだけだわ!」
(あいつのことを俺が好き!?あんな強気な女好みじゃねぇし!)
心の中で愚痴りながらキッドはドルヤナイカのいつもいる廃家に走り出した。
「おーいドルヤナイカあああ!居るか!?」
「あぁ!?うっせぇな!なんの用だよ!」
キッドの大声に耳を塞ぎながらしかめ面で出て来たのはミディアムロングのクリーム色の髪にそばかすが特徴的な少女だった。
「見ろ!!新しいロボだ!前見せたのより色々すげぇんだぜ!?」
「…へぇ、、なにが変わったんだ?」
(やった!珍しく食いついた!)
「まずこのロボ持ってこのボタン押して見ろよ」
キッドはドルヤナイカにロボットを渡すドルヤナイカが赤いスイッチを押すとロボットは腕や足を上下させ動き出した。キッドは満足そうにその様子を眺めていたがそのロボットは動き出すたびに油が飛び、停止するころにはドルヤナイカの服には結構な量の油がかかってしまっていた。
「な!!?今回のは動くようになったんだぜ!」
そんなことは気にもとめていないキッドは無邪気な顔で目を輝かせながらドルヤナイカの反応を伺う。
バチィィィン!次の瞬間強烈なビンタがキッドの顔へヒットした。
「!!??な!?なにすんだお前!」
「キッドてめぇ…油飛んだらやないかワレ!!」
ドルヤナイカは服を指しながら叫ぶ。
「はぁ!?そんなことで殴ってくんな!ぶっ飛ばすぞ!」
「殴りてぇのはこっちだわ!」
二人の殴り合いを遠くから眺めるキラーはやれやれとため息をついたのだった。
「…で仲直りする方法を考えてほしいって訳か」
「…あぁ」
殴り合いの中で売り言葉に買い言葉で
『もうお前とは口聞かねぇからな!』
『それはこっちのセリフだからな!いつもお前から絡んでくんだろうが!!』
その後口を聞かなくなって1日も経たないうちにキッドは限界を迎えていた。
(くっそ…謝りてぇのにあいつ話しかけても無視してきやがる…)
ドルヤナイカに嫌われてしまった…たったそれだけなのにキッドの心は泣きたいくらい乱れていた。
「…たしかヴィクトリアはカレーうどん好きだったよな?俺も好きだから材料は常に基地にある。作って食べて貰えばいいんじゃないか?」
「…!!あぁそうだな!流石キラーだ!早速行こうぜ」
(まったく切り替えが早いなこいつは…)
さっきまでのしおらしい表情からのあまりの切り替えの速さに呆れながらも相棒でもあるが弟感の強いキッドを眺めキラーは微笑んだ。
ガラガラガラッ キッドが扉を開けて"基地"にはいる。
キラーと二人で住む倉庫を改造したその家の棚には確かにカレーうどんの材料が揃えられていた他にも山盛りの果物やパンなどもある。
「(あいつ絶対食材盗んできたな足りないものあったら俺も盗むか)よよしっ!作るぞ!!」
そう言って料理に取り掛かる。キッドとキラーは生きるためにある程度の調理の知識はあるため切る、煮るなどの基本的なことはできた。ただ、切る作業はキラーの方が数段上手い。
「キッド、俺も手伝うか?」
「じゃあ野菜切んのは任せたぜ」
そんなこんなで少し歪だがカレーうどんを二人は完成させた。
(うっ…なんで緊張してんだ俺は…!)
無事にカレーうどんを作り終えたキッドはキラーと一緒にドルヤナイカの住む廃家の前まで来た。
「入らないのか?」
「今から入んだから急かすな!」
「…おいお前ら、人の家の前でなにやってんだよ」
!!?
背後から突然現れたドルヤナイカに二人は文字通り飛び上がる。
「用がないならどけキラー!」
「待て!ドルヤナイカ!…昨日はその…わ、、悪かった…これお詫びに作って来たんだが、、貰ってくれねぇか?」
珍しく素直に謝るキッドにドルヤナイカは目を丸くする。
「………」
(くっそなんで無言なんだよ!やっぱり俺のこともうあいつはー)
「ふっ、、、あっははははは!」
「は、、え、なんだよ!何がおかしい!」
「…はーぁ笑った!あんたそんなに私と仲直りしたかったん!?口聞かないは冗談だしな1日だけの」
「なっ!それじゃあこんな物作った俺らが馬鹿みてぇじゃねぇか!!」
「違いない」
「はぁ?それは食うぞ?皿出すからさっさとつげ」
「命令すんな!」
「まぁ落ち着けキッド。仲直りできてよかったじゃねぇか」
軽口を叩きながらも三人分のカレーうどんをキッドは皿に注いだ。
「さきにお前らが食べろ」
「別にいいが…なんでだ?」
「毒味に決まってんだろ!」
「ぶっ飛ばすぞ!!」
しかしさっきまでの喧嘩状態だったせいかキッドはドルヤナイカにあまり強く当たらずキッドと一緒に食べ始めた。
ずるずるっ ずずっ!二人はお腹が空いていたのもありどんどんカレーうどんを食べすすめている。
しかし二人の食べ方は大人に上手なすすりかたなどは勿論教わっていないため食べ方が大分汚かった。やがて飛んだ汁がドルヤナイカの服に一気に着いてしまい気付いたキラーが
「おいキッド!食べるのをやめろ!」
と止めるがすでに遅い。
「おいお前ら…しる飛んどるやないかワレ!!!」
またもキッド、そしてキラーまでも猛烈なビンタを食らい一触即発の事態になる所をキラーが必死で食い止めた。
「はぁ…ったく汚しやがって、、」
ドルヤナイカはため息をつきつつ自分の分のカレーうどんを食べ始めた。
「モグモグ…おぉうまいな!意外に」
「「意外は余計だ!」」
カレーうどんを満足そうに食べるドルヤナイカは満面の笑みを浮かべる。その顔を見た瞬間キッドの中に電流が走った。
(かわっ……てはぁ!?なんであんな奴のことを!どうかしちまったのか俺は!)
「おいキッド?どうした顔赤ぇけど」
「な、、なんでもねぇわ!!」
そういいながらキッドは無我夢中に走り出した。
なんだあいつ?と首を傾げるドルヤナイカ。そんな二人を見ながらキラーは微笑んでいた。