カワキの愉快なドライブ

カワキの愉快なドライブ


空座町・影の領域


『あれ?』

「なあ…ほんとに大丈夫なんだろうな?」

『うん? うーん、どうだろうね…』

「どうだろうね!?」


 運転席に座り首を傾げてガチャガチャと忙しなくチェンジレバーやハンドブレーキを動かすカワキに、助手席に座る死神姿の一護が叫ぶ。


「事故ったらどうするつもりだよ!」

『自力で助かって』

「嘘だろ!?」

『あ、動いた』


 一護の必死の訴えなんてどこ吹く風で、カワキがハンドルを握る車が動き出す。シートベルトを握りしめる一護の顔は青い。


「だいたい免許なんて持ってたのかよ。俺、カワキが免許取ったなんて初耳だぞ…」

『だろうね。持ってないし。おっと』


 一護が「は!?」と本日何度目かになる叫びを上げるのとほぼ同時に、車が急加速した。


「ギャーーー!!! ブレーキ踏め!! ブレーキ!!!」

『声が大きいよ、一護。ブレーキは……んん…これかな? あれ? あ、こっちか』


 高く擦れる音と、グンッと引っ張られるような感覚があって車が急停止する。先程まで通ってきた部分には黒いブレーキ痕がしっかりと残されていた。


「おま…おまえほんとふざけんなよ!! 死ぬかと思ったじゃねえか!!」


 冷や汗をダラダラと流し、肩で息をした一護が怒鳴る。カワキはうんざりした態度でいけしゃあしゃあと言い放った。


『これで死ぬなら今までの戦いのどこかでとっくに死んでるよ。大袈裟な……』

「そう言うこっちゃねえだろ! だいたい免許持ってないってどういう…」


 そこまで言葉にして、一護がハッと顔色を悪くした。恐る恐るカワキに訊ねる。


「な…なあ、カワキ。お前まさか……今日も酒呑んでんじゃねえだろうな……!?」

『私有地で免許は必要無いって聞いたよ。それに私が何を呑もうと私の自由だ』

「無免許な上に飲酒運転なんてして良いと思ってんのか!?」

『思ってるよ』


 あっさりした回答を返して車は再び動き出した。「待て待て待て! やめろ止まれ!!」という一護の叫びを無視して。


『今度はそんなに速度は出てないよ』

「速度だけの問題じゃねえよ! そもそも影の中は私有地とは違くないか!?」

『私が作って広げた空間なのに?』


 納得できないといった顔でカワキが一護の方を向いた。「前見ろ前!!」と一護がまたしても叫ぶ。


『ここが私有地じゃないなら、ほかの何に分類されるの?』

「え? いやそれは……。……なんだ?」


 カワキの問いかけに一護がはたと矛盾に気付かされたように固まる。腕を組みながらぶつぶつと分類を呟く一護の姿を横目にカワキが急ハンドルを切った。


「うおおおおお!?」

『成程、こうなる訳か』

「成程、とか言ってる場合か! 頼むからもう降ろしてくれ!!」

『バックも試したいからちょっと待って』


 一護による必死の懇願も空しく、カワキの愉快なドライブは終わらない。その日は結局、一通りの運転動作を試すまで車から降ろしてもらえなかった。


◇◇◇


「もう二度と乗らねえぞ……」


 しおしおと疲れ切った様子で車から降りた一護の言葉にカワキはしっかり頷いた。


『うん。色々と試したけどこれなら飛廉脚で走ったほうがずっと効率的だからね』


 空座町の影の中に、「そういう事じゃねえ!!」という悲痛な叫びが響き渡った。


***

時系列は完結後を想定


カワキ…車の運転を試してみたいな〜、と思い立った。客観的な意見も取り入れたいと思って一護を誘う事に。結局、これなら自分で走った方が効率的と結論を出した。

事故を起こしても大丈夫。そう、静血装があればね。


一護…カワキに誘われて悪夢のドライブに付き合う事になった。途中で何度か軽率にOKした過去の己を激しく恨んだ。

無免許、飲酒、わき見etc――終わりだ。


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