カレン×アイコ
スポットライトを浴びている自分が大好きだった。
万雷の拍手喝采、燃える宝石のようなキラめき。
この舞台は私のもの。私だけがこの煇を集めるに相応しい存在。
…だと思っていた。
アイコ
エーテルア女学院の演劇部に入部してその考えは崩れ去った。
私と同じくらい…もしかしたらそれ以上の演技力を持っていた。
挫折…とは違うけれど、強いショックを覚えた。
私、再生産というものだろうか?私の積み上げたものがぶっ壊されたのだろう。
彼女と舞台を演じている時、私の演技は今までよりずっとキラめいていた。
彼女はトップスターである私を照らす為の存在ではなく、同じ舞台を作り上げる共演者だった。
舞台は総合芸術。ひとりで煌めきには限界があるのだと気付けた。
彼女とならより輝ける。そう思った。だからこそ……
─────────
黒い雲で埋まりずっと雨が降り注ぐ空の下、私はアイコを待っていた。
普段よりも強い雨で、部活終わりで周りの生徒も真っ直ぐ帰ったようだった。……正直、あまり私も長居はしたくないのだけど…
アイコ「ごめんね、待たせちゃったかな?」
「別に…」
そんな中、彼女はやってきた。私はそっけない言葉を返す。
アイコ「それで話って何かな?」
「何って……前にも言ったでしょ!?」
今度の演目についてだ。
演出について、彼女なら少し努力すれば到達できるようなものなのに、彼女はレベルを落として演じようとしていた。
アイコ「それについては前にも言ったでしょ?今のみんなにそこまでのレベルを求めるのは厳しいよ」
「できるメンバーを揃えればできなくはないはずよ!」
アイコ「でも、それだとみんなが楽しめないよ」
「みんなみんなって…!その為なら舞台の完成度を落としてもいいの!?」
アイコ「私はそれでいいと思う」
そんな事ない!彼女との演じられる舞台の数は限られてる!!
卒業したら二度と会えるかもわからない、同じ舞台に立つなんて無理に決まってる!
だからこそ、ひとつでも彼女と全力で演じたいのに…!!
アイコ「……雨も強くなってきたね。今日は帰ろう」
「ちょっと待ちなさいよ!」
彼女は踵を返し進み始めた。
私の静止をものともせず距離が離れて行く…ッ!!
「アイコ…ッ!」
彼女を引き止めたかった。
彼女に気づいて欲しかった。
だって、目の前にレンガと空き缶が転がってたらレンガを拾うでしょう?
殺すつもりなんて、なかった。
この私だけを見てればいいのって…
次の瞬間、目の前には頭部から血を流し、地面に伏して起き上がらないアイコの姿があった。
……ぁ
ああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!!???????!!!
なんで!?なんでアイコが…し、死んで……!!?
「(おまえが殺したからでしょ?)」
……あぁ…そうだ。手に持つ彼女の返り血が付いたレンガとレインコードに付いた血が物語っていた。私自身がよくわかっていた。
私が……殺したんだ。
あああああぁぁぁ…ごめんなさぁぁい……
─────────
受け止めたくない嘘のような現実を歩みを進めていると、
気がつく頃には、私は学校の屋上に居た。
彼女を他の誰でもない殺してしまった。
もう彼女はいない……
あのキラめきには一生届かなくなってしまった…
彼女と二度と演じられなくなってしまった……
靴は脱いだ。綺麗に並べた。
屋上の下を眺めるとそこにはアイコが待っていた。
アイコ、私もそっちに…
生から死の方へ身体を乗り出そうとする。
その瞬間、視界が白く染まった、雷だ。
身体が縮こまって、屋上にへたりこんでしまう。
時間を置いてゴロゴロと雷鳴が響く。
その後に床を叩きつける雨の音だけがしていた。
さっきまでなんの躊躇いもなかった死へのあと一歩が踏み出せなくなってしまった。
……情けない。
……まだ、だめなのかな。
……そうだ。私はまだやる事がある。
彼女の大切だった演劇部のキラめきを護らないといけない。
今、私までいなくなったら彼女の紡いできた栄光すら途絶えしまう。
それだけはダメだ。
階段を通って再び横たわる彼女の元に戻る。
ごめんなさい。でも、まだ捕まるわけにはいかないの。
せめて、私達なしでも演劇部が今までと同じくらい輝くまでは…
レンガを元の場所に戻し、アイコの靴を預かる。
……私の靴は屋上に置いていた。彼女と歩んできた私は飛び降りて死んだ。
二人三脚じゃないけど、もう少しの間一緒にいて欲しい…な。
─────────
あれから半年。
まだ私の役割は終えないでいた。
以前より苛立ちが湧き上がってくる。
彼女のいないこの場所を守ろうとしない演劇部員に。
……何も変えられない私自身に。
きっと、今準備を遅れてきた後輩にも彼女なら優しく言葉をかけていたのだろう。
……ごめんなさい。私のせいなのはわかってる。
……むしろ、以前より舞台のレベルが落ちた気する。理由はわかってる。
彼女は偉大だったんだな……
私が悪いんです…
やめてください…
消えたくなくなりたい…
死んでしまいたい…
ふと言葉に出てしまいそうなのを飲み込む。
こんなこと、言う資格は今の私にはないんだから……
彼女の代わりとして連中をまとめてる奴もいるし、ガラは悪いがかろうじてだが私の演技に付いて来れている。でも、あの舞台には届かない。
だからこそ、あの根暗が舞台の演出について提案してきたのは嬉しかった。でも…
それはそれとして……いつもよりみんな集中力が欠けてるんじゃないかしら?
いつにも増して苛立ちが湧き上がる。
どうして彼女の遺したここを守ろうとしないの!?
……落ち着け、私まで熱くなってどうするの。
私だけででもこの場所を照らさないといけないんだ。
─────────
……?舞台の予行練習も終盤に差し掛かったタイミングでいつもと違う、余計な音が聞こえた。
聖杯の所に行くだけにしては足音が多いような……気のせいだろうか。
……いえ、今の私は舞台の上の役者だ。物語と関係ない事を考えるのは終わってからでいい。
スポットライトに照らされたブドウジュースを飲み込み、言葉を紡ぐ
…何か、身体に異変を感じた。苦しい。
ダメだ、苦しい、舞台を止め苦しいては、言葉を苦しい紡がな苦しいては
じゃな苦しいと彼女苦しいが守り苦しいたかった苦しいものが苦しい
強い吐き気、込み上げてくるものを感じた。
咄嗟に相方役の相手と目が合った。
そこに浮かぶのは困惑……という、演技の奥にある、怒り。そして、安堵のような感情をぐちゃぐちゃにまとめたものだった……
あぁ、そういう……
苦しさで言葉を動作も表情も埋め尽くされて、確かな死を感じていた。
─────────
知らない場所で目を覚ました。
古びた工場だろうか?
…いや、場所はどうでもいい。
さっきから匂いがしていた。
ずっと会いたかった彼女の。
見えた。黒髪で頭のてっぺんからはねたアホ毛。
みんなに優しくて、誰からも愛されたあなた。
会いたかったよ、君にずっと。
私、ずっと言いたかった。
この言葉だけは伝えたかった。
「アイコ……」
─────────
ユーマ君が猫耳?の超探偵の服装をした人と話すから、危ないかもしれないから離れててと言われて待っていると、アイコが見えた!
から、近づいてみたんだけど……
「アイコ?」
アイコ「……クルミ?なんでここに…」
「それは…私もわからないんだけど…ってその人って……」
ごめんなさい…ごめんなさい……
そこには謝罪の言葉を繰り返すカレンがいた。
────────
カレン「ごめんなさい……ごめんなさぁぁい…」
離れてゆくクルミを見送りながら金髪の彼女の髪を撫でる。
きっと私を殺した事を隠したのは許してはいけない、立派な犯罪だ。
でも、私は彼女を赦したいと思った。
彼女の想いに気づかずに蔑ろにしてしまった私にも責はあるのだから…
ここは私たちの永遠の舞台。
もうお互いに言葉は交えられないけれど、せめて今度は彼女のキラめきを守れるように