カルマ
【クロス注意】百獣海賊団 旱害のジャックちゃんhttps://bbs.animanch.com/board/981068/
このスレの設定をお借りしたクロスオーバーSS
・Fateシリーズのジャック・ザ・リッパーについて簡単な説明
産まれることが出来ず堕ろされた胎児達の集合体。悪霊のようなものが母親を求めて娼婦を殺し「切り裂きジャック」と呼ばれるようになった。見た目は小さい女の子。
・このssにおける旱害のジャックちゃん
旱害のジャックとは別に存在するジャック(ジャック・ザ・リッパー)。20年ほど前にカイドウに拾われて海賊として活動する。そのためカイドウのことを「おかあさん」と呼ぶ(母親を常に求めているので)。
“妊婦狩り”によって母親を奪われたことと産まれる前に殺された胎児の怨念、根源であるエースが産まれたことによって人の形を得た。そのためエースと深く結びつき常に呪い続けている。
◇
物心ついた時からその声はエースのそばにいた。
姿はなく、その声はエースにしか聞こえない。黒いモヤのように付きまとい、耳を塞いでも意味はなく、それはエースに語りかける。
──こっちにおいで、一緒にかえろ。
声はそう語りかけるが、いったいどこに行こうというのか。どこにかえろうというのか。
この世界にエースの存在を許すものなどない。誰も彼もが己の死を望んでいるというのに。
母はいない。
エースを産み落とした直後、妊娠の負荷に耐えきれず亡くなった。
父はいない。
世界を混乱に陥れた海賊王は世界中に憎まれながら処刑された。
残されたのは多くの死の上で生まれた鬼の血を引く子供だけ。
──あなただけずるい。
──わたしたちも生まれたかった。
死が責め立てる。怨嗟の声は鳴り止まない。
エースのせいで死んでいった無関係の子供達。生まれることのできなかった胎児の怨霊。それらのかわりに生まれ落ちたエース。
憎いのだろう。憎くて憎くてたまらない。
だからこうして呪い続ける。
──どうしてあなたは生まれたの?
──どうしてわたしたちは殺されたの?
どうしてだろう。
どうしておれは生まれたのだろうか。
おれは、生きていていいのだろうか。
母を殺した己に、無関係の子供の死の上で生まれた己に、生きる意味はあるのか。己の存在を許すものはなく、恨み憎み、誰もが死を望んでいるのに。
海賊王の子供の生を認めることはできなかった世界政府は、疑わしき妊婦と胎児を殺していった。
多くの血、多くの死。
──一緒になろうよ。
──わたしたちと一緒になろう。
この声はエースの罪の証。
エースを憎み呪うもの。
エースが背負うべき罰。
いつか自分はこの声のなか、呪われながら殺されるんだ。
そして、同じところへ“かえる”のだ。
そう、思っていたんだ。
だけど死ぬこの瞬間になって、弟が仲間が助けにきてくれる光景を見て、情けなくとも自分は命が惜しいと思ってしまった。
物心ついた時から、生まれたときから聞こえていた声。エースを呪い、エースに憎む声。あまりにも長く同じ時を過ごしたその声は、姿は見えずとももはやもう一人の兄弟だった。
だからその声に殺されてもいいと思っていた。その声の語るように一緒にかえってもよかった。今よりももっと幼かったらそうしていただろう。
だけどそうはならなかった。
盃を交わした兄弟や弟と出会わなかったら、生きようとは思わなかった。処刑される直前までは、オヤジと呼び慕う男や家族、弟が助けに来なければいつ死んでも構わなかった。
──悪いな。
エースは初めてその声に話しかけた。
思えば生まれたときから一緒にいたのに、話しかけるのはこんな死の直前になるとは。幼いころは必死に耳を塞いでいて、大きくなってからは聞こえないふりをし続けた。
──おれはお前と同じところにかえれねえ。
愛してくれた人がいるのだ。鬼の血をひく己を愛してくれた人が。
その人達のために、エースは“かえらない”。
「愛してくれて…………ありがとう!!!」
胸が文字通り焼けている。グツグツと煮えたぎって、自分は死ぬんだ、と他人事のように思った。
弟には悪いことをした。ちゃんと助けられてやれなかった。家族にも、ここまで来てくれたのに恩返しもまともにできてない。
意識は朦朧としていき、外の騒がしさももう耳に届かない。腕に抱きしめた弟の温もりも感じられない。
──いかないで。
もっとはやくそいつと話していてもよかったのかもしれない。
最期に聞こえたのは、寂しがりの子供の声だった。
ワノ国、鬼ヶ島。
暗雲が立ちこめる空、雷鳴が轟き風が吹き荒ぶ。
今にも嵐になりそうな空は、これからの新たな時代を予兆するものなのか、それともはたまた“おかあさん”が酔っ払っているだけなのか。
そんななか一人の子供が外にいた。
豪奢な着物に身を包んだ小さな子供。その手は穴だらけの新聞と、子供が持つには似つかわしいナイフが握られている。
子供の名前はジャック・ザ・リッパー。二十年ほど前に“おかあさん”と呼び慕う大好きなカイドウに拾われて、こうして海賊として働いていた。
ジャックは天候の荒れる空を気にすることもなく、手に握られた穴だらけの新聞を見ていた。それはズタボロの紙切れになっており、もとはどんな記事が書かれていたのかも判断ができないほどだった。
それをさらにナイフで刺し続ける。
執拗に、執拗に。軽快に、念入りに、小刻みに、執念深く。特に写真が載せられていたであろう箇所を何度も刺した。まるで己の仇のように。
「あっ」
強い風が吹き、新聞が高く舞い上がる。強風によって高く高く飛んでいったそれはおそらくもう手元に帰ることはない。
遠く、高く、飛んでいくそれをただ見ていた。
「──殺し(愛し)たかったよ、お兄ちゃん」
ジャックの半身とも呼べる男が亡くなった。
生まれてから共にいた男だ。隣にはいなくともそばにいた。どこにいるかもわからない、だが魂は通じあっていた。
ジャックの母を奪い、ジャックの生を奪った男。
憎かった。
──愛おしかった。
恨んでいた。
──恋しかった。
この手で殺すことも、抱きしめることもできなかった魂の片割れ。
ポートガス・D・エースは死んだ。