カラクリ城冒頭
ランタンが灯され、暗闇に置かれていた大きな宝箱がその姿を現す。
七人と一匹の海賊たちは、戦利品を囲んで相談をしていた。
「んね~♡見て見て~♡この宝箱!この大きさ!しびれるぅ~♡」
「うんうん!宝箱ってワクワクするよね!何が入ってるかな~」
「光に浮かぶ美女たちの瞳は、ぼくを愚か者にかえてしまう……♡」
「くだらねェこといってんな、エロコック。そんなことより、どうやって宝箱を運ぶか考えろ」
「やめろってお前ら!状況を考えろ。順序立てて考えよう、でないと……死ぬ」
「えぇ~~!?やばい状況なのか!?おれ達死んじゃうのか!?」
「そうとう危険な状況ではあるわね。でも、なんとかなるんじゃない?いつもそうだし」
「そうそう!かんがえても、しょうがねェじゃん。なるようになるって!」
その瞬間、吹き込んだ突風が、七人と一匹を乗せたボートを覆っていたテントを吹き飛ばした。
広がるのは、嵐の海。ボートの後方には一隻の難破船が見える。麦わらの一味は、あの船を探検して宝箱を発見し、引き返すところだったのだ。
「見て……メリー号がずいぶん流されてる」
遥か向こうに浮かぶメリー号に気付き、ロビンが指さした。
「なにィ!なんでそんなことになってんだ!」
ルフィが怒りの声を挙げる。それに素早くウタが反論した。
「ルフィが勝手についてきちゃったからでしょ!だから言ったじゃん、じゃんけんに負けたあんたは大人しく留守番してなさいって!」
「だってズリィじゃねえか!おれだって難破船探検してェ!」
「でた、負け惜しみィ!」
「やっとる場合かァ!!」
毎度のやり取りをする二人に、間髪入れずナミの鋭いツッコミと拳が飛ぶ。
「あの難破船……ものけの殻だったけど、海賊船だったのね」
「サイクロンにでもやられたのかしら?」
頭を押さえる二人をスルーして、ロビンとナミが難破船を見やる。
異変が起きたのはその時だった。
「ん……?どした」
その場の全員の視線が、緑髪の剣士に集中する。そんな仲間を見返したゾロを、背後から焦げ臭いにおいが襲った。
「熱ッ!?」
叫んで立ち上がるゾロ。先ほどの強風で倒れたランタンから油がこぼれ、ゾロの尻とボートに火が付いたのだ。
「ちょっとゾロ暴れないで!火がまわっちゃう!」
「きゃ~~~!!」
「ゾロに火がついてるぞ!」
「焼きマリモだ!」
「てめェー!」
「とりあえず、どうしようかしら」
「クールなロビンちゃんに燃えあがる恋の炎(バーニング)!」
「バカ!!」
誰が何を言ってるのか。てんやわんやになるボートの上で、ルフィが腕を振り被る。
「“ゴムゴムの銃(ピストル)”!」
嵐をやぶって伸びた左拳が、メリー号のマストを掴んだ。ルフィはそのまま“ゴムゴムのロケット”でメリー号へと飛んで行く。
「ちょっと、この手……!」
ナミの顔から血の気が引いた。
ルフィの右手が、ボートの縁を掴んでいることに気付いたのだ。
「クソバカゴム……!」
サンジのくわえたタバコから、灰がぽろっと落ちる。
「もぉ~、またこのパターン……」
ウタの髪の毛も、タバコの灰と一緒にへにゃりと下がった。
「よっしゃあ!みんな、戻ってこい!」
そんな仲間たちの声もむなしく、ボートはルフィの腕に引っ張られ——飛んだ。
乗っている人間たちの悲鳴を後に引きながら、ボートは水切り石のように水面を跳ね、そして猛スピードでメリー号に激突。燃えあがりながら大破した。
時は、大海賊時代。
麦わらの一味の新しい冒険が、いま始まろうとしている。