カヨコの体を墨汁で染めてみたいよねって話

カヨコの体を墨汁で染めてみたいよねって話


過剰と言えるほどの明かりに照らされた部屋にぽたり、ぽたり━━液体が一滴ずつ垂れる音が響く。そうして、また一つ、その音がする度に少女━━鬼方カヨコの一糸纏わぬ肢体に墨汁が弾かれ、その肌が黒く染まってゆく。

カヨコの体には女性らしい柔らかさと、花を手折るように容易く折れてしまいそうなほどに薄く、儚さがあった。

そんな少女の、卯の花を想起させるが如き白い肌を穢すような”黒”━━それを前にした男の表情に見えるのは、この美しく白い少女を黒く染める背徳感によるモノだろうか、そこには確かな喜悦が見える。

「んっ」

カヨコが、己が身に垂らされる黒い墨汁の冷たさに思わず声を漏らす。

「あっ、ごめんね。大丈夫?冷たかったよね」

━すると、男は途端に教育者の顔に戻ってしまった。少女が感じたのは、自らが大切に思われているという事への嬉しさと少しの不満。

「別に、大丈夫だから…その、やめないでほしい…」

カヨコの口から漏れ出た音は自らを侵し、犯すことを望む祈りの音だった。その音を聞き入れた男の表情は教育者のそれではなく、自らの欲望の満たさんとする獣━━或いは、己が手で稀代の芸術を創り出さんとする熱意を持った、キャンバスを前にした画家のようであった。

また、ぽたりぽたりと、黒で斑らに染まっている、白く柔らかなキャンバスが更に黒く、黒く侵されていく。

「んっ…はぁ…まさか…先生がこんなへんたいだと思わなかった…」

「ごめんねカヨコ。でも、他の子にはこんなこと頼めなかったから」

「ふーん、私ならこんなことしても良いと思ってるんだ、先生は…」

そんな風に悪態をつくカヨコは、その言葉とは裏腹に喜色を滲ませている。

「まあ、もうここまでやったんだし、最後まで付き合ってあげる…」

カヨコはバレバレな嘘をついて、呆れと諦めを装い、側から見れば変態的に思える行為を受け入れた。

「うん。とても綺麗だよ、カヨコ」

男は眼前の少女の対して称賛の言葉を贈り、斑らに黒くなったその柔肌に手を伸ばした。

「カヨコの体って本当に細いね。ちょっと心配になりそうなぐらいだ」

「んっ…そういう先生の手はごつごつして大きいね…男の人の手ってみんなこうなの?」

「そういうわけじゃないだろうけど。まあ流石に大人だしね」

そう言うと男は、全体の幾らかが黒く染まった少女の肌に手を当てると、肌を黒く染める墨汁を無作為に、乱雑に、何の意図もなく、ぐちゃぐちゃに広げていく。

既に完成された一つの作品—黄金比とも言うべき美しさのコントラストを自ら破壊するような愚行だ。しかし、そこには別種の美と、見る者を魅了する妖艶さがあった。

少女と男の繋がりは手のひら2つ分の熱だけ。男の手のひらは少女の足先から腹、腹から顔へと這うように動き、少女の体を染める黒を広げていく。

そうして、手のひら二つ分の黒色を通じて、2人は互いの熱を分け合う━━溶けて、蕩けて、混ざり合い、自分と相手の肉体の境界すら忘れて一つに重なってしまうような熱と快楽が2人の心を満たす。

「ねぇ…せんせい…すごくあつくて気持ちいい…。だから…私を先生の色でもっと侵して…」

黒く、黒く黒く黒く、その身を染め上げる━━他の何色にも染められてしまわぬように、ただ、己だけが一つの色で侵すのだ

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