カヨコSS 日常
キヴォトスの外ではウグイスが元気に鳴いているだろう季節の昼下がり、私は今日の仕事の多さに嫌気がさしてしまったので少し休憩を挟んでいた
“…”
“はぁ...”
今まで終わらせた仕事よりも時間がかかるであろう山の様に積まれた書類を見ていると、徹夜で処理する事が容易に想像でき自然と溜息が出る
溜息をつくと幸せが逃げると言うが、つかなかったとしても今の私に幸せが寄ってくるとは到底思えなかった
「先生、大丈夫?」
そんな憂鬱な思考に囚われながらもそろそろ仕事を再開しようとした時、こちらを心配する様な目線を向け声をかけてくる人物が居た。
その無垢な心と意志の強さを表しているかの様な白黒のツートンカラーの髪に、宝石の様に綺麗な赤い瞳を持つ少女
鬼方カヨコである
“カヨコ、どうしたの?”
カヨコが当番でもない日にモモトークへの連絡なしで来るのは珍しい
何か重大な用事でもあるのかと少し身構えてしまう
「先生が仕事に追われてるって聞いて手伝いに来たんだ」
「ごめん、やっぱり迷惑...だったかな?」
私が身構えてしまったのを否定的に受け取ったのか、カヨコは少し悲しそうな表情でそう問いかけてきた
“そんな事はないよ”
“でも大丈夫?全部終わらせるとなると結構時間かかるよ”
書類の山に目を向ける。私1人だと朝までかかるぐらいの量である
「もちろん、そのつもりで来たから。すぐ終わらせるよ」
そう自信ありげに言ったカヨコは私と同等、いやそれ以上の速さで仕事を終わらせていった。便利屋68の課長は伊達じゃないと言う事を改めて感じさせられる
✳︎
そんなこんなで作業を続ける事数時間、カヨコの協力のおかげでなんとか日を跨ぐ事なく仕事を終わらせられた
「思っていたより時間かかっちゃったな...」
“ありがとう、カヨコ。本当に助かったよ”
「気にしないで、いつも先生にはお世話になってるし」
「でも、そうだね...もしお礼がしたいって言うのなら私を事務所まで送って行ってくれない?」
もうとっくに陽は沈み、辺りは暗くなっている。生徒1人で出歩くには少し危ない時間帯である
“もちろん、喜んで”
外へ出ると昼間の喧騒が嘘のような静寂に満ちており、その変わりように少し驚かされる
コンクリートで整備された道を月明かりを頼りに2人で歩いていると
「先生はさ、なんで生徒の為にそんなに頑張れるの?」
カヨコが突然そんな事を聞いてきた
“急にどうしたの?”
「今日の仕事、本当ならもっと期限が長いものだったんでしょ?」
「私達みたいな生徒の対応してたら時間がなくなっちゃっただけで」
“皆、私の大切な生徒だからね。頑張るのは当然だよ”
「大切って事は好きって事?」
“まぁ...そうとも言えるかな”
「じゃあ私の事も好き?」
“...もちろん”
カヨコが揶揄って来てるのを察した私は少し仕返しをしてみる事にした
“そういうカヨコは私の事が好きなの?”
「好きだよ、そういう意味で」
カヨコが耳元で優しくそう囁いた。
自分の頬が歳不相応に赤く、熱くなっていくのを感じる
“え...?”
「ここまでだね」
いつの間にか事務所の目の前に着いていた
「じゃあありがとうね、先生。また今度」
私はさっきの言葉の意味を考える事に気を取られ、カヨコに別れの返事をする事が出来なかった