カヨアコ供養
「……は、ふ……う」
「ふふ……」
今日の彼女は随分と機嫌が良いらしい。私に口を開けさせたまま、舌を指で引っ張り出して、何がそんなに楽しいのやら、薄く笑いながら無遠慮に触ってくる。
「あぇ……あぅ……んぅ……!」
顎や舌が疲れないように脱力し切っているから、私の舌は彼女にされるがままだった。長く細い指は自由気ままに、絡め取って来たり、ふにふにくにくにと揉み込んで来たり、味を覚えこませるように、指の腹をじっとりと擦り付けて来たり。
普通なら不快感を覚えて然るべき行いな筈なのに。この指に幾度となく悦楽を刻まれたことを思い出すだけで、ぞくぞくと甘美な痺れに似た感覚が、身体中の神経を走っていった。それがもう堪らなくなって、瞼の裏にじわりとした感触。そして、生理的な反射として濡れたのは、目だけではなくて。
────くちゅ。
「……………っっ!!」
わざとらしく、"下"から水音を立てさせられて。"それ"がなんなのか、何を意図して立てた音なのかは、いつの間にやら私の足の間へするりと滑り込んだ彼女のもう一方の手が如実に教えて来る。
「気持ちいいんだ?」
「ひはっ……ぅっ、ぅぅぅっ……!!」
嬉しそうに、あるいは嘲笑うように、もしくは見下すように。細めた目から放たれ視線で射抜いて来る彼女に反射的に違うと言いかけるも、すぐさま舌の裏を擽るように嬲られて浅ましく身体を震わせられる羽目になった。
「違わないでしょ?」
口答えしたお仕置き、と言わんばかりに指がさらに蠢き始める。私の体を私以上に知り尽くしている彼女の手管は淀みない。舌に感じる温度、味、そして感触。それらが全て寒気に似た心地良さに変わって、あっという間に身体中を満たして。昂らされて、上り詰めさせられて、それで。
「は、えぁっ、ふ、ふぅぅぅぅぅ……!!」
舌を愛でられた、ただそれだけで。私はあっけなく身体をはしたなく跳ねさせることになった。
「ふっ、ふぅ、ふぅっ……」
「ん、上手にイけたね。えらいえらい」
初めて舌での絶頂を覚えた時と同じように、小さな子供か、あるいはペットでも相手にしているように頭を撫でて来る。心の奥底をほぐされるような、そんな嬉しさに似た暖かさが胸の内に生まれて、絶頂の余韻と混ざり合って。すっかり癖になってしまって、まるで麻薬のよう。
「…………跡、消えて来たかな」
多幸感に蕩然と浸っていると、私の舌をしげしげと眺めながら彼女が言う。跡とは、彼女の悪癖のこと。火が燻る吸殻を私の舌に押し付けて、小さな小さなしるしを残す、最低で最悪な愛情表現。…………その最低で最悪なことをされても、身体を火照らせる私も大概なのだけれど。
前にされた時から時間が経って、幾分か薄くなったソレのことを言っているのだろう。微かに色が変わって見えていたその場所を、擽るように指先でくるくるとなぞりながら、妖しい笑みを浮かべて囁いて来る。
「ねえ、アコ」
「ぁ……?」
「一生消えない跡、付けてあげようか?」
「は、ぇぁ、ぁぅ、はあああぁぁ……」
絶頂感が引き切っていない身体にまたも舌から快楽を刻まれる。その上、鼓膜に注ぎ入れられるように聞かせられる低い声。気持ちよさと紐付けるように躾けられた結果、その小さな声音だけでぞくぞくと甘い痺れが身体を走って、胎の奥がきゅうんと疼いたのを自覚させられる羽目になる。
「舌ピアスの穴開けてもらうとか……スプリットタンだっけ?あんなのもあるらしいね。舌が二つに分かれるやつ。あれで"する"と気持ちいいって聞くし……それか、タトゥーなんてのもいいかもね。舌を壊さず痛めずで入れてくれるところがあるんだってさ」
「ぃぁっ、はっ、ぁぇ……」
「あはっ、なあに?」
夕飯の献立を決めるような気軽さで、消せないしるしを残し方をいくつも挙げてみせてくる。冗談じゃない、と拒絶したいけれど、舌を囚われている私に喋る権利はなくて、言葉として成立しない音が虚しく漏れるだけだった。
いや、そもそもの話、私はやめて欲しいと本当に思っているのかも分からない。私自身それを望んでいるのかも知れない。そんなわけないと否定したいけれど、生憎もう私よりも私を知り尽くしている女に飼い慣らされている身。心の奥底にそんなどうしようもない欲求を抱えていたとして、それを見抜いているから、あんな発言をしたのかもしれない。
「ぁっ、ぉっ、ぁぇぇ……!」
「ふふっ。まあ、今はいいかな」
そんな被虐妄想に昂ぶってしまったのか、火傷の跡の縁をすりすりとなぞり続ける指先に堪えきれなくなって、またも体を震わさせられた。
「ほら、アコ」
「ぁ、ぇぁ……ぇぅ……」
余韻に身体をびくつかせている私に差し出すみたいにして、指の腹を舌の上に押し当てて来る。何をすればいいのかはすぐに解った。まだ甘くじくじくと痺れるような感触が残る舌を、彼女の指にそっと這わせる。
「ぅ……ぇぉ……んぅ……ちぅ……」
「ん、……ふふっ、良い子だね」
この指だ。この細い指が、私を幾度となく狂わせて、鳴かせて来た……そう思いながら奉仕しろと、何度も何度も躾けられた。おかげ様で、こうして自分から擦り付けていると身体が火照っていくようにされていた。
「はい、もういいよ。良く出来ました」
「ん、ぅ……」
「良くできたから……ご褒美、あげるね」
「ぁ…………」
俯きがちになっていた顎をくい、と持ち上げられて。見るからに情欲を燻らせている瞳で見下ろされながら、そんなことを言われた。
とっくに手遅れな程調教されきった私は、この後のことを想起して、思わず身体の温度が上がる。
────────ああ。今日もまた、この人に滅茶苦茶にされてしまうんだろうな。
そんなことを思いながら、端正な顔がゆっくりと寄って来るのを、私は静かに待った。