カキツバタエミュ連

カキツバタエミュ連



「なーんでこんなとこにあるのかねえ」


まだ昼には少し早い時間帯、自習だとこじつけて今日もサボりのカキツバタは混む前に昼飯を済ませてしまおうと足を向けた食堂の端、長机の影になるように置かれた楕円形のタマゴを発見してしまって小首を傾げる。


これがドーム内なら珍しいことでもないが、基本的には人間しか立ち入らない食堂の、しかも隠すような位置に置かれたそれはどう考えても不届き者の仕業だが、利用者が多い食堂では犯人を探すのは難しい。知られずに手放しはしたかったが見殺しは忍びないから誰かに拾って欲しい、とかいう考えだろうか。


ポケモンのタマゴはどんなポケモンだろうと一律同じように人には見える。中のポケモンを推察するのはタマゴを見ただけでは難しい。ポケモンはどうしても種族やタイプによって育成難易度が異なる。心構えもなしにゴーストタイプなんて生まれてきた日には惨事だし、ドラゴンタイプが多いカキツバタの手持ちを考えるとフェアリーだったら大事故である。


だが、眼前のタマゴはコトコトと小さく全体を揺らしていてもう孵化直前だろう。そんな状態のタマゴを見なかったふりが出来るほど落ちぶれてないし、他のトレーナーでもせめて生まれるまでは面倒見るだろう。タマゴをこんなところに置いていったやつは論外。


なんとなくマントをとるのは面倒で、羽織るだけのジャージを脱いでタマゴを包んで抱き上げる。ジャージだけではほぼ意味はないだろうが、少しでも温かいほうがいい。


「生まれる前から難儀だねぇお前さん。ま、ツバっさんがちゃんと面倒見てやるから元気に生まれてこ〜い」


軽くぽんぽんと叩きながら声をかけると、返事をするようにタマゴは揺れる。すこぶる元気そうでなにより、きっとよく食べるだろう。カキツバタは自身の昼飯は後回し、先にタマゴだと言わんばかりにベビー用フードかミルクがあることを期待してリーグ部室へと足を向けた。

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