カキスグオメガバースネタ
昔テレビで見たΩのドキュメンタリーを見て何となく可哀想だと思ったのを思い出した。
侮蔑や軽視からくる感想ではなく幼いスグリはただ純粋にそう思ったのだ。
何処にも行けず、何もできずに飼い殺されていく生まれながらの哀れな弱者。
どれだけ努力を重ねても自分の生まれ持った性を前にどうする事も出来ないなんて絶対に嫌だと。
なのに。
「……な…んで……!?」
先週受けた学校健診の結果を見て比喩でも何でもなくスグリは膝から崩れ落ちた。
身体的な項目は評価はあまり芳しくはなかったものの特に異常は見当たらなかった。
バース性検査、ただ一つの項目を除いて。
つい先日、買ってもらったばかりのぴかぴかのスマホロトムが嬉しくて、親友のハルトと自身のバース性について談笑したのが遥か昔の様だ。
ハルトは絶対αだべ。え、おれ?……おれはβだと思う。
親友は一握の稀少種で自身はその他大勢だと思っていた。否、内心では稀少種だといいな、と少し思ったりもした。
しかし結果はどうだ。
選択肢にすら無かったΩと書かれた診断書と同封されていた発情抑制剤のパンフレットにΩの身体的特徴を纏めた冊子、相談窓口の案内がスグリを絶望の底に叩き落とした。
これは良くない夢だと、何かの間違いだと。
込み上げてくる嫌な酸味を何とかしたくてふらつく足で自販機が置いてあるフロアへと向かう。
無意識に人が寄り付かない場所を選んでいたみたいで、着いた先は機械の低く小さな唸りしか聞こえない。酷く安堵しスグリは飲み物を買おうと自販機を見やったその時だった。
「おーすスグリ」
背後からの声にビクリと震えたがその主を視認すると腹の底からの溜息が漏れる。
心なしか倦怠感すら覚えた。
「何でぃ、かわいくない」
カキツバタ。
学園最強だった、自分が下した男。
否、ハルトが元の学園に戻り自分がリーグ部を降りた今、過去形ではなく現在進行形で学園最強か。
「………何?」
「いや何も?ただかわいい後輩に声をかけただけなんだがねぃ」
「………よく言う」
気分は最悪だった。
この学園の四天王は全員αだと真偽も出所も不明な噂が脳裏を過る。
……噂通りのαではなくともΩでは絶対にないんだろうな。
じわりと溜まった黒い滓と再び込み上げた酸味を流し込もうと急いで自販機のボタンを押そうとした刹那、背後からカキツバタが別の飲み物のボタンを押した。
「なっ……!」
「へっへっへ、ツバっさん的には味気ねぇ水なんかよりダンゼンこっちの方がオススメよ」
ガコンという重い音と共に落ちてきた黄色とオレンジのストライプ。
よりによって甘ったるくて重たいミックスオレかと頭を抱えたがBPも飲み物も無駄には出来ないと渋々手に取り踵を返す。
吐き気もそうだが身体が変に怠い。
カキツバタを見て変に気が張ってしまったせいだろう、早く自室に戻って休みたかった。
「まぁ待てよ、お前さんどうせヒマだろぃ?ちょっくら付き合ってくれよ」
「……くだらない」
いつも通りの突拍子の無さに眩暈がした。
身体が怠い。
「そうカッカしなさんなって!口ではそう言っても本心は……だろぃ!?」
勢い良く肩を組まれて思わずふらついてしまう。
身体が怠い。
「…おーい?」
身体が、熱い。
「……スグリ?」
じわじわと嫌な汗が噴き出しているのが分かる。
カキツバタと密着した部分が、燃えるように熱い。
こんなに熱いのに凍えた様に身体が震えてまともに立っていられなくてついカキツバタに抱きついてしまった刹那、ぞわぞわと感じた事の無い感覚が背骨を駆ける。
鼓動が馬鹿みたいに跳ねて、身体は燃えるように熱くて、力が入らなくて、ただただ下腹部が切なく痺れた。
……Ωは10代後半から『ヒート』と呼ばれる発情期が現れるようになり、当人の意思に関係なく見境なく欲情してしまう。
回らない思考の片隅で冊子に書いていた一文が浮かんだがどうでもよかった。
自分は紛れもないΩなのだと現実を叩きつけられ、熱いはずの心臓が冷えた。
「カキツ…バタ…」
嫌に媚びた声が喉から零れて彼を見上げた刹那、乱暴に抱えられ運ばれて、勢い良くドアが開けられたかと思えば、軋んだスプリングの音。
ベッドに投げられたのだと頬に触れた柔らかな感触と噎せ返るカキツバタの匂いで分かった。
背後から聞こえる荒い息遣いとカチャカチャと焦ってベルトを外す音。
今から何をされるのか、ふらふらの頭で理解して、更に熱を上げる身体とは裏腹に心臓はどんどん冷えきっていく。
「ひ…っ…!」
下着ごとズボンを下ろされ肌が露にされて、熱いモノが尻に擦り付けられた。
「や…やめろ…!」
情けなく上擦った声しか出なかった。
強く腰を掴まれ、自分の身体より熱く脈打つそれが狭穴を擦る。
「やめろ…!やめろ……って…!」
必死に身体を捩り逃げようとしたが無駄に終わった。
ギチギチと灼熱が焦がれるような速度で自分の中に埋まっていく。
「ぐ……っ…!」
腹部がいっぱいで苦しくて、喉の奥から低い呻きが何度も漏れる。
ロクに慣らしてすらいないのによく入ったな、と自分の身体に嫌気が差した。
『そういう事』だけに特化した消耗品、負け犬、劣等種。
その耐え難い劣等感すらドロドロに融かされ未知の感覚と熱に塗り替えられていく。
怖い、嫌だ、いやだ。
「やめて…」
かなり深いところまでぴったりと埋まったモノがゆっくりと動き出す。
太く硬いそれが内壁を擦る度パチパチと火花が散る。
「あ、あ…!やだ…!やだ!」
ゆっくりとした動きが徐々に激しさを増して骨盤が軋む。
その感覚にただひたすら喘いで、啼いて、泣いて必死に息をした。
「やだ!やだ…!たすけ…たすけて…ねーちゃん…!」
首を噛まれ番にでもされたら終わる。
初めての快楽に呑まれつつもカキツバタの荒い息遣いを背にスグリは必死に首を庇いか細く叫んだ。
「たすけて…ハルト…!」
無意識のうちに親友に助けを求めていた。
刹那、首に感じた一瞬の冷気の後に来た激痛にスグリは声にならない悲鳴を上げた。
首を庇っていた手を強引に引き剥がされ首を噛まれたのだと理解した時には遅かった。
首を噛まれた。
『番』にされた、つまりこの男に全てを握られたという事だ。
「えっ……え…?」
「……スグリよう」
ずるりと深くまで挿入されていたモノが抜かれると同時に降ってくる低い声にビクリと震える。
ロクに力が入らない身体は簡単に仰向けにされてそこでようやくカキツバタと目があった。
「……っ!」
ギラギラと殺気立った双眸に射抜かれ動けなくなる。
「……ここで他の男の名前を呼ぶのは…違うだろ?」
再度腰を掴まれ、また狭穴にあてがわれる。
待って、と言いかけたところで一気に押し込められ、潰れた様な悲鳴が出た。
「あ"っ……!ぁ"…」
体重をかけられ先程とは比べられない程に深く深く埋まっていく熱に、震える肺が必死に酸素を求め動く。
苦しくて苦しくてどうしようもないのに何故か身体が甘く痺れて、内壁は嬉しそうに蠢いてカキツバタを受け入れて。
こんなの知らない、こんなの、こんなのおれじゃない。
「スグリ」
ぴくりと肩が震えた。
「今お前を犯しているのは誰だ?」
いつもの軽い口調ではなく、重く鋭いそれにスグリは唾を飲む。
「誰だ」
「………カキ…ツバタ…」
その答えが正解だったのかどうなのか分からないままゆっくりとカキツバタのモノが抜かれていく。
「ぁ…!」
「どうした?」
内壁が名残惜しいと言わんばかりに収縮しているのが嫌という程感じて、自分でも離れがたくてカキツバタを見上げた。
自分がどんな顔をしているのか分からなかったがカキツバタの目が満足気に細められたのを見てきっと酷く媚びた顔をしているのだと何となく分かってしまう。
「え……と……」
「何でぃ?」
視界が揺れる。今求めている事を口にしてしまえばきっと戻れなくなる。
否、この男の番にされたのだからどこにも戻れないし行けないではないかとスグリは自嘲した。
「好きに…して」
「何を?」
「……好きに、犯して」
抜かれかけていたモノが止まる。羞恥も何もかなぐり捨ててカキツバタの背に抱き付く。
笑えるくらい密着した肌の熱に機嫌を良くしたのかカキツバタの喉が鳴った。
「へぇ?」
「たくさん……たくさん、めんけがって…」
互いの吐息が感じる距離で目と目がかち合う。
欲を灯したそれに下腹部が甘く疼いた。
「ちゃあんと最後まで耐えてくれよ?…オイラが楽しくねぇからな」
ぺろりと舌舐めずりをしてカキツバタが笑う。腰を掴んだ手に力が籠りまたしても一気に最奥まで叩き込まれる。
ビリビリと背骨を電流が駆けて脳が焼かれ意識が飛びかけた。
互いの肉がぶつかる濡れた音と荒い息遣いが仄暗い部屋を満たしていく。
激しい激しい律動に息すら忘れて情けなく喘ぐ事しかできずスグリは涙を流しながら必死にカキツバタにしがみつく。
奥を突かれる度にきゅうきゅうと腹の奥が切なく震えて息が上がる。
「かき、つばた…ぁ…!ゃ…わゃ、わやじゃ…!」
濡れた音が激しさを増して更に腹の奥が震えた。
「んぅ…!」
噛みつく様に唇を重ねられ無遠慮に舌が口腔を蹂躙する。
熱い舌に舌裏を撫でられたどたどしくもやり返そうと舌を絡ませるも好き勝手に弄ばれ、犬歯を柔く立てられただけだった。
「んぁ……!かきつばた…かき、つばたぁ…!」
逃がさないと言わんばかりに腰に足を回し、抜けないように固定する。
双方限界が近い。
「〜〜〜〜っ!」
強烈な熱が腹の奥に吐き出された。
背を仰け反らせてスグリは果てた。絶頂の余韻でまともに動かない身体をベッドに預けて息を吐く。
潤んだ視界の隅、カキツバタを気怠げに見上げると足をほどいてまだ繋がったままのそれを抜こうと腰を引こうとして遮られた。
「オイラはまだたぎったままだぜ?まだまだ逃がさねえよ?スグリ」
「え、ぇ……?」
Ωとしての本能なのか、自分の性(さが)なのか。またしてもカキツバタを求めて奥が甘く痺れた。
そこから気絶するまで互いにただただ激しく貪りあった。
「ん………」
馴染みないベッドの匂いに昨夜の事を思い出す。
身体中酷く痛くて、噛まれた首は特に、痛く、て。
そこまで思い出して一気に身体が冷えた。
「うぅ………」
起き上がろうとしてこぷりと腹に吐き出された精液が零れ出た感覚に再びベッドに沈む。
Ωは同性同士でも妊娠、出産が可能だ。
さすがに無いとは思うが万が一があったらどうするかと考えて更に身体は冷えきっていく。
「おっ、起きたかぃ」
中途半端に拭った身体でシャワールームからカキツバタが出てきて笑いかけた。
「今日は休みだからよ、好きなだけゆっくりしてくれぃ」
……それだけなのか?
番にしておいて、自分も求めたとはいえ散々犯しておいて。
酷使した喉は掠れた音しか出さなかった。
そんなスグリを見てカキツバタは頭を撫でた。
「αのオイラが言うのもなんだけどよ、番になったわけだしヒートの心配もなくなったわけだからよ……まぁ楽しくやろうや」
やっぱり噂は本当だったのだ。
自分とは違う、生まれながらの勝者。
スグリからはカキツバタがどんな顔をしているのか逆光で見えなかった。
(眩しい……)
Ωの自分を嗤っているのか。
今までの報復として一方的に番を解除されて収まらない発情期に怯える毎日を過ごさせるのか、妊娠させてそのまま捨てるのか、それとも。
何も見えない逆光がスグリには眩しい闇に見えた。自分の未来を暗示するようでただただ絶望に瞼を閉じた。
発情中Ωとの接触は、どんなに理性的なαであっても抗しきれない強烈な発情状態を引き起こし、時に暴力的なまでの性交に及びかねない。
横で死んだ様に眠るスグリの頬を撫でてカキツバタはふと数年前のバース性診断で渡された冊子に書かれていた一文を思い出していた。
「まさかスグリがΩだとはな…」
密かに想っていた相手と番になれるとは思ってすらいなかった。しかし、スグリのヒートに当てられたとはいえ避妊具も着けずに犯してしまった。
もしスグリが妊娠したのならさすがにこちらに言いに来るだろう。
その時は全部の責任を取る。
休学から帰ってきたばかりでまだ不安定な時期でもある。自分がしっかり支えてやらないと。
昨夜の行為で汚れたスグリをシャワーで洗おうかと思って、止めた。
変にプライドが高いスグリの事だ、寝ている間に好き勝手されるのはきっと嫌だろうと。
涙の跡を優しく指で拭い、カキツバタはシャワールームへ向かった。