オレの神官なのだから
※みんなカルデアにいる謎時空です
※捏造多めです
『ーー◼︎◼︎、◼︎◼︎』
ふとした違和感。
デイビットは立ち止まって周りを見渡した。
・・・気のせいだろうか。何かが聞こえた気がした。
だが周囲にはカルデアのスタッフも、サーヴァントも誰もいない。周囲は静寂に包まれている。
きっと幻聴だ。疲労が蓄積しているのだろう。そうだ、そうに違いない。
『ー◼︎◼︎◼︎◼︎、◼︎◼︎◼︎◼︎』
『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎』
まただ。しかもさっきよりも大きい。
ああ、頭が割れそうだ。
頭の中で反響する謎の音。いや違う、これはー
「どうしたデイビット。こんなとこで突っ立ってるとはらしくないな。」
後ろから声がする。頭に直接響くのではない、鼓膜を震わせ伝わる低音。
驚いて振り向くと、すぐ近くにテスカトリポカがいた。どうやら背後から近づいてくるのに気が付かなかったようだ。
「あ、いや、何でもない。」
「そうかい。だったら付き合え。飯の時間だ。」
そう言ってテスカトリポカは食堂の方へ歩いていく。こちらの返答は求めていないらしい。
まぁこの後は特に予定もないしいいだろう。そう思い後に続こうとして、
瞬間、激痛が走る。
「っ〜〜!!あ゛、ガ、っ!」
痛い、痛い、気持ち悪い、まるで脳を掻き混ぜられているよう。
頭の中に響く音、音、音、音、音。
喉に痛みが走る。恐らく叫んでいるのだろう。しかし何も聞こえない。全てが謎の音に掻き消される。
ー違う、これは音じゃない。
理解するな、認めるな、そう本能が声を上げる。
だが悲しいかな、自身の理性はとっくに『それ』の正体に気付いていた。
ーこれは、オレを呼ぶ声だ。
瞬間、周囲から闇が湧き上がり俺を飲み込んでいく。
完全に闇に染まる前に俺の視界に映ったのは、
ー何かを叫ぶアイツの顔だった。
目を開くと、見渡す限りの暗闇。
自分が立っているのか、浮いているのか、それすら判別出来ない。
「・・・・・・いや、"無"と言った方が正しいかな。」
10歳の頃、デイビットだった『何か』になってからずっと感じていた気配。
名状し難い何か。外宇宙の存在。
天使の遺物を、そして自分を通じて地球人類を観測している悪意あるモノ。
「・・・そうか、そういうことか。」
ここはその『何か』の領域だ。地球より遥か彼方。135億光年のその先、人類には到達し得ない場所。
「遂に存在することすら許されなくなったのか。」
そう言って自嘲気味に笑う。
もとより自分は人類ではない。塩基配列が同じなだけで、中身はまるで違う。人理側にカウントされていないのがいい証拠だ。
それでも人であろうとした。自分ではない『デイビット』の記憶に残る父との記憶。人としての在り方。醜くもそれにしがみつき、足掻いた。
だが、それすら無駄だったようだ。ここには何もない。虚無が広がるだけ。もはや何も感じない。思考も霞がかかってきた。
あぁ、このまま消えるのかと何処か他人事のように感じ、目を閉じようとした瞬間、
右手に熱が走った。
「っ!」
消えかかっていた感覚が戻ってきた。不思議に思い右手を見ると、赤く輝く令呪が目に入った。
マスターの証。独りだった俺の声に唯一応えてくれた、アイツとの繋がり。
煙る鏡。夜と風。我らは彼の奴隷。
ー俺の太陽。
「テス、カ、トリ、ポカ・・・」
彼の名を呼んだ瞬間、何もない虚空から腕が伸びてきて、俺の右手を掴んだ。
目の前に広がる黄金の光。俺とよく似た見慣れた黒装束。闇でよく引き立つ白い肌。
テスカトリポカ。俺のサーヴァント。
「やっと見つけたぞ。」
テスカトリポカの声を聞いた瞬間、冷え切った身体に熱が戻ってきた。止まっていた心臓が再び動き出したかのような錯覚を覚える。
迷子になった子供のように、無我夢中にしがみ付く。もう迷わないように、もう離れないように。
「さっさと戻るぞ、デイビット。オレも余り長居は出来ん。」
確かに、普段と様子が違う。白い肌にはヒビ割れのような黒い線が走っているし呼吸も少し辛そうだ。
わかった、と言おうとした瞬間、万力のような力で後ろへ引っ張られた。
どうやら俺を元の世界に返す気はないらしい。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ・・・!もう一人は、
「テスカ・・・!」
無我夢中に目の前に右腕を伸ばす。すると次の瞬間、俺を拘束していた力が無くなった。
背後に目をやると、テスカトリポカが虚空に脚を振り下ろしていた。目には見えないが、そこに何かいるのだろう。
自由になった俺をテスカトリポカが抱き寄せる。
「目には目を、ってヤツだな。テメェの独壇場かと思ったか?悪いがコイツは連れて行かせてもらう。」
テスカトリポカがおもむろに話し出す。
「テメェがコイツに何をしたかは知らん。興味も湧かん。コイツが人かどうかなんてオレにはどうでもいい。だがな、コイツはオレが認めた戦士だ。貴様の好きにさせるものか。」
虚空に向かい、怒りを込めて言い放つ。
「オレの神官に手を出すな。」
落ちているのか、浮いているのか分からない不思議な感覚と共に目の前が暗転していく。
だが、あの時のような恐怖は微塵も無かった。
・・・周囲が騒がしい。眩しい。
目を開くとカルデアの管制室だった。
周りにはカルデアスタッフに藤丸、マシュ、Aチームのメンバー、加えてフォーリナークラスのサーヴァント数名。みな安堵の表情を浮かべている。どうやら随分と大ごとになっていたらしい。
戻って来れたらしい、と実感していると隣に立っていたテスカトリポカが崩れ落ちた。
「なっ・・・!しっかりしろテスカトリポカ!!」
「あ゛〜〜クッッッソだりぃ・・・」
その様子を見てシオンが呆れたように肩をすくめる。
「いやいや、これだけの事してダルイで済むとか有り得ないんですけど。神霊の霊気に邪神の神格重ねて無理矢理霊気改造するとか、いくら聖杯使ったからと言ってもチート過ぎてナイナイ。」
フルフルと首を横に振るシオン。
「・・・な、んでそこまでして、」
「あ?オレが自分のモノを盗られて黙ってる訳ないだろ。大事な神官のためだ、多少の無茶もする・・・っておいなんで泣いてんだ。」
気が付いたら涙が溢れていた。止まることなくボロボロと。
テスカトリポカを抱きしめて、胸に顔をうずめる。言いたい事が沢山あるのに、ありがとうって伝えたいのに言葉が出てこない。出るのは嗚咽だけだ。
そんな俺を見て、テスカトリポカは何も言わずに黙って俺の頭を撫でている。
あぁ、暖かい。とても安心する。
確かに俺は人じゃない。所詮は偽物だ。
だが、それでも・・・
この想いは、この胸の暖かさは、きっと本物だ。
「オレの胸で寝落ちとはホントクソ度胸だなコイツ・・・」
結局あの場で寝落ちしたデイビットを医務室へ運ぶテスカトリポカ。
ダ・ヴィンチ曰く、デイビットもテスカトリポカも一日医務室で安静に、とのことだ。特に異常がなければ明日から通常の活動に戻っていいらしい。
「・・・まぁ確かに今回は無茶をした。」
後世の世で化身扱いされているからと言って、邪神の神格を取り込んで霊気を改造するのは中々に負担が大きかった。
一歩間違えたら霊気が崩壊していた可能性もあった。普段のオレなら絶対に取らない手だ。
だが、あの時、デイビットが闇に取り込まれた瞬間。
オレの視界は怒りに染まった。
我を忘れて管制室に殴り込みに行ったぐらいだ。正直どうかしていた。
「しかしまぁ、あの時の俺は何を考えていたのやら。」
ーーデイビット!!
「名前を呼べば繋ぎ止められるとでも思ったのかね。」
デイビット・ゼム・ヴォイド。人理から外れた者、孤独な子供、オレの認めた戦士、オレのマスター。
オレの服を掴む姿はまるで寂しがり屋の子供のようで。
「・・・安心しろ。オレはお前を手放す気は毛頭無い。」
兄弟として、相棒として、子として、オレの唯一として一生お前を愛そう。
・・・だからどこにも行くな。オレから離れるな。
「お前はオレの神官だからな。」