オリキャラスレ劇場版コ●ン編SS連作まとめ(後編)&幻覚イラスト

オリキャラスレ劇場版コ●ン編SS連作まとめ(後編)&幻覚イラスト


電気石の洞窟に激しい火花が散る。

n人目のマグマ団残党を下したチドリは悪戯っぽい表情で指をぱきぽき鳴らす。

「おいおいへバってんなあ三下ども!ガキ一人相手に恥っずかしー!こちとらまだ全然ヨユーだぜ?」

嘘だ。本当はもう余裕なんてない。自分もポケモンももうボロボロだ。いつ倒れてもおかしくない。それでもチドリは虚勢を張る。

いつかキャニオンエリアで、ヒガンに打ち明けかけた願い。

自分も主人公と対等な存在になりたい。

胸を張って、主人公の隣に立てる自分になりたい。

そのためにチドリは、この潜入調査に名乗りを上げたのだから。

「これっぽっちじゃ物足りねえな、もっと骨のあるヤツを連れてこいよ」

己への鼓舞も交えて挑発してみるが、依然状況は悪いままだ。

マグマ団の大群相手にこちらのポケモンはオーダイル一体。せめて他の手持ちも奪還できればと内心でほぞを噛むが、あいにく倒した相手からボールを奪い取るほどの余裕はチドリにはない。

それでもチドリが諦めることはない。チドリは知っているから。自分よりはるかに理不尽な状況で、必死に抗い打ち勝ってみせた『主人公』を知っているから。

…とはいえ、いずれ限界はやってくる。

「ゼェ、ハア…んだよ、もう終わりかよ…」

短時間に何度も体力を消耗するZ技を放ち、チドリもオーダイルもすでに満身創痍。蹴られた鳩尾の痛みがぶり返し、ついにチドリが地に膝をつく。

「…クソ…やっぱり俺じゃ…アイツみたいには…」

力尽きたチドリに、マグマ団の手持ちが止めを刺そうと襲いかかった。…はずだった。


「バンバドロ、『じしん』」

謎の闖入者によりマグマ団の手持ちは倒される。チドリが後ろを振り返ると、そこには。

「助太刀に来たよ、小さな冒険家さん」

「ぴきゅきゅい!」

「チドリくん、今まで気張ってくれてありがとう。うちらが来たからにはもう大丈夫やから」

髪を後ろでひとつに結んだ少女ヒガンと、パルデア屈指の冒険家でありトレーナー、ツルバミの姿があった。



「まさか君がマグマ団アジトに捕らわれていたとはね。一人でさぞ怖かったろう、遅れてしまってすまないね」

「うっせーよ…それより!このオッサンが吐きやがった!こいつらの目標は学園のエネルギープラントだ!地下にある海底火山を噴火させて、新しい島を作ろうとしてる!」

「海底火山か…!確かにこの学園の地下には地熱発電のエネルギープラントがある…それにヒガンちゃんが見かけたマグマ団員たちの行き先も、爆弾をエネルギープラントに運ぶためだとすれば僕らがマグマ団を見つけられなかったのも頷ける…!」

「え、えええええ!?つ、つまり…このままだと学園の下の海底火山が噴火して、それってもしかして…」

「ああ、この学園は溶岩に沈む。学園内にいる僕らももれなく生き埋めになるだろうね」

「ひぃ…!?い、嫌やぁ…うち、まだ死にとうないよお…」

「海底火山が噴火する前に、俺たちでアイツらを止めるしかねえな。行くぞツルバミ、ヒガン」

「ふふっ、こんなスリルはエリアゼロに初めて潜ったとき以来だ!」

「ふええぇ…」

マグマ団の残党たちから手持ちのポケモンを回収すると、チドリがポケットから金属光沢を放つ何かを取り出し、ぽいっと口に放り投げる。

「…?何を食べているんだい?」

「購買で買ったコインチョコ。オマエらの分はねーからな」



『ビーッ!ビーッ!ビーッ!』

「うお!?急になんだよ!?」

「この音はヒガンちゃんのスマホロトムかい?」

「そ、そうみたい……えっ?」

「…な、なんだよ…何があったんだ?」

「し、師匠のスマホロトムから緊急コールや!リーグ部部室がなんや大変なことになっとるみたい!」



そのころ、リーグ部の状況は混迷を極めていた。

「レイリによる敵の回復を確認。敵戦力を上方修正します」

「またですか!?あの人いくつキズぐすり持ってるんですかあ!」

「これじゃいくら倒してもキリがねえべ…!」

ゾンビのように迫ってくる部員とレイリたちに囲まれて、スグリたちは防戦一方であった。

元ジムリーダーとはいえ正気を失い本調子でないヌルデはまだいい。リーグ部員たちも数は多いが元チャンピオンと四天王2人揃っていれば問題なく相手できる程度だ。問題はレイリの方である。

本人の強さもさることながら、スグリたちの相手をしつつこまめに味方をキズぐすりで回復することで戦力の回復を図ってくる。数の暴力でスグリたちを消耗させ続け、燃料切れを誘う陰湿な戦法だ。だが効果は驚くほど高い。

「くそ、このままじゃ押し負けちまう…カイリュー、『ぼうふう』!」

スグリのカイリューが苦し紛れに技を放つが、『ぼうふう』の命中率は決して高くない。荒れ狂う暴風は敵になんなく躱され、見当違いの方向へ飛んでゆく。

「うっ、外した…!?」

…が、そこでちょっとしたハプニングが起こる。

風で巻き上げられた教科書がレイリの頭に命中したのだ。よりにもよって教科書のカドにしたたかに頭を打ちつけ、レイリが色っぽい悲鳴を上げる。

「わやじゃ!?ご、ごめんなさいレイリさん!どっか怪我してたり……」

「あんっ!いったあい…あれ?さっきまで私、何をしていたのかしら?不思議と記憶が曖昧ね…」

顎に手を当て首を傾げる仕草はすっかりいつものレイリのもの。教科書にぶつかった痛みで正気を取り戻したのだろう。

「レイリさんが正気に戻った!スグリ君、何をしたんですか!?」

「さきほどレイリさんと教本の激しい衝突を感知…強い衝撃を与えれば異常が治るものと推測します」

「衝撃ですね!わかりました、やってみます!」

いうなりタロがその辺でふらふらしていた部員の頬をベチコーン!と引っぱたく。

「あ、あれ…?タロ先輩…?いたたた…」

「ほんとだ!元に戻りました!」

「い、いっさい躊躇なく…タロ先輩、わやおっかねえ…」



スグリ一行(主にタロ)が催眠にかかった部員たちをしばき倒している最中、ツルバミたちが遅れて到着する。

「スグリ!後方から何者かが接近しています!」

「任せて!ニョロトノ、『ウェザーボール』…」

「わああああ、ちょっと待ってえ!うち!うちらやから!」

「…ヒガンさん!?」

「ジジイの緊急コールが聞こえたんだ!ジジイはどこに…って、はあ?なんでジジイが敵側に回ってんだよ!?」

「説明は後!とりあえず…」

「今ここにいる部員たちに、全力でビンタをかましてあげてください!」

「「「なんで!?」」」



「要するに、彼らに強い衝撃を与えればこのわけのわからない催眠が解除できるというわけだね!?」

「は、はいっ!」

「わかった!僕は部員の足止めに徹しよう。その隙に君たちは催眠を解除していってくれ!」

「了承しました。ヒガンさんは…」

「う、うちは師匠をなんとかします!」

「…大丈夫かい?」

「し、ししょーの戦い、一番見慣れてるのはうちやから…死ぬほどしごかれてる日頃の恨みを込めて、一発きっつーいのブチかましたります!」

「頼もしいね。…それじゃあ、行くよ!」

「きゅううー!」


ツルバミたちがリーグ部員を蹂躙している側で、ヒガンはヌルデと対峙する。初めて真正面から浴びる師匠の殺気に身が思わず竦みかけるが、ヒガンは踏みとどまってボールを構えた。

「ししょー…胸、借りさせてもらいます」


ヒガンvsヌルデ(出目が大きい方の勝ち)


ヒガン dice1d100=25 (25)

ヌルデ dice1d100=48 (48) -20(催眠デバフ)



ヒガンとヌルデ。師弟の実力は拮抗しているように見えても、経験の差は埋めがたい。

「くうっ…!」

最後のポケモンを倒され、ヒガンが悔しさに拳を握る。死力を尽くした。だが届かなかった。催眠で本調子ではないにしても、8番目のジムリーダーであったヌルデの実力は相当なもの。

やはり真っ向から師匠に勝つことは今のヒガンにはできない。


…だが、隙を作ることはできた。

「ハガネール、今!」

ヒガンの指示で、床に寝そべって倒れていたふりをしていたハガネールがヌルデの身体に巻きつく。不意をつかれたヌルデはがっちりと絡め取られ、自由に動くことができない。

今だ。ヒガンが右手をパーにして走り出す。

「…え、えいっ!」


ぺちん。


「ビンタの威力弱っ」

「日頃の恨み込もってるか?」

「…ハッ!ワシは今まで何を…」

「治った…」

「それで治っちゃうんだ…」

「もうこれただの茶番だろ」



……


「なんと!?海底火山が噴火とな!?」

「わやじゃ…大変じゃあ…!もし噴火なんかしたら、ブルーベリー学園がまるごと火の海になっちまう…!」

「これは是が非でも奴らを止めねばならんくなったの。火山の場所は見当がついておるのか?」

「おそらく学園地下のエネルギープラントだ。そこに例の爆弾も運び込まれていることだろうね」

「待ってください!確かエネルギープラントは職員権限がないと入れないはずじゃ?」

「確かにそこが問題よな。奴ら、どうやってプラントに侵入するつもりじゃ?」

「分かんねーけど、ここでグダグダ作戦会議してても仕方ねえだろ。さっさとそのエネルギープラントとやらに向かおうぜ」

「…あ、あのー…」

「む、何かね?」

「そういえば、なんですけどー…師匠のチームって、レイリさんもいましたよね?なんか、うちらが来たときからレイリさんの姿が見当たらへんなー…って…」

「「「あっ」」」



コツ、コツ、コツ。

靴音が静まり返ったエネルギープラントに響く。

掌の中で球状のナニカを転がしながら、靴音の主・レイリはプラントの動力部までまっすぐ歩いてゆく。

「それにしても随分雑なセキュリティシステムだったわねえ、ちょーっとハッキングしたら簡単に入り込めちゃった。…マ、だからあの人たちも付け入る隙があったのでしょうけど」

コツ、コツ、コツ。

エネルギープラントの最深部、案の定そこにたむろしていた角付きフードの集団にレイリは上機嫌に口笛を吹く。

「ねえ、そこの貴方たち」

マグマ団の残党たちが振り返る。みな一様に剣呑な表情でボールを構えるが、レイリはそれを意にも介さずにこりと上品に笑い、手の中の『ソレ』を団員に見せる。

「科学者のレイリよ。貴方たちとお話ししたいことがあるの…少し、お時間いただけるかしら?」



合流したチドリ達がエネルギープラントに向かっている途中。モトトカゲに似た謎のポケモンに乗った二人組がヒガンの視界に映る。

「あ、あれ?あの後ろの方に乗っとる人、ベンケイさんやない?」

「なんじゃと!?」

振り返るとそこには確かにポケモンに乗るベンケイの姿が。その前には帽子を被った子供が乗っている。

「師範!?なぜこんなところに!?」

「爆弾の居場所が分かった!オッサンこそなんでこっちに来てんだよ!?」

「放送を聞いてからフチベ君の様子がおかしくなった!今は彼女の足取りを追っている最中だ!」

「クソッ、あいつも操られてんのかよ面倒くせえな!」

「あれ、そこにいるのってもしかしてツルバミさん!?その小さいテラパゴスはいったい…」

「ちょっと僕にもよく分かんない」

「きゅい!」



「おそらくフチベ嬢の様子がおかしくなったのは放送で流れた催眠波のせいじゃ。恥ずかしながらワシも一回かかってもうた」

「師範が!?…いや、しかし今師範が正気に戻っているということは催眠は解除できるということですね?」

「おうとも!催眠の強度は案外弱めじゃからの、一発バチン!とビンタでもしてやれば正気に戻ろうて」

「嫁入り前のレディに手を上げろと…?」



エネルギープラントの入り口はテラリウムドームへ続くトンネルのすぐ手前。生徒が侵入できないよう、通行パスを持つ職員しか通行できないゲートが設置されている。

「げ、催眠食らったやつらが集まってきてやがる…」

「我々の足止めといったところか。これだけの数となるとさすがに厄介だね」

「フチベ君の姿が見当たらないな…どこか別の場所にいるのか?」

「あるいはここのさらに奥…ということも考えられるの。なんにせよ、ここで誰かが殿(しんがり)を務めねばプラントに侵入することも難しかろうて」



「私が行きます!皆さんは早く先に進んで!」

「すまん、助かる!」

「タロ先輩、無事でいてください!」

タロが殿として残り、他の者たちが人混みを縫ってゲートへと進んでゆく。

「あっちがゲートだべ!」

「た、確か職員パスがないと入れないんじゃありませんでしたぁ!?どうするんですか?」

「強行突破しかなかろう!エースバーン、『とびひざげり』!」

「ふぁいにーー!」

エースバーンの鍛え抜かれた技にゲートは無惨にもひしゃげて、人一人が通れるくらいの隙間が生まれる。

「今じゃ、突入するぞ!」

「私はここで生徒たちを食い止めます」

「ネリネ嬢、後ろは任せたぞ!」


「…なあ、いくらジジイのポケモンっつってもよ、ポケモンの技一発で簡単に空くゲートって防犯的にどうなn」

「チドリ君、それ以上言ってはいけないよ」



チドリたちがエネルギープラントに侵入すると、そこではすでに誰かが交戦している真っ最中だった。

「あれは…フチベ君!?」

「アカマツに、カキツバタもいる!どうしてこんなところに!?フチベさん、ここで二人とも相手してたんだべか!?」

「おっ、その声はスグリかい!?悪いが今ちょっと手が離せなくてよ…うおっと危ねえ!」

「怪しいカッコした連中がこの奥に入っていくのが見えたから後をつけてたんだ!でも途中でこの子が襲ってきて…!」

「……。」

「…状況はアカマツ君とカキツバタ君がやや劣勢のようだね。二人同時相手だというのにまったくとんだお転婆さんだ」

「誰か加勢してやった方がよさそうじゃの」



「師範、すみません。自分は…フチベ君と戦うことは、できません…今の私ではきっと、本気の彼女に勝つことはできない…彼女の相手は師範にお願いします」

「…ベン坊は本当にそれでいいのかや?」

「……申し訳ない」

「…なればワシが止める道理もないか。ここはワシらが相手する、お主らは早く最深部の方へ行けい!」

「師範、ありがとうございます!」

「負けんじゃねーぞジジイ!」


「…さてと、ベン坊のためにも負けるわけにはゆかんのう。ちいと痛い目を見せることになるやもしれんが、覚悟なされよ…お嬢さん」


フチベレイド戦🎲(誰か一人でもフチベより大きい出目が出たら勝利)


フチベ dice1d100=64 (64)


ヌルデ dice1d100=10 (10) +20(教え子の頼みバフ)

カキツバタ dice1d100=67 (67)

アカマツ dice1d100=56 (56)



カキツバタのブリジュラスがフチベのイルミーゼに止めの一撃を浴びせる。これでフチベの手持ちは残りゼロ匹、彼女はもう戦えない。

ヌルデがゆっくりと、虚ろな目をして俯くフチベに歩み寄る。

「…フチベ嬢や」


パシン、と乾いた音が鳴る。

わずかに見開かれたヌルデの目が沈痛に歪む。

「いいかげん戻ってやらんか。あの子を…ベン坊をこれ以上泣かせないでやっとくれ」

ヌルデに頬を叩かれたフチベはふらりとよろめいて、倒れそうになった彼女の肩をヌルデがそっと支える。

ヌルデがフチベの顔を覗き込むと、フチベは眼にわずかに涙をにじませて呟いた。

「…そんなこと、言われなくても分かってるわよ」



「見えた!あそこが一番奥、エネルギープラントの熱源部だ!」

「わやじゃ、マグマ団たちがいっぱいいる!」

「ま、まだあんなにいたのぉ…!?この学園の警備ガバすぎひん!?」

「どこまでも邪魔しやがって…!オッサン!ここは二手に別れるぞ!」

行く手を塞ぐ団員たちをチドリ、ツルバミ、スグリが蹴散らし、残り3人が通る道を作る。

「俺らもすぐ後を追う!お前らは一足先に行け!」

「ここは俺たちに任せて!」

「ありがとうスグリ!ベンケイさん、ヒガンちゃん、またライドで突っ切ります!しっかり捕まっててください!」

「う、うん!」

「この学園で好き放題した報いは、きっちり受けてもらわねばな」



エネルギープラントの最深部。ブルーベリー学園の海底火山に唯一繋がっているそこには、すでに大量の爆薬が運び込まれていた。

「着きました、最深部!」

「ふ、ふへぇ…揺れすぎて…あたまクラクラする…」

「ヒガン君、しっかりしたまえ」


積み上がった爆薬の山の前に立っているのは一人の男。こいつがこの騒動の首魁か。今すぐにでも首根っこを掴んでぶん殴りたい衝動を抑え、ベンケイは努めて紳士然と男に向かって話しかける。

「そこまでだ。ずいぶん派手に暴れ回ってくれたようだが、もう逃げられないぞ。…君たちの計画はここで終わりだ」

「……。」

男が振り返る。何の変哲もない、どこにでもいるような平凡な風貌の男。だがその目は狂気に満ち、鈍い紫色に輝いている。…紫色?僅かな違和感を覚えながら、ベンケイは前方を睨みつける。男はそれを意にも介さず、突然笑い始めた。

「ふふ…ははは。いきなり押しかけて何を言い出すのかと思えば。貴方たちの命を握っているのは私の方ですよ?」

男が懐から『ナニカ』を取り出す。

「この部屋にある爆弾の起爆スイッチ…それは私が握っています。私がボタンを押せばそれでおしまい、この部屋は木っ端微塵に吹き飛び、海底火山の噴火でこの学園は土の下となることでしょう」



「…そ、それがどういう意味か、分かってるの?この部屋が吹っ飛ぶってことは…あなたも無事では済まへんのよ?最悪…死んじゃうかも」

「ええ、知っています」

「ならどうして、」

男が醜く口角を吊り上げて嗤う。

「それが何だというのです?」

「…は?」

「私はただあの方の理想のため…人類の発展のため貢献できればよいのです。命などはなから微塵も惜しくはありません!この星に人類の活動圏がまたひとつ増える。たとい私の名前が後世に残らないとしても、それだけで私の生には価値があったと言えるでしょう。この新しき楽土の下で、我々は永遠となるのですよ!…もちろん、貴方たちの尊い犠牲も含めて」

男の目が爛々と光る。欠片ほどの正気も宿さないその目はしかしどこか妙に純粋で、ベンケイ達は背筋にいいようのない寒気を覚える。

「こ、こいつ…」

「…もはや彼も正気ではないようだね。こうなれば話し合いでは埒があくまい」



「私を力で捩じ伏せようとでも?あはは、ご冗談を!その前に私がスイッチを押す方が早い!分かっていて手を出すほど貴方たちも愚かではないでしょう?」

男が手にしたスイッチを高く掲げ、ベンケイたちはボールを構えた姿勢のまま沈黙する。

「くっ…!」

「爆弾さえなければこんな奴、いてこましたるのに…!」

「…ふ、パルデアチャンピオンご一行様とあろうものが無様ですね。どうせ今日の日没には時限装置が作動してこのプラントは爆破されます、それまでどうぞごゆっくり」

男はスイッチを大事に抱えて後ずさる。後ろには緊急脱出ハッチ。この場から逃げ出すつもりだ。何もできないベンケイ達は指を咥えて見ているほかない…


…かに思われた。


「あら、それはどうかしら?」

響く少女の高い声。それと同時に、濁流がプラント熱源部を襲う。

ベンケイたちの背後から現れたのはラグラージを連れた銀髪の少女。

「…フチベ君!来てくれたのか!」

「さあ観念なさい小悪党。あたしのラグラージの特性は『しめりけ』。この子がいる場じゃあ、どんなに爆弾を積んだって爆破することはできないわよ?」

「…くそっ、小うるさいコラッタどもがうろちょろと…!」

「コラッタはどちらの方かしら?…ベンケイ」

「…なにかね、フチベ君」

「あのイカれポンチ野郎、徹底的にぶっ潰すわよ」

「…ああ!」


「…あれっ、うちら完全に空気になってへん?」

「ヒガンちゃん、シッ!」


イカれ野郎レイド戦🎲dice1d4=3 (3)


1.オリキャラ組の勝利!

2.オリキャラ組の勝利!

3.オリキャラ組の勝利!

4.オリキャラ組の勝利!



最大の武器を失った男はポケモンを繰り出して必死に抵抗するが、そこは百戦錬磨のベンケイ達。いまさら元マグマ団の成れの果てごときに苦戦するような腕ではない。あっという間に男のポケモンを捻り潰し、男を部屋の隅まで追い詰めた。

「観念せえよ、マグマ団…!これであんたらの野望もお終いや!」

「くそ…こんな…本願の叶う、一歩手前で…」

男は膝から崩れ落ち、血が出そうなほどの力で拳をきつく握りしめる。

終わった。

頼みの爆薬は無効化され、戦える団員たちももういない。これで我々の野望は潰えた。もうできる手立てはない。自分にできることは、ただ大人しく拘束されて警察の到着を待つことだけ…


…と、その時、男の脳裡に白衣の女の言葉が蘇る。


『それ、深海でも作動できる特別製の爆弾なの。面白いでしょう?』

『私にはもう必要ないし、貴方たちにあげるわ。代わりにホウエン地方の伝説のポケモン…グラードンについてのデータを少しいただきたいのだけど、いいかしら?』

『捜査官と一緒にいた女を信用できるか?うふふ、やだあ!私があの子達の仲間だとでも?彼らはただの同行人よ。私の正体もバレちゃったみたいだし、このままあの子たちを生かしておいても何かと都合が悪いのよねえ。だぁかぁらぁ…』

『どうせなら最後に、ぜーんぶ気持ちよく吹っ飛ばしちゃおうと思って♡』


信用はしていない、だがもうこれしか手段はない。

祈るような心持ちで、男は隠し持っていた爆弾のスイッチを押した。



ズズン!と遠くで何かが崩れる音がする。

「なんだ!?」

「急に地鳴りが…!」

「…あっ!?見てくださいベンケイさん!窓の外!」


「海底火山が…!」


学園崩壊の足音は、もうすぐ近くまで。



「行けっ、行けーっ!今すぐこの海中から抜け出せい!さもなくば溶岩に飲み込まれるぞ!」

「ひいぃっ!」

「だれか助けてー!」

「み、みんな落ち着いて!俺が誘導さすっから、みんな並んで俺についてきて…」

「そんな悠長なこと言ってられるか!」

「ああっ、そんな一気にエレベーターに駆け込んだら詰まっちゃう!」

「くそ、なんで非常階段のひとつも用意してねえんだよこの学園はよぉ!?」

「バトル以外の部分がおざなりすぎるのよ!」

正気に戻した生徒たちを皆で避難させようとするも、いかんせん生徒の数が数。このままでは避難が完了する前に学園がマグマに呑み込まれてしまう。

「諦めるでない!せめて救える命だけでも、ワシらの手で最大限掬い上げるぞ!ツルバミ、思いつく限りありったけのタクシー会社に連絡を!生徒たちを近い陸地に運ばせてやれ!…ツルバミ?」

「た、大変ですっ!ツルバミさんの姿がどこにも見えません!」

「はぁ!?この緊急時にどこほっつき歩いてんだよあの脳味噌エリアゼロ!」



「きゅい!きゅい!」

「こっちかい、テラパゴス!?」

「きゅっきゅー!」

ヌルデ達が生徒を避難させている頃。ツルバミはひとり、エネルギープラントの最深部へと向かっていた。すでに中には毒性の火山ガスが充満し、ツルバミは慌ててガスマスクを着ける。


プラントの機関部に入ると、もうそこにはマグマが侵出しかけていた。物凄い熱気がツルバミの肌をちりちりと焼く。テラパゴスはそこでツルバミの腕から飛び降りると、ツルバミの腰に提げたテラスタルオーブを指してぴいぴい鳴いた。

「…もしかして、これで自分をテラスタルしろって?」

「きゅっぴぃ!」

「……。」

ツルバミは沈黙する。

はたしてこのテラパゴスの言う通りにしていいものか。ゼロの秘宝・テラパゴス。その能力はいまだ未知数だ。テラスタルすれば本当に、何が起こるかわからない。もしかすればこの最悪な状況がさらに最悪になるかもしれない。だが…

「いや…」

ツルバミがかぶりを振って、テラスタルオーブを握る。

「やってみるまで何が起こるかわからない、それが冒険というものだ!いくよテラパゴス…深淵のその先へ!テラスタル!」


そして、宝石のようにきらめく光が海底を眩く照らす。



テラパゴスを中心に、まばゆい光が溢れ出す。

光り輝く結晶が、辺り一面を侵食していく。

「…なんじゃこれは」

「これって…テラスタル結晶?どうしていきなり…」

「おい…!ジジイ、ヒガン、見ろ!海底火山が変な結晶に覆われてく!」

玉虫色の光を放つその結晶は海底火山をすっぽり覆い、溢れ出るマグマを押し留める。やがて僅かに漏れる溶岩すら結晶へと変わり、火を噴く恐るべき大地の怒りはきらめく結晶の山脈と化した。


「…テラパゴス…君は、こんなこともできるのか…」

「きゅっきゅい!」

「…素晴らしい…素晴らしいよ、テラパゴス…!」

ツルバミは思わずテラパゴスに熱い抱擁を贈ろうとして。

「…あいたぁっ!?」

床に突き出た結晶に蹴つまずき、盛大にすっ転んだ。



「はあ、これでマグマの一連の事件も一段落だなー。あ"〜疲れた、向こう一週間はもう何もしたくねえ…」

「まったくだよ。僕、こういうヤバめの事件は見る専なんだけどなー」

「きゅー?」

「いやどう見てもお前が一番楽しんでただろ…って!いつの間に戻ってきたんだよオッサン!?」

「なんにせよ、こんな大事件は二度と起きてほしくはないね…おかげでしばらくは小説のネタには困らなそうだ」

「…それフラグって言うんじゃないの?」

「……うむ…。」

「はぁ〜あ、帰ったらシアノの奴に一回文句言ってやらんと気が済まんわい!どうなっとるんじゃこの学園の警備…まあバトル馬鹿のあいつらしいと言えばらしいが」

「し、死ぬかと思ったあ…もう海外旅行はこりごりや…」

ブルーベリー学園のエントランスロビー。そのスタジアム観客席で、チドリたちが互いの労をねぎらう。ホットココアを酌み交わしふと西の方を見やると、日はもう落ちかけ、月が顔を出し始めた。


大海に浮かぶひとつの小さな学び舎にて。皆それぞれの願いを懐き、それぞれの想いを抱えながら。

夜は冷たく、静かに更けていく。



ベンケイ「…という推理小説をゆうべ徹夜して書いたんだが」

フチベ「寝ろ」


〜完〜



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