オペ開始
空色胡椒「ヒーリングっどプリキュア…」
「お待たせ、キュアプレシャス。一緒にレシピッピさんを助けよう!」
「うん!マリちゃんはブラペの方を助けてあげて。1人で戦う気みたいだから」
「わかったわ。プレシャス、グレース。こっちは任せたわよ!」
プレシャスの言葉にうなずき、エールを送りながらローズマリーが駆け出した。メガビョーゲンと対峙しているのは8人のプリキュア。
「アース、今のメガビョーゲンの強さはどれくらい?」
「わたくし達が来るのが遅れたので、ある程度は成長しているようです。けれども、この特殊な空間のおかげで地球を蝕むことができずにいたからか、その成長速度は高くはありません」
「じゃあ、まずはレシピッピの場所を探そう!」
「うん。ラビリン、お願いね」
「ラビ!」
「「キュアスキャン!」」
ステッキと一体化しているラビリンがメガビョーゲンに捕らわれているレシピッピを探すためにキュアスキャンを発動する。一通りメガビョーゲンの体を光が走ると、その右胸のあたりが輝く。
「見つけた!」
その様子を窺っていたプレシャスたち。改めてグレースたちがこの敵と戦うエキスパートであることを実感する。ただそれでもただじっと見ているだけなわけにはいかない。レシピッピを助けること、それは自分たちにとっても大切な使命なのだから。
「グレース!」
「プレシャス、みんな」
「あたしたちも手伝うよ」
「お手当てそのものはできないかもしれないが、それでも力にはなれるはずだ」
「一緒に、レシピッピを助けよう」
「ヤムヤムたち、みんなの力で」
視線を交わし合う両チーム。グレースたちは知っている。例え力のルーツやチームは違えども、プリキュアとして共に戦うこと、それがもたらす強さも。だから─
「もちろん、アタシは賛成!みんなは?」
「そうね、一緒にやりましょう」
「共に参りましょう」
「…うん。プレシャス、力を貸して」
「うん!」
「メガビョーゲン!」
のんびり待っているだけなはずもなく、メガビョーゲンの放つ光線が8人を襲う。と、それを受け止めたのは黄色い肉球状のバリアと青いパン状のバリア。スパークルとニャトラン、スパイシーとパムパムの防御技が、メガビョーゲンの攻撃を防ぐ。
「ナイスパム!」
「おっしゃ。今がチャンスだぜ!」
「今よ」
「行っちゃえ、みんな!」
バリアを展開している二組の後ろから飛び出す6人のプリキュア達。散開しながら接近してくる彼女たちに対して狙いを定めようにもメガビョーゲンは誰から対処するべきかを見極められない。
「行くよ、フォンテーヌ!メンメン!」
「ええ!」
「メン!」
メンメンの力を練りこみ、ヤムヤムが作り出した麵上のエネルギーを伸ばして片端をフォンテーヌに渡す。その二人がメガビョーゲンの足元を抜けるようにしながら足を拘束する。
「メガ!?」
「さらに、氷のエレメントボトル!」
「カチンコチンにしちゃうペエ!」
ヒーリングステッキにセットされたエレメントボトルの力をペギタンが開放することで氷の力がエネルギーのロープを伝い、冷気によって硬化する。バランスがとりにくい状態の上、足元の動きを制限されたことによって、メガビョーゲンの体勢が崩れる。
「「はあああっ!」」
素早く接近したのはアースとフィナーレ。並ぶように飛び上がりながら拳を握った2人はメガビョーゲンの腕、フライパン上の武器を持っている方の手を正確に狙い撃つ。フライパンの硬度や面の広さは十分に盾としても機能する。そのリスクを無くすためにまず武装解除を狙ったのだ。ダブルパンチの衝撃で緩まされた手からフライパンが落ちてメガビョーゲンが無防備な状態になる。
「今です、グレース!」
「プレシャス、頼む!」
「「うん!」」
グレースがヒーリングステッキを構えるのと同時に、プレシャスが勢いよく駆け出す。
プレシャスが右腕にエネルギーをため、その横でグレースがラビリンと3度キュアタッチをしエレメントパワーを上昇させる。
プレシャスはメガビョーゲンの左胸を、一方グレースはレシピッピが捕らわれている右胸を正確に狙う。
「1000キロカロリー、パーンチ!」
「プリキュア・ヒーリングフラワー!」
プレシャスの拳がメガビョーゲンの左胸に命中することで、体をのけぞらせ、胸を逸らすような形になる。それにより生じた大きな隙を狙い、グレースの浄化技が放たれる。グレースとラビリンのエレメントパワーを高めた桃色の閃光が、メガビョーゲンへと迫る。動きを制限されたメガビョーゲンにはそれを避ける術も防ぐ術もなく──
飛んできた複数のメガパーツがその胸の個所に突き刺さった。
──────────
ほんの少し前。
拳と拳が激突する。衝突して離れてを繰り返すのは赤と黒の少年と白と黒の少年。
「へぇ~。プリキュアでもないのに、案外やるじゃん」
ダルイゼンが漏らしたのは単純な感嘆の声。特段目の前の相手に対して興味もなかったが、ヒーリングアニマルの力を貰っているわけでもなく、またあの新しいプリキュア達とも明らかに違う存在でありながらも自分とある程度渡り合っていることには素直に感心していた。
「ブラペ!大丈夫?」
「っ、はぁ。問題ない」
ローズマリーが心配するように声をかけるも小さく息を吐いてから気丈に振る舞うブラックペッパー。とはいえ実際のところ問題ないと言えるようなことではない。ローズマリーとブラックペッパーはダルイゼンのことをよく知らないが、彼は本気を出せばプリキュ4人を同時に相手取れるだけの力はある。本来であれば現在の2人が協力しても足止めできるかできないかレベルの強敵なのだ。
それでもブラックペッパーが渡り合えているのは主に2つの要因が絡んでいる。
1つは彼本人が想像以上に打たれ強いこと。ダルイゼンもダメージを与えていたはずだがどういうわけかその影響が見られない。これについてはほぼ無意識的に彼が父から受け継いだ力を行使しながら戦っていることが影響している。石を通じて彼の体はダメージを回復しながらくらいついているのだ。
2つ目はダルイゼン本人のやる気の問題である。彼が基本的に関心あるのは地球を自分が住みやすい環境にすること、そしてキュアグレースとの因縁、この2つのみ。ことさら前者についてはどれほど時間がかかろうとも最終的にできればいいというスタンスであるため、関心があるといってもそのために本気を出すことはまれである。グレースとの因縁についても先ほど既に種は蒔いた。後は彼女がどういう結論を出すか、それとも潰れるのかを待つのみ。つまり、彼自身にはほとんどモチベーションがないのだ。
(こいつ…全然本気じゃない。くそっ)
「驚いたよ。プリキュアみたいな特別な力を貰ってない人間でこんな力があるなんて。けど、見たところプリキュアみたいにお手当てはできない感じか。できて精々が足止めや時間稼ぎってところかな?」
「だったらどうした?」
「虚しくならないの?お前自身が何をやっても、結局最後は誰かに任せないといけない。必死に身体張っても自分じゃ解決できない。何もしないのと変わらないんじゃない?」
「そんなことないわ!ブラペには私も、あの子たちも何度も助けられてる!」
ダルイゼンの言葉にブラックペッパーが反応するよりも先に発されたローズマリーの言葉に少々驚きながらも、その言葉は嬉しいものに違いなかった。その言葉と、いつか貰った「ありがとう」の手紙。それが胸の中にある限り─
「…ありがとう。確かにお前の言う通り、私だけではレシピッピを助けることはできない。自分の力の限界を、もどかしく思うこともなくはない。だがそれでも、私にも守りたいものがある。たとえお前から見て虚しいものだったとしても、余計なお世話だったとしても、私はレシピッピを助けたい。そして、レシピッピを助ける彼女達、プリキュアを助けたい!」
「…ふ~ん」
『わたしたちは助け合ったり、支え合ったり…そうやって生きてるんだよ』
「お前も、そういうタイプか…」
チラリと視線をメガビョーゲンの方へと向けるダルイゼン。まさにアースとフィナーレによって武装解除されてピンチになったところで、プレシャスとグレースが浄化技を放とうとしている。
「ちぇっ。このまま終わりってのも、癪だしね」
素早くポケットにしまっていた数個のメガパーツを取り出したダルイゼンがそれらをメガビョーゲンへと投げつける。咄嗟のことで初動が遅れたブラックペッパーだったが数発の光弾を放つ。3発命中しメガパーツを砕くことに成功したものの、残りはそのままの勢いでメガビョーゲンへと突き刺さる。
「何をした!?」
「メガビョーゲンはさ、お手軽な強化も可能なんだよ。体から発生したメガパーツを埋め込むことでね。といっても、これまでは別の個体から採取したものを埋め込むことしかしたことなかったから、同一個体にしたらどうなるかはわからないけど。で、どうする?あっちの手伝いをした方がいいんじゃないの?」
「…いや。ここでお前を放っておいたら、また同じようなことをするかもしれない。私は、プレシャス達と、グレース達を信じる」
「あっそ…」
めんどくさいという気持ちを隠すつもりもなく、ダルイゼンはため息をついてから改めてブラックペッパーと向き合う。実際の実力としてはプリキュア1人分と遜色ない。でもそのくらいだったら、本気でかかれば多分倒せる。メガパーツを使って自身を強化していた時ほどには力はないが、それでも十分だろうと判断する。
瞬間、既にブラックペッパーが目の前まで肉薄していた。
「は?」
「つあっ!」
咄嗟に防御したダルイゼン。それでも交差した腕の上から叩き込まれた拳の衝撃に少し後ずさる。明らかにさっきよりも速くなっている。
「どういうこと?」
「何があっても、私はここでお前を止める!」
「彼のスピードもパワーも上がってる…デリシャストーンが、彼の気持ちに応えて更なる力を引き出してるの?」
その様子に驚いたのはダルイゼンだけではなく、戦いを観察していたローズマリーもだった。これまで見てきたブラックペッパーは戦闘の中で新たな技術を会得したり、能力の精度が向上したりと成長を見せてきた。今回のこれもその一環かもしれない。
「私達はあなたのことをよく知らない。何故デリシャストーンを持っているのか、何故正体を隠しているのか、何故私たちを助けてくれるのか」
でも、そんなことは関係ない。今彼の意志に応えるようにあのデリシャストーンが輝いていることが何より雄弁に語っている。
「それでも、あなたを信じてるわ」
スペシャルデリシャストーンが壊れてしまったことにより、自分は直接戦闘に加わることができない。それでもこれまでクックファイターとして鍛えてきた身体能力も、大人としての経験からくる思考もある。自分にできるやり方で。そう思いローズマリーはダルイゼンとメガビョーゲンについて弱点を見つけられないかと改めて観察を始めるのだった。