オディールの休日
ジェネリックメルトリリスに妹属性が付くとここまで無敵とはこのリハク「全然ダメ。レディの扱いがまるで分かってないわ」
空座町最大のショッピングモール。
『買い物に付き合いなさい。私をエスコートする栄誉を許してあげる』なんて台詞と共に突然やってきたメルトに、散々振り回された挙句下された評価がこれである。
「バズならどんな段差でも車椅子を揺らしたりしないし、ユーゴーなら何も言わなくても私の行きたい方向に向かってくれるわ。アナタは精々40点かしら」
「わ、悪かったな!ていうか誰だよその2人」
「兄よ。もっとも、血が繋がっているのはバズ一人だけど」
彼女の言葉に驚く。……潜入した虚圏で仲間たちとはぐれ窮地に陥った俺を、霊子の矢で救った滅却師。神出鬼没に現れては、メルト・ブラックという名前以外の全てを『乙女の秘密を覗くつもり?マナー違反にも程があるわ』の一言で隠し続ける謎の少女。
そんなメルトが、初めて自分のプライベートな情報を口にした。少しは信用されている、と思ってもいいのだろうか。
本当ならば、怪しさ極まりない彼女を俺が信じてしまっている今の状況の方がおかしいのだ。石田や浦原さんが知れば「危機感が足りない」と説教されるだろう。だが──
「…あぁ、それでか。何でほっとけないのか、納得できたぜ」
兄の名を呼ぶ少女。気安さとぞんざいさと確かな暖かさが篭ったその声色は、昔から聞き馴染みがあるものだ。
「なぁメルト。俺にも妹が2人居るんだ。今度はアイツらも一緒に買い物しねぇか?女子がいた方が楽しいだろ?」
良かれと思って提案したのだが、返ってきたのは氷のような視線だった。
「……この私を、幼児に毛が生えたようなアナタの妹と纏めて扱う気?酷い侮辱だわ」
「お前なぁ…大して年齢変わらないだろ」
「100倍は人生経験を積んでいるつもりよ。馬鹿にしないで」
頬を膨らませた姿で言われても説得力が無い。口に出したら更に怒るのは間違いないので止めておくが。
「それに──ねぇ、黒崎一護」
不意にメルトが両腕に力を込め、車椅子の肘掛けに手を付く。上半身が浮き上がるのを慌てて支える。澄んだ緑色の瞳が目の前に迫った。
「アナタにとって、私は本当に妹と同じような存在?」
「……な」
「なんてね。冗談よ。さぁ、今日はもうこれでお終い。早く駅まで送ってちょうだい」
すぐに視線は逸らされてしまった。俺は謎に速まった動悸をどうにか抑え、車椅子を押し始める。
「…あのさ、メルト」
「舞台を降りた女優に気安く話し掛けるべきじゃないわ」
「何だよそれ。俺と買い物するのは演劇か何かか?」
こちらに背を向けているメルトの表情が強張ったのが、何故だか分かった気がした。
「……そうね。いっそのこと、最後まで演じきれたら良かったのかもね」
──これは、俺がアズキアロ・イーバーンを名乗る破面の襲撃を受けるより前。最後の日曜日の出来事だった。