エルフと共存

エルフと共存



やっほ。エルフだよ…一応まだ生きてます。

上の町を征服し終わったごぶりんたちは今度は防衛設備を整えようとしているらしい。実際少し小さめとはいえ一都市が侵略、破壊されたのだ。ここでゴブリン軍団が発生したと国が判断してもおかしくない。

ゴブリン軍団の形成はゴブリンロードの誕生などでごく稀に起こり、そのたびに数個の都市が略奪を受けたり、いくつもの村が破壊されたりするのだが逆に言えばその程度の被害で済む。前にも言ったがゴブリン軍団は軍勢を目を覆いたくなるような自転車操業で維持しており、その上これは苗床が機能する間しか通用しない。言ってしまえば彼らは数ヶ月もすれば自然に消えてなくなる。

しかしそれでも彼らゴブリン軍団はA級災害[複数の都市が壊滅しうる危険度]に認定されている。

確かにゴブリン軍団が発生すると防壁などがない村や小規模都市、農園などは侵略され、再建が難しいほどに文字通り根こそぎ奪い尽くされる。だがそれだけなら似たような被害を出すモンスターは存在するし、上位竜と並ぶ危険度があるとはとても思えない。

それもそのはず彼らがこの危険度で登録されているのはその討伐難易度からだからだ。

もちろんゴブリン軍団が上位竜と同程度の強さを持っているといっているわけではない。仮に上位竜とゴブリン軍団が戦うことがあれば、十中八九上位竜が勝利するだろう。しかし仮に人間が討伐するとなった時、より多くの犠牲と被害を出すのはゴブリン軍団の方だ。

彼らは攻城兵器を持たないため、城塞都市を攻めることこそ不得意ではあるが野戦やゲリラ戦に関してはプロフェッショナルであり、数と特殊な能力を持つ特異種を活かしてはるかに格上である上位騎士団や高位冒険者のパーティーでさえ獲物にする。実際少なくない数の国の誇る英傑達や偉業を成し遂げた冒険者がこれによって命を落としている。

自らの命をも恐れない勇猛な戦士たちだけで構成された軍隊と言えば、その恐ろしさが伝わるだろうか。そして男と殺した兵は食糧に女の兵は苗床に、彼らの装備は変異種になって軍団を強化していく…

さっき軍団は苗床が使い物にならなくなれば勝手に瓦解するといったが逆に言えば苗床がいる限り無限の軍団を生み出すことができるわけだ。下手な攻勢では敵を塩を贈ることになり、たとえうまくいっても逃してしまえばまたすぐに軍団を立て直されてしまう…

簡単にまとめるとゴブリン軍団は戦えば戦うだけ強く長生きになる相手ということだ。

そういうわけでもしゴブリン軍団が発生したなら防壁のある都市に逃げ込むのが最も安全なのだがここでも問題が発生する。流通がなくなることで都市内で飢餓が起こるのだ。

攻城兵器がないとはいえひっきりなしに攻めてくるゴブリンと戦いつつ、避難民がなだれ込んでいる中、都市で蓄えていた食糧で数ヶ月間持たせるのはほとんど不可能と言って良い。個人の手持ちの食料の奪い合いや口減し、殺し合いが起きることも珍しくない。

このような理由からゴブリン軍団は発生したてなら全力で潰す!無理そうなら農場と苗床と餓死者を見捨てて都市に籠る!という対策が取られている非常に危険なA級災害なのだ。

ただこの群れは都市を落とした実績からすでに手に負える段階ではないと判断されてしまうかもしれないが実際には全くそんなことない。

王国騎士団が来たら簡単に制圧できるだろうし、そもそも一般的なゴブリン軍団で指揮官となるゴブリンロードやジェネラルも存在しないため相手を逃さない戦い方もできず、さらには肉盾や死体投擲による疫病の伝染といった戦術も使わない。

この都市を奪えたのはあくまでも都市の地下という想定外の場所からの奇襲と火計のおかげだ。群れ自体の強さが過大評価されてしまっている。

そして自分たちで食糧を生産できるこの群れを放置するのはあまりにも危険だ。彼らは都市の周りに広がる広大な土地を手に入れた。仮に彼らがこの土地で農耕を始めたのならそれは終わらないゴブリン軍団が発生することを意味する。

もし軍がこのゴブリンの群れが小さい内に来なければ、この国は…いやここの周辺の国家は全て滅びるかもしれない。

なのに防衛設備の強化なんかされて力を蓄えられたらどうすれ…待って…あのゴブリンが作ってる柵みたいなやつって機能しなくない?あんなの馬の突撃どころか兵士の体当たりすら防げないぞ。…案外どうにかなるかもしれない。


あれからしばらくたったが軍が来る気配が全くしない…やっぱり今のうちに籠る準備をしてるのだろう。妥当な判断なんだけど、それ今回は悪手なんだよなぁ‥

あと最近苗床にうるさい奴が増えた。ギルド名義で崩壊した都市の様子を確かめてくるとかいうクエストが相場の二十倍で出てたらしくそれを受けてきたら捕まったとかいう新米の冒険者だ。

…ギルド側もびっくりしたと思うよ…こんな見え透いた死刑執行書にサインするやつがいたんだから…

最初は他の人と同じように泣き喚いてたのに、いつのまにか彼女が過度な行為をしようとするゴブリンをとめたり、食事を分配したり、喧嘩の仲裁をしたりするまとめ役のような存在になっていた。

今もゴブリンから渡された野菜(肉は絶対にもらっちゃダメ)で作ったスープを配っている。

「本当によく頑張りますね…あなたも…」

「あ!エルフさんいつもお手伝いありがとうございます!でも無理しないでくださいよ?最近起き上がったばっかりなんですから」

「これくらいなんともありませんよ。この調子ならおそらくあと2、3日で苗床に復帰させられるでしょうね。」

「あ…すみません。イヤなこと思い出させちゃって…」

「気にしなくて良いですよ。受け入れてますから。」

「…エルフさんはゴブリンについてどう思いますか?」

「え…?えっと…それはどういう…?」

「ああ、すみません聞き方が悪かったですね。ゴブリンの…他種族の女からしか産まれることができないという生態をどう思っていますか?」

「………そうですね、自分は神様は意地悪だなぁって思います。」

「…神様が?」

「ええ、だって神様はゴブリンになにも与えなかったじゃないですか。モンスターを倒す力も何かを作る知識も生き残るための魔法も…自分たちが愛するべき同種族の女性も。彼らは今日まで自分たちの力だけで生き延びてきたんですから。」

「ふふっ、あの人と似たようなことを言うんですね」

「あの人?」

「あ、正確には人じゃなくてハイゴブリンなんですけどね。前彼に他のゴブリンから首を絞められていたところを助けてもらって…その時いろいろ話したんですよ」

「…詳しく聞かせていただいても?」

「もちろん!彼は今のゴブリンという種族の現状について色々思うところがあったようで私にゴブリンが人間と共存する方法はあると思うかってきてきたんです。

…その時は気が立ってて、助けてもらったのにかなり失礼なこといっちゃたんですけど…お前らが私たちを襲う化け物である限り不可能だって言い返したんです。

そしたら我々が人を襲い奪うように万物を作った神が定めたのだとしたら我々は滅ぶべきものとして生まれたのか、それともただ暴虐の限りを尽くさなければならないのか、と尋ねられて思わず黙ってしまったんですよね。確かにゴブリンはそうすることでしか生きていくことはできないんです。それを否定することは彼らに死を強制することでしかないんですよ。

うん?随分気取った言い方してるって?なんか王子様みたいでかっこいいじゃないですか!

ま、まあそれで2人でゴブリンと人間が共存について色々議論してるうちにそこそこ仲良くなったて感じですね!」

「…面白い話をありがとうございます。最近率先して私たちをまとめたり、ゴブリンと関わるようになったのはもしかして…」

「お!よく分かりましたね。そうですね、彼に頼まれたんですよ。…最近無理私たちを働かせようとしたゴブリンがみんなに抵抗されてそれぞれが十人ぐらい亡くなった事件があったじゃないですか。もうこういうことが起こらないように私たちをまとめて欲しいと言われまして。」

「なるほど…そうだ、くれぐれも他の人に今の話をしないようにしてくださいね?」

「流石にそれくらいわかってますよ。ご心配ありがとうございます。」

…彼女は何にもわかっていない。

おそらくゴブリン達は数の多い私たちの反乱を危惧して人間側にも監視役兼ヘイトタンク兼スケープゴートを作ったのだろう。こんな状況では自分たちをまとめる存在に依存したり、逆に疎ましく思ったりしてもおかしくない。そうすると私たちの間に対立が生まれ、反乱どころじゃなくなるし、仮にまとまってもリーダーが彼女である限り反乱は起きない。おそらくハイゴブリンがやけに気取った喋り方をしていたのも街で手に入れた恋愛小説なりを参考にしたんでしょう。

…なるほど、本当に彼らは進化していってるようだ。

だけど…皆が彼女に気を取られている間は自分がこの群れの変異種のほとんどを生んで群れを大きくさせた元凶だということを気づかれずに済む…

どうして…都合がいいなんて考えてしまうんだろう…

…もうエルフの里にいたころ私はいなくなってしまったみたい。

ああ、本当に私は--------





「ならよかった、その役割とっても似合ってますよ。」

-----------------最低だ。


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