エルフの希望

エルフの希望



どうも…エルフですよ…

この街が侵略されてからそこそこ経ったはずなのに軍が送られてくる気配が全くしない…どうやらこの国はこれを完全に大規模なゴブリン軍団が形成されたと判断してしまっているようだ。

何かがおかしいと気づいて軍がやってくることがあったとしてもその頃にはこの群れも立派なゴブリン軍団にまでなっているだろう…

…終わりなのかな…?私も…この国も…もしかしたら故郷のエルフの里も…?

‥ねえ本当に誰も来ないの…?誰か助けてはないの…?ただ自分の子供たちがが人間を虐殺していくのを見ているしかできないの…?



そんなふうに過ごしていたある日彼女はやってきた。

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かつて一つの町があったその場所に。

彼らはいつものように各々が何かしらの作業しながら次の侵略の計画を話し合っていた。

そんな中、一匹のゴブリンが慌てたように叫びながら報告をしにやってくる。

『おい!あっちでサボ…作業してたら、ソロの冒険者っぽいやつがいたぞ!しかも女だ!』

『マ?普通に考えて、集団ならまだしも1人でこんなところに来るわけないと思われるが…』

『いや…ホンマっぽいぞ…ペッロ!これは罠のかおり!』

『なんか怪しい…怪しくない?』

『しかし…周りに他の冒険者が隠れているわけでもなさそうなのです…』

『考えたって無駄無駄。どうせやること変わらんし』

ゴブリンは少し怪しみながらも彼女がやってきた方角を封鎖して逃がさないようにする。

そして彼女が街の中に入り、包囲して一斉に飛びかかろうとしたまさにその時

「いつまで隠れているつもり?さっきからずっとばれてるし、囲い終わったんなら早く襲ってきなよ」

『やべえよ…やべえよ…こればれてるって!』
『もちつけ!とりあえず怖気づけさせるためにみんなで出ていって人数差を見せつけてだな…』

『馬鹿野郎!奇襲のアドバンテージ捨ててどうすんだ!』

『ばれてる時点で奇襲もクソもないだろ!それに鎌をかけただけかもしれないから落ち着け!』

「『もー少し時間かかる感じですかー?』」

『すいませんねぇ、すぐ出ていくのでもう少し待っ…え?』

『キェェェェェェアァァァァァァユウシャガシャァベッタァァァァァァァ!!これ相手に作戦会議筒抜けじゃねえか!』

『もう全員で囲んで叩くしかねえ!』

物陰に潜んでいたゴブリンたちが一斉に動き出す。彼らは日常的に戦闘訓練を行っており、その動きは通常のゴブリンとは比べ物にならない。

そんな彼らの無数の凶刃が彼女にむけられる。そんなゴブリンに対して彼女はただ剣を一振りした。

たったそれだけでその場のゴブリンの8割が即死した。残ったゴブリンも寸断の隙も与えずに放たれた二撃目によって十人程度まで減らされてしまった。

『「マ、マテ!ハナシアイ!スル!」』

「へえ。こいつら人間の言葉も使えるのか。あそこにある畑といい、君たちには本当に驚かされるよ。」

『えっとですね…都合のいい話であることは十分承知なのですが見逃していただいたり…』
「なんで見逃さなきゃならないんだよ。あと急にゴブリン語に戻るな。なんでボクがあわせないといけないのさ。『まあ君たちの聞くに耐えない人間語聞くよりはマシか。』」

『ア、ハイ。いやそのアレじゃないですか。自分たち食料とか諸々自給自足できるんですよ。それに苗床も近くにハーピーみたいなモンスターがいるんでそいつらを捕まえれば人間を襲う必要もないんですよ。』

『つまりですね…その…もう二度と人間も村も襲わないし、今捕まえてる人間全員解放するんで見逃してもらえませんか』

『魔法で強制力のある契約とかでも大丈夫ですから…どうか…』
「『ほーん…ところでこの街をこんなふうにしたのは君たち?嘘はつかないほうがいいぞ。』」

『スゥーーーーーー………………………自分たちっスね…』

「『ドーモゴブリン=サン。勇者です。

  ゴブリン死すべし慈悲はない。ハイクを詠め、カイシャクしてやる。』」

『アイエエエエ!ユウシャ!?ユウシャナンデ!?』

『オレたちはしめやかに爆発四散!』

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上から大きな戦闘音が聞こえる…しかしすでにここにいるゴブリンたちは以前とは比べ物にならないほど強力になっている…

高位の冒険者などが来たとして…勝てるかどうか…

そんなことを考えていると、急に1人の女性によってこの部屋の壁が大きく壊され、そこから地上の光が差し込んでくる。

その壁からやってきた彼女は私たちを見るなり、こう言った。

「皆さん!救出が遅れ申し訳ありません!勇者エクス・マキナ!ただいま参上しました!」


あれからしばらくしてよその町からたくさんの冒険者やら商人がやってきた。

生き残りのゴブリンの駆除や街の再建のための現場の調査などを行っているらしい。

勇者様は救出した女性一人一人に声をかけ、それぞれと向き合ってくれた。

中には勇者にどうして早く来てくれなかったのかなどと恨み言を言う人もいたが、そんな人にも彼女は言い訳することなく、その言葉を黙って受け止めていた。

例のハーピーたちは羽を抜かれてしまい群れにも帰ることができないということで、一時は討伐されかけたのだが、人間語とゴブリン語、ハーピー語を習得していたため冒険者ギルドで働くことが許されたらしい。

ただ彼女たちが守り続けた子供はそうではなく、若干ゴブリン気質があり子をモンスターに任せるのは不安が残るという話になったので勇者が引き取りてになったそうだ。最初こそ彼女らも反対してたものの、勇者に命に変えてでも絶対に守るという誓いを聞いて渋々承諾していた。

…本当に美しい人だな。容姿がそうだと言っているのではない。(もちろん容姿も美しいが)

彼女の精神、在り方は周りにいるものに未来への希望を見せ、その清廉潔白な人柄は生きる希望を与えた。

…私たちが閉じ込められている部屋を探すために町中を剣で掘ってクレーターを作りまくるという少しお茶目な一面もあるがそこはご愛嬌だろう。


元苗床の子が知り合いとの再会を喜び、泣いているのを見ながら私は隅の焚き火で暖をとっていた。

…いまだに実感が湧かない。が事実私は助かった。

…これからどうしようかな。一旦里に戻るのもなんか違う気がするし、かといってしばらく冒険したい気分でもない。とりあえずは近くの街で何か仕事でもしてるか…

と思っていた時、自分はエルフの男に話しかけられた。

「あの…ひょっとしてエルフの方ですか?」

「はいそうですが…?」

「ああ、すみません。私これでも行商人なのですが同房を見つけたのでつい話しかけてしまいました。」

「いえいえ、お気になさらなくて結構ですよ。…にしても行商人をされているとは珍しいですね。外に出てきたエルフは大抵冒険に憧れたりしているものですが…」

「ハハハ…若い頃に痛い目に遭ってそれで懲りたんですよ。お近づきの印に一杯どうですか?」

「お酒ですか…ンッンッ…フゥ…ずいぶんひさぶりに飲むので流石にききますね」

「あれ、それはすみません。大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。その代わりに私の話を聞いてもらえませんか?」

そこで私はいろいろな話をした。冒険に憧れて里から飛び出したこと。ゴブリンに捕まって、自分の初めてを全てうばわれたこと。自分の子供たちがこの街を滅ぼしたこと。冒険者の子を自分の身代わりにしたこと。

お酒が入っていたせいもあるが、聞いてくれる相手がエルフだったということもあって自分の過去、隠したかったこと、思いもいつのまにか全部喋っていた。

久しぶりに楽しい時間が過ごせた…そんな満足感と共に自分は寝落ちした。





割れるような頭痛と共に意識が覚醒する。

やはり久しぶりのお酒はかなりきたらしい。猛烈な吐き気感じ、近くにあった桶でスッキリしてからようやく自分が「檻」の中にいることに気づいた。


………は?

「あー!やっとおきたんだ!もう昼前だってのによく寝るねぇ」

昨日のエルフの声が聞こえる。まさかあの男が!?

そう思って声の方に視線を向ける。

そこには髪色も声も背丈も変わらない、ただし肌の色が白から褐色に変わった昨日のエルフがいた。

ダーク…エルフ…?なんで?こいつらは魔族に指定されているから人間の街に出入りはできないはず…

「なんでって顔してるね。まあ隠すことでもないし言っちゃうけど、私たちダークエルフはエルフに化けて人間の街に入るために肌を白くする魔法を習得してるのさ。実際エルフである君でさえも気づかなかっただろ?」

「へえ…で私を捕まえてどうするつもり?まさか自分の慰め者にしようってんじゃないよね。」

「そんなことするわけないだろう。ゴブリンが使ったやつなんてこっちから願い下げだ。それに…君は大事な商品だからね。」

彼が指を指した荷台に目を向けるとそこには檻に入ったさまざまな種族の女性達がいた。

「…は?…奴隷商人?…ありえない…ゴブリン軍団が発生したという報告があった場合、流通は商人ギルドを中心に全部中断されるはず…特に奴隷業はその中でも特に厳しく規制されるし、女性奴隷に至っては計画の段階で死罪にされるはずでしょ!?」

「それだけ厳しく規制されるからこそ、需要が生まれるわけじゃないか。実際この子達もゴブリン軍団発生の直後に注文された子達だしね。ダークエルフはこういう裏の商売が大得意なのさ。」

「うん?信じれない顔だね。でも事実だよ。自分が絶対に飢え死にしないとわかっている街の貴族やら大商人やらはこういう時にこそ贅沢をしようとするやつらなのさ。私から言はせて貰えば、ゴブリンなんかよりもよっぽど性欲に忠実な連中だけどね」

「…そう、でも残念だったね!私がどれだけの間ゴブリンの苗床だったと思ってるの?私に性奴隷としての価値は存在しないよ!」

「…それ自分で言ってて悲しくならない?でもそうなんだよなぁ…今の君の価値ってマジで低いからさ…こっちもどうしようか迷っててね…」

「えぇ…じゃあなんで捕まえたのよ…」

そういうと彼はこちらに近づいてきてこういった

「じゃあ聞くけどダークエルフがエルフを苦しめるのに理由なんていると思ってるの?」



一週間ぐらい後だろうか…どうやらあの男は買い手を見つけたらしい。檻が荷台から降ろされ、相手に引き渡される。外で何かを喋っているようだが奴隷が外を見れないようにするために檻に被されている布が邪魔でよく聞こえない。

しばらくすると布外され自分も外の景色が見れるようになる。

そしてそこには見覚えのある顔が沢山いた。

「え…?」

『あ!こいつもしかして!』

「『ああ、彼女から君たちが面白い進化の仕方をしているゴブリンだと聞いてね。友好的な関係を築きたいし、手始めに落とし物を届けようと思ったんだよ。』」

『いやー、ほんとに助かるわ。こちらこそ今後もよろしくお願いします!』

「ね‥ねえ…待って…」

「『じゃあ、私はこのあたりで。』良いじゃないか。君にぴったりの役割だろ?」

「待って!お願い!もうヤダァァァァ!!!」

『おとと…暴れなさんなって…』

…嘘でしょ…ねぇどうしてなのよ

…私が罪から逃げようとしたから?全部忘れて普通に生きようとしたから?それとも自分の子たちを見捨てたから?

ねぇ…お願いです。謝ります…謝りますからぁ…


……だから神様…もう許してよぉ…



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