『エピソードオブRED part2』

『エピソードオブRED part2』


どうしてこうなったのか。

なんで別世界なんてものに来てしまってるのか。

それとも実は夢なのか。

それを考える時間も余裕も今の私にはなかった。


「しっかしウタがいきなり空から飛んでくるなんてな~!びっくりだよ!」

「うーんそれは私もびっくりしてるかな…」

あくまで動揺を出さないように平然とする。

状況を掴みかねてる今は下手なことは言わないほうがいい。

悲しいかな…少なくとも、この船に私の席がまだないことは明白なのだ。

はっきり言って辛い。なんなら泣きたい。

だが今は我慢の時だ。

なんとかして帰る方法を考えないといけない。

「そもそも、こいつ本当にお前の幼馴染なのか?」

「ん?おう!ウタはおれの…」

「そうじゃねェ。誰かが化けてるってことだ。」

ゾロはこちらをはっきり警戒している。

まあゾロはそういうやつだ。仕方ない。

それに…。

「歌姫がそんな物騒な槍なんて持ってるか?」

「あ〜…」

今の私の背にある愛用武器、ヒポグリフ。

そりゃこんなの普通女の子は担いでないだろう。

「今までそういう能力を見たことはあるんだ。偽者って考えるほうが辻褄も会うだろ。」

「え!このUTAは偽者なのか!?」

チョッパーがショックを受けている。

…ナミやサンジといい、少しアクセントが不思議だ。

「でも、そんなの証明の方法なんて…。」

「ヨホホホ!簡単ですナミさん!」

そう言ってブルックがギターを持つ。

「一緒に歌いましょう!私、伴奏できますよ。」

歌。確かに私が私であることを証明するなら一番楽だろう。

「分かった!歌うよ!」

「お、ウタのやつ滅茶苦茶歌がすげーんだぞお前ら!」

「いやそりゃプリンセスウタの歌はよく知ってるよ!」

「彼女のTDや配信は世界に広まってるものね。」


…こっちの私はそんなに凄いのか。

なんだか少し羨ましい気もする…が、やっぱりルフィ達と一緒じゃないのは寂しい。

それを紛らわすように、手拍子を打った。

「悪いけど、これでいいかな?」

「分かりました、では!」

そう言ってギターが引かれる。

私の知るそれと少し違うそれが、彼が私の知るブルックではないと証明するかのようだ。

そんな暗い気持ちを蹴飛ばすように、声を張り上げた。

『逆光』。

己の激情のまま、雑念を蹴り飛ばすかのように歌う。

寂しさを打ち消すかのように、喉を震わせた。


曲が終わる。

全力で歌ったあとの一汗を拭うと…一気に拍手が起きた。

「流石だぜプリンセスウタァ!」

「こんな間近で生なんて…!おれェ!」

「確かにこんなの本当にラッキーよ!」

「アーウ!流石の歌声だったぜェ!」

「なるほど…確かに迫力あるわい」

「U!T!A!U!T!A!」

「うるせェエロコック!…だがまァ…確かみたいだな」

「ヨホホホ!やはり音楽は嘘をつきません!」

みんながそれぞれ褒めてくれる。

とても嬉しいはずなのに…なんだかまた寂しさが込み上げてくる。

今みんなが見ているのは「この世界」の「歌姫ウタ」なのだろう。

そこに「麦わらの一味歌姫」なんていはしない。


「……うん!みんなありがとう!」

それでもひとまず挨拶をして…。ルフィを見る。

「…ルフィ?どうかした?」

「いや…。お前なんかあったか?」

…やはりルフィはこちらでも感情に機敏だ。

「…少し、ね…。ちょっと話せない?」

やはりルフィには相談しておきたい。

それに…。

「…あなたも、いいかな…。」

「…私?」

指名されたロビンが、そう口にした。  


〜〜

「おれ達の仲間ァ!?」

そう叫ぼうとしたルフィの口を慌てて塞ぐ。

いくら見張り台とはいえ大声では聞こえてしまう。

「別世界…そんなものがあるなんて…。」

ロビンも流石に驚いている。それはそうだろう。

普通こんなの与太話だ。

「うん、信じられないかもしれないけどね。」

「でもお前、シャンクスは…。」

このルフィからすれば、当然の疑問だ。

私はまだ赤髪海賊団音楽家と思ってるのだろう。

「シャンクスとはちゃんと話して別れたんだよ。だから本当に私は麦わらの一味。」

「へェ〜…そっかァ!」

ルフィが楽しそうな顔をしている。

きっと私がこの船にいたらを想像したのだろう。

つられて私も今までの旅を思い出してしまいそうだ。


「…少しいいかしら。」

ロビンがここでこちらに声をかけてくる。

「私の聞くUTAの人物像と、あなたが全く噛み合わないの。少し色々聞いても?」

「うん、大丈夫だけど…。」

それでロビンがこちらの私であろう人物について話してくれた。

特殊な電伝虫で2年ほど前から配信していること。

いろんな歌を披露していること。

もうすぐ初の人前でのライブがエレジアで開かれること。

そのライブにこの船が向かっていること。

そして…。

「…海賊嫌いの救世主……。」

「えぇ、こちらのあなたは、そう呼ばれているわ。」

「え、お前海賊嫌いなのか!?」

「いや、私じゃなくてえーと…こっちの世界の私!」

ルフィにそう突っ込みつつも、頭の中で思案する。

どういうことだろう。私が海賊嫌い?

…いや、確かにバギーやクロコダイルやドフラミンゴのような

人の自由や幸せを平気で踏みにじるやつは嫌いだ。

でも話を聞く限りとにかくこちらの私は海賊を悪として忌み嫌ってるらしい。

そしてライブの会場はエレジアだという。

「今のエレジアってどんな感じなの?」

「エレジア…?12年前以来、今も廃墟と聞いていたけど…。」

…確信した。

本来ならばエレジアはシャンクスの力もあって復興が進み始めているはず。

それがないということは…恐らく、こちらの私とシャンクスは全く歩み合えてない。

あの日のトットムジカの件で開いた溝がそのままなのだろう。

そうでもなければ、シャンクスがエレジアに来ない理由もないはずだ。

「ルフィ、こっちの私って最後にあったのは?」

「ん?えーと…12年前よ、歌手になるっつって船降りたってシャンクスが言ってたとき以来なんだよな。」

やはり間違いない。私はエレジアに残っている。

どうやってかは知らないが、エレジアで世界に歌を発信してるらしい。

それで世界の歌姫になるとは大したものだ。さすが私と褒めたい。

「…分かった、ありがと。…ところでエレジアには…。」

「ん?確か明日着くんだってよ!」

「そっか、ありがと!もう大丈夫だよ。」

その時、丁度下からサンジの声がする。

昼ご飯の時間のようだ。

「お、肉ー!ウタも来いよ!」

「あ…うん、先行っててくれる?すぐ行くから。」

「おう!またな!」

「…先行ってるわね」

そういって二人が降りるのを見送って…

後ろからあいつが出てきた。


「…ドウスンダ?」

「うーん…」

はっきり言ってあまり関わるのがいいとは思えない。

こちらの私には私の、ルフィ達にはルフィ達の冒険があるのだ。

そこにあまり触れたくはない。

ただ…。


「なんか引っかかるんだよなぁ…」

ロビンの話では、このライブは映像で世界に配信されるらしい。

それほどのライブをする自分が誇らしいようにも感じるが…同時にどこか違和感を感じてしまう。

別世界なのだから価値観の相違はあるにしろ、なんだか勘が嫌なものを知らせる。

「……というかこっちの私、あれ見たのかなぁ」

あの映像電伝虫。

後ろのこいつと私の引き起こしたあの夜の事件を残した証拠。

もしそれを見ていないなら海賊嫌いもすんなり納得できる。

が、もし見ていたとしたら…。


─こちらの世界の私は、何を考えている?


「…考えても仕方ないか。」

とりあえず食事に行こうと思い梯子に手をかけた私に、

トットムジカが声をかけてきた。

「トコロデ1ツイイカ?」

「ん?何よ」


「本当ニ…コッチニ来タノハオ前ダケナノカ?」

「は?何言って………。」



『おい、ウタ!』


…そういえば、私の手を掴んでくれた人が一人いた。


「………もしかして………。」


─ルフィも、巻き込まれてこっちに来てしまってる?


〜〜


「ぶべ!…どこだここ。」

渦に巻き込まれ、そして吹き飛ばされたその男が落ちた場所は、

一見なんでもない海沿いの崖だった。


「うーん…サニー号も見えねェな…。結構遠くまで来ちまったけど…ウタもあいつらも大丈夫かな。」

土埃を払い、いざ辺りを見ようとした男。

その背後に、影一つ。


「ん?………あ!」

「………え?」


その島の名は「エレジア」


「世界の歌姫」のライブまで…あと一日。


to be continued


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