ウマ娘と発明と枕
アクロサンセット
「よし、完成だ」
怪しい光が明滅する研究室の中でアグネスタキオンは声を上げ、「ソレ」を持ち上げ、早速試運転を行おうとソファへと向かうが、手に持っているソレに搭載された機能は自身にあまり効力が無いのだと思い出し、ほんの少し落胆を覚える。
新しく開発したソレを試したい、しかし、自分には効果が無く自信が契約するトレーナーにも恐らく効果は薄いだろう。
部屋を共にするマンハッタンカフェはおらず、仕方無く「お願い」を聞いてくれそうなウマ娘を探す為に研究室の扉を開ける。
眩しい光が部屋の中に差し込み、一瞬目が眩む。
そうして眩しい視界の中頭を左右に動かしてみれば、丁度一人のウマ娘が研究室の方向へ歩いて来るのが見える。
「おやぁ!そこのウマ娘君、ちょっとだけ私のお願いを聞いてくれないだろうか?」
呼び止めた娘、ショートカットの黒髪を揺らすウマ娘は首を傾げながら「良いですよ?」と答える。
警戒心が無いのか、それとも根っからの善人か。アグネスタキオンは感謝を伝えつつ、ソレを渡す。
「・・・・・・これは、マクラですか?」
「あぁ。その通り。マクラだとも」
「これを、試すんですか?」
「そうだとも!だがね、このマクラは只のマクラでは無い。寝ている間に言語の取得が出来る、特別なマクラさ!」
手を大きく広げながら、大々的に、かつ自信を持ってソレ、マクラの効果をアピールする。
アグネスタキオンが作り上げたマクラ。それは、寝ている間に使うだけで新しい言語を習得出来るというヒトによっては喉から手が出る程の代物だった。
「最初は気まぐれからだったのだけどね、最近の海外遠征だのを考えたら役に立つんじゃないかと思い使った次第さ!今回完成した物は英語だけだが、今後は全世界の言語を習得出来る様に改良を続けていこうと思っているよ」
「は、はぁ」
黒髪のウマ娘はマクラをまじまじと見ながら、信じられない様な顔をする。
「安心したまえ。危険性が無いという事は保証しよう。モニターだと思ってくれれば良い」
「まぁ、何か起こるのかは分かりませんが、どれくらい使えば良いですか?」
「フム。そうだねぇ・・・・・・一ヶ月程使ったら、効果を教えに来てくれたまえ。私は基本この場所にいるから」
「はい。それでは、失礼しますね」
「あぁ。協力、感謝するよ!」
そう言って、二人は別れ、黒髪のウマ娘は自身の目的地へ、アグネスタキオンは研究室へ戻っていく。
どんな結果が飛び出すのか、ほんの少し期待を込めながら。
マクラを作成してから、丁度一ヶ月後。
研究室の扉を叩かれる音を聞いて、アグネスタキオンはその扉を開け、黒髪のウマ娘を確認すると笑顔で迎え入れる。
黒髪のウマ娘は研究室の怪しさに少しだけ尻尾を下げながら促された椅子に座ると、持っていたマクラをアグネスタキオンへと手渡した。
「それで、どうだったかな?」
いち早く研究結果を知ろうと、前説となる雑談を飛ばして本題へと入る。
黒髪のウマ娘はアグネスタキオンからの問いに何処か申し訳無さそうに、視線を動かした後、小さく深呼吸をしてから口を開く。
「すみません。あたしには、効果が無かったみたいで」
毎日使っても、筆記、言葉共にサッパリでした。
「そうか」
頭を下げ様とするウマ娘へ言葉を掛けながら、結構な自信があった物が失敗に終わった事へアグネスタキオンは肩を落とす。
だが、手の中にあるマクラは言わば一号機。最初から成功する方が稀なのだ。と、気持ちを切り替えて目の前のウマ娘へ感謝を述べる。
黒髪のウマ娘はいつまでも申し訳無さそうにしていたが、アグネスタキオンはあまり気にせず、再び研究へと戻っていった。
熱中していたマクラへの熱が少し冷めた頃、研究室の中にノックの音が響く。
アグネスタキオンは来客の予定が無かったので首を傾げながら扉を開ければ、そこには見知らぬウマ娘が立っていた。
どうしたんだい?と聞いてみれば、目の前のウマ娘は困った様子で口を開く。
「えっと、アグネスタキオンさん、ですよね」
「いかにも。私はアグネスタキオンだとも」
「私は、アナタからマクラ?の試しをお願いされた娘の同室の者なのですが、あの娘、最近変なんです」
「フム。変、とはどういった風に」
「えっと、あの娘が寝ている時、偶に寝言が英語になるんです」
「英語?」
「はい。あの娘、勉強の中で英語が特に苦手だって言ってたのに、凄く流暢な英語を話してて。それがマクラを変えてから起こり始めたから聞いてみたら、アグネスタキオンさんに渡された物だと知って」
不気味なものを見たかの様に、心の底から友を心配する表情で相談するウマ娘とは裏腹に、アグネスタキオンは一つの答えに辿り着く。
成る程。眠った時に得た知識は、眠っている時にしか活用されない。
あのマクラは失敗だな。
そう考えながら、目の前のウマ娘、そして黒髪のウマ娘アクロサンセットへ申し訳ない事をしたと、アグネスタキオンは天井を仰いだ。