ウマ娘-stellar record-
注意事項
・オリ設定多めだよ!
・続きものだよ! 前回のお話
第0話 cleared for take-off
part301>>33
第1話 Clibming to Japanese 2000 Guineas
part301>>164
part303>>80
前回のあらすじ
うお……(迫力)でっか……
03_余談、スポットライトの下で/Clibming to Japanese 2000 Guineas
中山競バ場の来場者レコードは、数にしておよそ17万7000人。今更語るまでもない、あのオグリキャップが伝説になった日だ。
日本のトゥインクル・シリーズにおける、明確なパラダイムシフトが発生した日。あの日を境に、ウマ娘の競争は単なる勝負ではなくなった。大勢の人間の心を通わせ、熱狂させる、スポーツの枠を越えたものになった。
どんな思惑があろうと、誰を応援していようと、ゴールの瞬間は全員が魂を震わせる。その熱狂を独占することこそ、激戦の勝者となった者の特権だ。たった一人、並み居るライバルのすべてを凌駕した一人に贈られる賞賛は、きっと何者にも代え難い栄誉になる。
めいいっぱいの拍手を。溢れんばかりの歓声を。たった一人の女王だけが、その栄誉に与ることを許される。どんな経緯があろうと、それは彼女たちにとって望外の喜びになるはずだ。素晴らしいものを見た我々に捧げられものがあるとすれば、惜しみない賛辞をおいて他にない。
だからこそ。この状況が、あまりに悔しくて仕方なかった。
歓声もない。喝采もない。ただ乾いた拍手だけが、しじまに吸い込まれて消えていく。ぱらぱらとした細波のような拍手は、決して聞こえないわけではないからこそ、その裏に隠れたものを浮き彫りにする。
こんなものではなかった。本来彼女に送られる賞賛も、彼女が受け取るはずの感動も、この程度ではなかったはずだ。無敗で皐月賞を制した偉業が、こんな静寂の中で片付けられてしまうことに、言い得ない虚しさのようなものが募っていく。
「おい、しばくぞ」
「……なに、なんですか急に」
「ぶん殴るぞって言ってるんだよ。担当がクラシック勝ったんだぞ? なのになんだお前、お葬式みたいな顔しやがって。お手紙読む人だってそんな暗い顔してないからな」
「弔辞のことバカっぽく言い換えないでくださいよ……」
なんだお手紙って。お元気ですか、から始まる弔辞があってたまるか。
「いいからとにかく笑えっての。帰ってきて一番最初に見るのがシケたツラなんて、勝利の余韻も吹っ飛ぶだろうが。担当の勝利も素直に喜べないヤツがトレーナー名乗るんじゃねえよ」
「もちろん、そのつもりですよ。……あの子の頑張りに水を差すなんてこと、したくないですから」
「ほんとかー? んなこと言って、私がいなくなった途端にまたウジウジし始めるんじゃないだろうな。お前の今の信用度、有マの大外枠くらいしかないからな」
「ほぼゼロじゃないですか」
それくらい論外な顔してるんだよ、の言葉とともに、軽いチョップが脇腹に突き刺さる。そこまで感情を露わにしているつもりはなかったのだが、こういう場合は往々にして予想よりも酷い面構えをしているものだ。
相変わらず適当なことしか言わないアラタさんであるが、しかし自分なりのやり方でケツを叩いてくれていることくらいは俺にもわかる。少なくとも、トレーナーが今下を向くべきではないという言い分は、全くもってその通りだろう。
教え子が大仕事を果たしたのなら、指導者がやるべきことはその偉業を思い切り讃えることだ。分けてもこの先にウイニングライブが控えている現状、彼女にとって俺はひとつの通過点でしかない。気持ちよくステージの上に送り出してやることが、トレーナーの責務というやつだ。
なんとなれば、今回のライブはちょっとした「仕込み」がある。URAに直接働きかけたのは先生だが、元はと言えば俺の発案だ。ステージに上がる彼女たちに少しでも高揚してもらいたい、という思いつきから始まったチャレンジだったが、URA側からも思いのほか好評だったらしく、実現に漕ぎ着けることができた。
というか、だ。なんのかんのと、アラタさんの言葉から千々に思考を飛ばしていたが。
「いなくなった途端に、って……見ていかないんですか、ライブ」
「そりゃお前、私みたいな部外者がライブ会場にいたら気が散るだろ。あんま無関係の人間が立ち入らない方がいいって習わなかったか?」
「どの口が言ってるんですか、それ」
さも当然と言わんばかりの言の葉に、驚きを通り越して変な笑いさえ出そうになる。気が散る、というのなら物見遊山みたいな格好でレースを見物している時点で大概だと思うのだが、そのあたりは気にするだけ無駄ということらしい。
「ま、ライブは配信で見てるから心配すんな。どうしても、って話になったら呼び戻してくれ──そうだな、全員西川貴教の声で歌い出したりしたら、押っ取り刀で駆けつけるさ」
「全員と言わず一人の場合でも呼びますよ、それは」
それはもう「どうしても」とかいうレベルではないと思うのだが。間違いなく日本音楽界が変わるというか、別の意味で伝説のライブになってしまう。ついでにアニメのジャンルもだいぶむさ苦しいものに変わってしまうこと請け合いだ。
「とにかく、私なんかに構ってないで、戻ってきた担当を褒めてやれ。賞賛なんてのは、基本的にいくらあってもいいんだ」
適当に突っかけたと思しきサンダルをぺたぺたと鳴らして、アラタさんは遠ざかっていく。見るべきものはすべて見た、と言わんばかりに、その振る舞いには一切の迷いがない。この場において想い残したことなど何もないのだろうと、誰が見てもそう思える後ろ姿だ。
「あ。そういや、聞いてなかったんだが」
──であれば。その呟きは真実、今この瞬間に生じたものなのか。
唐突に思いついたのか、それともちょうど思い出したのか。はたと足を止めた彼女は、おもむろにこちらへと視線を投げる。
ワンサイズ大きい野球帽の下から覗く瞳は、相変わらず何を考えているのか判然としない。こちらを射抜くでもなく、見定めるでもなく、視線はただそこに在るだけだ。
「あの子の、コントレイルの……あー、在り方についてなんだが。ありゃ、お前が指導したもんか?」
「在り方、ですか? いまいちピンとこないんですが……彼女のスタンスって意味なら、あの子は最初からああでしたよ。メンタルトレーニングだって多少はしましたけど、根本的なものの見方は変わってないはずです。それが何か?」
「だよなあ……いや、我ながら分かんにくい言い回ししてる自覚はあるんだが。ただ、あんまり私がとやかく言うことでもないからなあ、うーん」
珍しく歯切れの悪いコメントは、その奥に言いづらいものを抱えているからか。ほんのわずかな逡巡があって、アラタさんは口を開く。
「あの子が何を考えて、何を目指して走ってるか、それはあの子の中で完結する話だ。それが何であれ、口出しするつもりなんてないよ。ただ、私個人の主観でものを言うなら、の話なんだが──」
# # #
『──コントレイル、コントレイル!! 2分0秒7、コントレイル、皐月を制しました!!』
脳裏にこびり付き、繰り返し再生され続ける音声。一度聞いたきりの音声は、しかし未だに頭の中をぐるぐると回り続けています。その理由は勝利を噛み締めているからでも、まして余韻に浸っているからでもありません。
むしろ、実情としては真逆もいいところ。未だに勝った実感がさっぱり湧いてこないからこそ、その瞬間をオートで繰り返しているのです。何が起こったのか本当のところでは理解していない、というか、実は夢でしたと言われても納得してしまうくらいには、思考はゴールする直前で止まっています。
最終直線での、サリオスとのデッドヒート──そのさなかで見えた何かに、さながら体ごと引き込まれてしまったような。ふわふわと浮ついたあの感覚を前にしては、勝敗の結果すらも意識の外に弾き出されてしまっています。自分の足がいつゴール板の前を駆け抜けたのか、どれだけ記憶を漁っても出てきそうにありません。
「……勝ったんだよね、わたし」
呟いてみたところで、当然どこからも返事が返ってくることなどなく。首が痛くなるくらいに真上を見上げても、そこにあるのは調整ルーム兼楽屋の真っ白な天井だけです。
底抜けに青い空も、ターフを吹き抜ける涼やかな風にも、数刻前の段階で別れを告げています。こうして一人でのんびりしていられるのも、長くてあと5分程度でしょう。勝利を噛み締める暇などないのはどのレースの後でも同じですが、分けても今回はスケジュールがぎっちり詰まっています。
ウイニングライブ。レースを走ったウマ娘にとっての、もうひとつの大舞台。GⅠの、いわんやクラシックのライブともなれば、その注目度は国民的アイドルのライブもかくやのものになります。ライブだけを視聴する層も相当数いるというのですから、レースだけ走ってはい終わり、なんてことは土台許してもらえません。
ライブ用のメイクにヘアセットに衣装チェック、細かな立ち位置の確認に至るまで。レースからライブまでの数時間、わたしたちに休憩らしい休憩はほぼありません。分刻みのスケジュールの中、レース後の悲喜こもごもを飲み込んでパフォーマンス用の表情を作ることもまた、GⅠの舞台で戦うウマ娘たちに求められる必須スキルです。
と、いうわけで。センターに立つ予定のわたしは、他の誰よりも気合を入れてライブに臨まなければならないわけなのですが。
「ううーん……ブドウ糖とか取っておこうかなあ……」
思考にピントが合わないような感覚は、体を限界まで使い倒した時の気怠さとはまた別のもので。どちらかというと集中して読書や勉強をした後のような、頭が疲れきった状態に近しいかもしれません。今までのレースでは感じなかった感覚に、さてどうしたものかと戸惑ってしまいます。
トレーナーさんが近くにいれば訊けるのでしょうが、生憎とウマ娘以外がライブ前の楽屋に入るのは御法度です。そもそも、インタビューやら各方面とのお付き合いがあるトレーナーさんを、こんな取るに足りない話で呼び立てても仕方がありません。
兎にも角にも。多少無理矢理にでも頭を切り替えなければ、ライブでポカをやらかしてしまうのは必至です。無敗で皐月まで勝っておいて、ライブにケチがつくなんて真似をしようものなら、この先10年は語り草になってしまうでしょう。
「……ウマスタの更新、しておこうかな」
携帯をポチポチと触れば、お祝いのメッセージが山ほど届いています。これはスクールの同期からで、これはチームの先輩で、と確認していくうちに、ふわふわとした思考が徐々に輪郭を持ち始めました。
画面をスクロールするそのたびに、画面上に現れては消えていくさまざまの情報たち。ひとつひとつを丹念に確認することはないからこそ、思わぬものが目に留まることは往々にしてあります。むしろそういったものほど、無意識が拾い上げた重要な情報と考えることもできるかもしれません。
「『GⅠ6勝、現役最強アイドルが見据える先は? 無念のドバイも闘志は衰えず』……あとで読もうっと、この記事」
めぼしい記事をブックマークに入れて、適当に投稿予定の下書きを書いていきます。ゆっくり推敲したほうがいいのかなあ、でもライブ前にひとつ投稿しておいたほうがみんな嬉しいだろうなあ、じゃあとりあえず軽めのものを一本上げようか……などと考えているうちに、あっという間に予定の時間が来てしまいました。
「──はあい、今出ます!」
コンコン、と扉をノックされ、いちにのさんで勢いをつけて立ち上がります。
ここからライブが終わるまでは、満足に腰を下ろすこともできない時間が続きます。いくらレース後のメディカルチェックでOKが出ているとはいえ、間違っても考えなしに動けるほど楽なお仕事ではありません。レースとは全く別の緊張感は、しかしどちらが上とは断言できないほど濃密に張り詰めています。
レース同様に、当然ながらライブも無観客。がらんどうの客席に向けたパフォーマンスは、いつものライブとはまるで別物と言ってもいいくらいに異質です。それでいて、ライブの様子そのものは全国に中継されているのですから、これほど恐ろしい話もありません。
「表情よし、髪よし、衣装よし。心の準備、よし!」
えいえいおー、の掛け声とともに、姿見の前で大きな伸びをひとつ。いつも通りのルーティーンで身体を動かせば、なんだかんだで思考はパチンと切り替わります。
一発勝負のライブで100パーセントのパフォーマンスを出し切るために、何が必要か。色々考えたことはあるけれど、結局答えは同じところに行き着いてしまいます。毎回そうなるということは、それ以外の答えをわたしが持っていないということなのでしょう。
わたしを応援してくれた人。わたしの勝利を願ってくれた人。彼らに幸せになってもらうこと、わたしの歓びはそれだけです。レースで結果を出すことも、ライブでセンターを飾ることも、究極的にはそれが一番のやり方だから、そうしているだけ。
わたしはわたしにできる精一杯を。そのための勝利で、そのための無敗なのです。みんなが一番喜ぶ形を届けること、それこそがわたしの使命なのですから、目の前に人がいるかどうかは些細な違いでしかありません。目に見えない、遠くから応援してくれている人もまた、わたしにとっては同じくらいに大事なのですから。
「出発進行、発車おーらい! ──よし、行こう!」
⬜︎ ⬜︎ ⬜︎
ウイニングライブが開始されるのは、最終レースが終わってすぐ。高まりきった観客の熱を逃すことのないやり方は、身内ながら上手い商売だと考えざるを得ない。
もちろん、メインレースを走ったウマ娘たちがすぐにステージに上がるわけではない。1Rの出場メンバーから順番に、数曲ずつパフォーマンスを披露していくその形式は、言うなればフェスのようなものだ。基本的にトリに向かえば向かうほど実力者が控えているが、中にはダンスやパフォーマンスに自信のある子が序盤に紛れている場合もある。そういった“掘り出しもの”を探すため、最前列をキープし続ける猛者もいるというのだから、もはやレースとは別個独立したコンテンツと言えるかもしれない。
日が落ち切ったステージの真ん中に立ち、すべての視線を独り占めする。程度の差こそあれ、トゥインクル・シリーズを走るウマ娘であれば、きっと一度はそんな想像をする。そしてほどなく、そこに至ることがどれほど険しい道のりであるかをその身で味わい、1人またひとりと諦めていく。
なればこそ。そこに立つことを許された一握りのウマ娘には、完璧な舞台を用意してやりたくなるのが道理というものだろう。
一挙手一投足、指先の動きから呼吸のリズムに至るまで、およそすべてが完成された偶像。彼女たちがそれを追求するのと同じように、演出する側もそれを見せられるように心を砕く。そこに立つ権利を勝ち取った者のために、持ちうる全力を注ぎ込む。
長々と語ってしまったが、要するに何が言いたいかというと。
今日の「仕込み」も、言ってしまえばそんなお節介の賜物だということだ。
『光の速さで 駆け抜ける衝動は──』
スモークが噴き上がる空間に、凛とした声がこだまする。夜闇に佇む野外ステージを彩る幾重ものスポットライトが、真昼と見紛うほどの熱量を放つ。
画面越しに彼女たちの勇姿を見ている人間は、何万人という数ではきかないだろう。誰もが見たいであろうウイニングライブを現地で、それも舞台袖という特等席で見られるのは、他にはない関係者だけの特権だ。
『一度きりの この瞬間に賭けてみろ 自分を信じて──』
振付も、歌いぶりも、何ひとつとして不足しているところはない。堂々としたその振る舞いは、クラシック緒戦のセンターを飾るに相応しい。
胸元に入れた携帯は今もひっきりなしに振動し、途切れることなくメッセージを受け取っている。裏に置いてこればよかったな、と苦笑いするものの、これも彼女が成した功績の結果だと思えば悪くない。
『時には運だって 必要と言うのなら──』
脳髄を揺さぶる大音声が、空っぽのステージに響き渡る。熱狂のかわりに静寂があるその空間は、ステージ上から見ればひどく殺風景なものに見えるに違いない。観客の姿はひとりとして無く、そこにあるのは無機質なカメラと動き回るスタッフの姿だけだ──そう、本来なら。
だが、今日に限っては違う。なにせ目の届く範囲すべてに、椅子が敷設されているのだから。
何も観客を特例で入れよう、というわけではない。ただスタッフの手を借りて、すべての椅子にサイリウムを設置しただけだ。
その光の色も、明滅パターンに至るまで、オペレーターが一括で操作できるように調整してある。
見渡す限り一面の光の海は、ステージ上からどう映るのか。彼女たちの視線をそのまま再現できるよう、有観客の時には導入しづらいドローンでの映像中継も取り入れた。半ば冗談で言ったつもりだったが、こうして実現しているのだから、何事も言ってみるものである。
これこそ、俺が考えた「仕込み」。無数のサイリウムの光と、それを自由な角度で映すドローンの導入だ。少しでもこのライブが良いものになるよう、ない知恵を絞った結果だったが──彼女たちの表情を見る限り、その目論見はどうやら成功しているらしい。
『宿命の旋律も 引き寄せてみせよう──!』
高まっていくボルテージが、体感温度を引き上げる。センターで声高らかに歌い上げるその姿に、翻る美しい黒髪に、知らず視線が吸い寄せられていく。
このライブを見ているすべての人が、彼女に釘付けになっている。雑念など欠片も抱く余裕はないと、心の底からそう確信できるほどに。
「ただ。これは私個人の主観でものを言うなら、の話なんだが」
だったら。脳裏によみがえるそれは、雑念などではないということなのか。
不意に思い起こされるのは、レース直後にアラタさんと交わした会話。前触れなく誤作動を起こしたテープのように、彼女の言葉が現実を上書きして流れ込む。
「上を見過ぎだ。この先を目指すつもりなら、自分がどこを走っているかは自覚させておいたほうがいい。止まれとは言わんが、あんまりに足元が無防備すぎる」
熱が篭っているわけでも、逆に冷めきっているわけでもない。虫か機械かと思うほどに、その瞳には色がない。
「地面がなくなっても走り続けられるなんてのは、アメリカのカートゥーンじゃよく見る光景だが。アレでさえ、下を向いた瞬間に落っこちるんだ。ま、それなら下を向かなきゃいいだけのことなんだが……どっこい、そんなことを言ってられない場合だってある。頭を押さえつけられて、無理やり足元を見せられたら、こっちとしては抵抗のしようがないだろ?」
迂遠な例えだろ? 記憶の中のアラタさんが笑う。はは、どうもロートルってのはこの手のたわ言を言いたくなるもんだ──肩をすくめてそんなことを嘯く彼女は、この先なんと言っていたのだったか。
『辿り着きたい場所があるから その先へと進め──』
「……っ」
思考は最後まで行き着くことなく、現実に引き戻される。不意に生じたバグは即座に修正され、再び誤作動を起こすことはない。
目の前の現実に集中しろ。担当の晴れ舞台を見逃すなど、トレーナー失格もいいところだ。
頭の中の冷静な部分が、己自身を戒めている。そんなことを考えている暇などないだろうと、しごく当然の口ぶりで俺を批難する。
ああ、まったくもってその通りだ。アラタさんの言葉の意味がどうであるかなんて、今考えるべきことじゃない。何より、こんな大事な時に余所事を考えていると知られたら、他ならぬアラタさん本人が一番怒るに決まっている。
『涙さえも 強く胸に抱きしめ──』
一面の光の海、その中をドローンが飛んでいく。この映像を見ているすべての人に、俺が今見ている光景と同じものを届けるために。
整然と並べられ、規則的に点滅するサイリウムの光は、まるで滑走路のようだ。ならば、その様相を眼下に納めて飛翔する彼は──ドローンを「彼」と表現することが、正しいかどうかはさておいて──今まさに飛び立とうとしている飛行機ということになるか。
遠く、遠く。高く、高く。光溢れる地上を離れ、鉄の鳥は暗闇の中へと飛んでいく。どこまでも行けそうなその翼は、しかし彼方まで飛ぶことなど決して出来はしない。電波を受け取ることができなくなれば、それは途端にただの鉄の塊になってしまうのだから。
速度も、高度も、障害物の避け方さえ、彼は自分で判断できる機能を持っている。けれど、裏を返せばそれだけだ。どこを目指して飛ぶべきか、それを決定する機能を、彼は持ち合わせていない。否、彼を操る人間の指示なしでは、飛び立つことすら不可能だ。
『果てしなく続く winning──』
歌声が響く。ドローンに搭載されたカメラが、彼女の姿を全世界に映し出す。
コントレイル。静寂の中で生まれた英雄。みんなの夢を背負って、みんなの願いを叶える、未だ負けたことのないウマ娘。
「頑張れよ、“トレーナー”。信じることにしたんなら、最後まであの子を信じてやれ。それが、お前に課せられた責任ってやつだ」
自覚など、何処にもないままに。
追い求めた「誰か」の姿が、そこに重なっていた。
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新しい投稿が一件あります。
Contrail_Team.M
[写真-8件 画像を読み込み中です…]
ウマいね!22020件
クラシック第一関門、#皐月賞!優勝しました!!
最終直線、みなさんからたくさんの応援と、力をもらえました📣 苦しいレースに勝つことができて、またひとつ前に進めた気がします…!
レースもライブも、無観客でのものになってしまいましたが……今回の#ウイニングライブは、スタッフさんたちにものすごく頑張っていただいたので、素晴らしい演出になっていたかと思います👏まだ見ていない方、ぜひチェックしてみてください👀
(チケットはこちらから→一週間はタイムシフトで視聴できます🕐)
次はいよいよダービー、すべてのウマ娘の頂点へ……!! このままの勢いで、行けるとこまで突っ走るぞー!!
写真はライブのあと、幼馴染の#ディープボンドと📷
#ウイニングライブ #クラシック三冠 #チームミモザ
#サイリウムの海 #画面の向こうで声を出せ #全員SS席確定です!