ウタのビブルカード概念
「なんでだよー!シャンクス!」
「だから何度も言ってるだろ。お前は航海には連れて行けねえって」
「うがー!」
フーシャ村の港では、これから出航するために赤髪海賊団の船員達が船に荷物を運びながら準備を行っている。
一方、船長である赤髪のシャンクスはそれには参加せずに港で駄々をこねるルフィの相手を押し付けられていた。
叫ぶルフィの頭をシャンクスは押さえ付けるように手を乗せなだめようとするが、納得のいかないルフィは声を上げ続ける。
その声に反応したのは船の上で荷物を運び込んでいるウタだった。
「ルフィー?シャンクスを困らせないでよ。どうやったってあんたは来れないの。それになんでそんなに航海に行きたいのよ」
「俺だって海に出たい!フーシャ村はそりゃ好きだけど、俺はシャンクス達と一緒にいたい!」
「まったく子供ね…。そうだ、少し待っててルフィ」
そう言うとウタは船の奥の方に消えて行くが、少し経つとすぐに戻ってきて船から降りると、ルフィの前にやってくる。
「はい。これあげる」
「紙?なんだそれ」
その手には小さな紙切れが握られ、それをルフィへとウタは手渡す。
「そ。その紙は不思議な紙だから。見ててねルフィ…」
そう言いながらウタは自分の手のひらに紙きれを乗せ、少しするとズリズリと紙きれは動き始めた。
「すっげー!なんだよこれ!」
「これはね、私の方にずっと動き続けてるの。これは私みたいなものだし、これがあれば寂しくないでしょ?」
「俺は寂しいなんて言ってねえ!」
「同じようなもんでしょ?じゃあ要らない?」
「いる!」
売り言葉に買い言葉。
ルフィは歯をむき出しにしながら答えた。それを見たウタは満足気に笑う。
「ふふ、じゃああげる。大事にしてね」
「あぁ!ずっと持ってればいいんだな!」
ルフィにとって、この紙はどういうものなのかは上手く理解は出来なかったものの、また会うために大事なものなのかもしれない…と、思いながら紙きれを握りしめた。
◆◆◆
太陽が水平線に沈むほんの少し前。
フーシャ村の小さな酒場を経営しているマキノは、夕方の営業のために仕込みや掃除等の準備を進めていた。カウンターの隅には、もう既にこの島を離れたシャンクスが置いていった赤白の小さな人形が置いてある。どこか寂しいほどに静かな店だったが、急に外からドタドタドタと騒がしい音が近付いてきた。
「…?」
そしてその音が店の目の前にやってくると、勢いよく扉が開かれその音の主、ルフィが以前はなかった麦わら帽子を手にズカズカと入り込んでくる。
「あらルフィ…て、またそんな汚して」
「ししし!しゅぎょうだからな!」
「まったく…ほら、着替えあるしそれ洗うから服脱いで」
先日赤髪海賊団はフーシャ村を拠点とした航海の日々に終わりを告げた。
ルフィは変わらず航海には連れて行って貰えなかったものの、船長であるシャンクスから彼のトレードマークとも言える麦わら帽子を譲り受けた。
その日からルフィは「修行だ!」と叫びながら村長の制止も振り払い岩山を登り、野生動物に喧嘩をふっかけ、木を的にしながらパンチを放ったりと今まで以上に生き生きと過ごしていた。
しかし、それだけ動き回れば当然服は汚れる。マキノは呆れながらもルフィに服を脱ぐよう促し、洗うためにお湯を入れ始める。
「おう!」
ニコニコと笑いながらルフィは服を脱ぎいそいそと着替え始める。マキノは脱いだ服に何かしら入っていないかを確認すると、ポケットの中に紙切れが入ってることに気がついた。
「あら?ルフィ、ズボンに紙切れが入ってたけど、あなたの?」
「紙?あー!それ大事なヤツなんだ!」
「そうなの?…あ、なんか書いてある」
ポケットから出てきたその紙にはイラストが書いてあった。2つの大きさが違い不格好な円が隣接している不思議なイラストだ。
「ししし!マキノ!それ、帽子に付けてくれ!」
「帽子に?リボンの中に入れる感じになるけど」
「それでいい!」
ルフィが何に拘っているのか分からない。だが、本人にとってはシャンクスに貰った帽子と一緒にするくらいには大切なものなのだろう。そう考えたマキノは帽子を受け取ると赤いリボンの内側に入れるように縫い付ける。
「この絵はルフィが書いたの?」
「ああ!俺たちの新時代のマークなんだ!」
「たち?船長さんと?」
「ちげえ!シャンクスじゃなくて……あれ?」
「ふふ、まあいいわ。大事なんでしょ?はい、出来た」
「おう!ありがとうマキノ!」
…そのやり取りのすぐ横で、カウンターこ上に座る赤白の人形のオルゴールが小さく「ギィ…」と鳴いたことに2人は気が付かなった。