ウタがルフィより二歳年下で以下略

ウタがルフィより二歳年下で以下略


赤髪海賊団がフーシャ村を訪れてから、村を駆け回る少年の後ろに、一人の少女がついて回る光景が日常となった。

あっちへてとてと。こっちへてとてと。元気いっぱいありあまる少年の後ろを、彼より少し狭い歩幅で賢明について回る。

年の近しいことも相まって、あるいは少年の持つ生来の人懐こさのためだろうか、赤髪海賊団いわく人見知りだという少女はあっという間に少年に懐いた。さながら、親鳥のあとをついて回る雛鳥の如し。

微笑ましいその光景に村人の表情はほころびっぱなし、思わず構い倒したくなるほどであるが、かと言って大人が声をかけると少女は瞬く間に少年の背の後ろに隠れてしまう。少しずつ慣れてきてはいる様子だが、それでも返ってくる言葉はぼそぼそと聞き取りにくい小声である。

正反対に元気印と言うべき少年は、しかしそんな少女を疎ましくは感じていない様子で、そんなときには必ず少しだけ大人の視線から少女をかばうように動くのだ。無意識かどうかはわからない。けれど、今まで同世代の子供もおらず、ひとり遊びを主として駆け回っていた少年が年下の子供をいたわる様子に、古くからの彼を知る住人たちとしては知らず涙が溢れそうになる。

幼気なふたりを邪魔してはいけないと、次第に構うよりも見守るという暗黙の了解が出来上がり。

だから今日も、彼らはふたりで遊んでいる。


そんな光景に、酒場の女主人は一言。

「ふたりとも、まるできょうだいみたい」

「ん? おれ、別にウタのにいちゃんじゃねェぞ」

「そうね、血の繋がりは無いわね。でも、いっつも一緒にいて、ふたりで遊んでいるでしょう? なんだか微笑ましくて、そんなことを思っちゃったのよ」

「ふーん……よくわかんねェ」

ぐびぐびとジュースを飲みながら、ルフィはあまり興味なさげに応えた。

その横には、当然のようにウタが座っている。ルフィの真似をして、ジュースの注がれたコップを両手で抱え、一気に傾け――ると、むせるので、ちびちびとゆっくりと飲んでいた。

「ん、あ! そっか! ウタのにいちゃんってことはシャンクスのこどもになるんだ!!」

「ならねェぞ」

「シャンクス、父ちゃん!」

「お前みたいなクソガキを息子に持った覚えはねェ」

「なァなァ父ちゃん! おれも船に乗せてくれよ!いいだろ!?」

「乗せねェ」

「ケチンクス!!!!」

カウンターで頬杖を付きながら酒をかっくらい、面倒くさそうに反応するシャンクスに、ルフィはぶぅぶぅと文句を零した。

いつものことだ。そこから流れで乗せろ、乗せない、と押し問答になり、根負けしたシャンクスが試験という名のイカサマではぐらかし、それを周りの団員たちが囃し立て――。

と、そんな流れの中で、静かにジュースを飲んでいたウタが、

「……おにいちゃん?」

小首を傾げ、そうつぶやいた。

「ルフィ、おにいちゃん?」

ルフィの服の裾を小さな手でギュッと握りしめ、少しだけ上にある顔を見上げながら、そう問いかける。

「……なんかそう呼ばれるとむずむずする」

「おにいちゃん」

「ちげェ」

「おにいちゃん……!」

「ちげェってば! おれはウタのにいちゃんじゃねェー!!」

「ちがう、の?」

「むぐっ……」

しゅんと眉を八の字にするウタに、ルフィは思わず口ごもった。

「ルフィー、うちの歌姫泣かせるなよー」

「な、泣かせてねェよ! ウタが勝手に泣いたんだ!!」

「泣いてないもん」

「だいたい、うちのウタが妹になるってのになにが不満なんだこの野郎。世界一かわいい妹だぞ」

「泣いてないもん」

「確かにウタはかわいいけど……でも、ウタはともだちだ。妹じゃねェ」

「さっきドサクサにおれの息子になろうとしたくせに……」

「ねェ! シャンクス!! わたし泣いてない!!!」

「わーかったわかった」

両手を振り上げ抗議するウタに、シャンクスは苦笑しながらくしゃくしゃとその髪を撫で回した。

「髪くずれる……」

「わがままだなァうちのお姫様は。……なァウタ、ウタはきょうだいが欲しいのか?」

その問いかけに、シャンクスから逃げるように離れたウタは、ルフィの背中の後ろから顔だけ出しながら、思案げに天井を見た。

「んー……あのね、前にシャンクスが、自分にはきょうだいみたいなともだちがいたって言ってた」

「ああ……確かにそんな話をしたな」

思い返すのは見習いの時分、赤鼻の目立つ友人と駆け回った日々だ。馬鹿を言って馬鹿をやって殴り合って助け合って、楽しいだけではなく鬱陶しいと思うこと、喧嘩もたくさんしたが、それでも大人たちに囲まれた中で寂しい思いをせずに済んだのは、彼の存在が少なくない。

「だから、わたしもきょうだいがいたら、シャンクスみたいにもっと楽しい気持ちになれるかな、って」

「ふーむ……」

つまるところ、彼女は寂しいのだろう。蝶よ花よと育てられ、お姫様のように扱われながらも、結局のところ周りにいるのは大人だけ。

構い倒され常に誰かしらがそばにいると言っても、どうしたって年齢が違うというのは、それだけで目に見えない隔壁が生まれてしまうものである。

さて、と腕組むシャンクスに、ふふ、とマキノが笑う。

「そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないですか?」

「と、言うと?」

「ねェウタちゃん、ウタちゃんは、ルフィがおにいちゃんだと嬉しい?」

「ぅ……ぇっと……」

まだ慣れていない大人からの声に一瞬身体を跳ねさせて、縮こまったままルフィの後ろでコクコクと頷いた。

「じゃあ、それでいいんじゃないかしら」

「どういうことだ、マキノ?」

「ルフィは、ウタちゃんのおにいちゃんってこと」

いつの間にか団員たちのところからかっぱらってきた肉をもぐもぐと咀嚼するルフィの口元を、微笑みながら拭って、

「難しく考えなくていいのよ。ともだちで、きょうだい。それでいいじゃない」

「ふーん……。まァ、ウタがいいならいいけどよォ……」

「おにいちゃん……!」

なにかに感動した様子で、前髪の向こうの瞳を輝かせるウタに、変なやつ、と思いながら、

「んで、にいちゃんってなにすればいいんだ?」

「ああ、そりゃ簡単だ」

そう言いながら、シャンクスは小さなふたり――新米きょうだいを軽々と抱え上げ、

「妹を守ってやりゃいいのさ。……どんなときでも、な」

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