インキュバス4号×シスタースレッタ part1

インキュバス4号×シスタースレッタ part1



街外れのとある小さな教会。

その教会は、姉妹のシスターが管理をしていた。


「……ふぅ」


お昼の礼拝を終え、教会の掃除を始めるシスター・スレッタ。

普段は姉と2人でこの教会の管理をしているものの、優秀な姉はあちこちの教会や人々からお手伝いを頼まれることが増え、また有事の際には何日も泊まり込みで支援活動を行うようになった。


そんな頼られる姉を誇らしく思う一方で、自分自身は秀でた能力もなく、どちらかというと足を引っ張る側の存在であることを歯痒く感じていた。


ある時は聖水の入った瓶を落として割り、割れた瓶を拾うことに集中しすぎて床に広がった聖水に足を滑らせて転び、礼拝に来ていた信徒に怪我の手当てと掃除をしてもらうという始末である。

思い出すだけで恥ずかしさと情けなさで、少しだけ目が潤んだ。


(……だめ、私がしっかりしなきゃ)


両頬をぺちっと軽くはたき、自分に喝を入れる。



あらかた教会内の掃除が終わり、外の掃き掃除をしようとしたところだった。

「ん?」

「………」


痩せこけた一人の青年が、外壁にもたれ掛かって項垂れていた。


「!! だっ…大丈夫ですかっ!?」

スレッタは慌てて駆け寄り、青年の顔を覗き込む。


病的なまでの青白い肌。とろんと半開きの目からはまるで生気を感じられない。そっと青年のおでこに触れると人肌とは思えないくらい冷たく、スレッタは思わず手を引っ込めてしまった。


「ええええっと……お、お医者さま、呼んできます!」


そう言って一旦建物内に入ろうとするスレッタの裾を、青年が弱々しく掴む。


「大丈夫……ちょっと、貧血なだけ……」

「でっ、でも……っ」


おろおろと困惑するスレッタを、青年は何も言わずじっと見る。相変わらずぼんやりとした目をしているが、心なしか、仄暗かった瞳に光が灯ったようだ。


「あああのっ!何すれば………いいでしょうか………」


貧血の人には何をすればいいんだったっけ。昔お姉ちゃんに応急処置というものを色々教わったけど、こういう時に限って思い出せない。


焦りと自分の不甲斐なさでさらにパニックになるスレッタと対照的に、青年はスン……と妙に落ち着いた表情である。


「そうだね…厚かましいお願いだけれど、

パンと、ミルクを頂けないだろうか」



◇ ◇ ◇



珍しく信徒も誰もいない、昼下がりの礼拝堂に二人きり。

教会の食料庫に保存してあったパンとミルクを、その青年――エランに差し出した。


「ありがとう。悪いね」


パンを小さくちぎって口に放り込み、もきゅもきゅと咀嚼するエラン。先程まで青みがかっていた肌に、ほんのりと桃色が差した。


「……ごちそうさま」


よほどお腹が空いていたのだろうか。

簡素なパンとミルクだけだったが、それでもエランは少しだけ満たされたような表情で微笑んだ。


(……きれいな人だなぁ)


さっきは色々と慌てていたので顔立ちなんて気にも留めていなかったが、よく見ると気品があって端正な容姿だ。これが俗にいう眉目秀麗というやつだろうか。


「……」


もう一度だけ、顔をチラッと見ようとしたら同じくこちらを見ていたエランと目が合ってしまい、反射的に逸らしてしまった。彼の容貌を意識してしまい、なんだか妙に胸がざわつく。

このまま黙っていても事態は動かないし、スレッタ自身も気恥ずかしい。なにか話題を探さなくては。


「えっ、と…これから、どうするんですか」

「……これから」

「その、なにかお困りで、教会にいらしたんですよね……?」


教会で行き倒れる人というのは過去にも遭遇したことがある。小さい教会ではあるものの、人を救うことが第一の教義であったため、そういう時は姉が率先して温かい食事を与え、相手に寄り添った教えを説き、元の生活に戻れるよう、或いは元の酷い環境から抜け出せるよう導いていったものだが。そんな姉は今は災害救助ということで遠くに出掛けてしまっている。


(……ううん、お姉ちゃんに頼りっきりじゃだめ)

スレッタもシスターの端くれである。姉のように器用にできなくとも、目の前の困っている人を救いたいという気持ちは強い。


「あの!私に、何かできることがあれば……」


少量のパンとミルクだけではさすがにまだ足りないだろう。食料はお世辞にも豊かとは言えないが、一晩くらいなら食事を提供できるはずだ。あとは、行くあてがなさそうなら毛布も用意しなくては。


スレッタなりに熟考していたものの、その考えはあっさりと打ち砕かれる。


「………そうだね」


いつの間にか背後にエランがおり、後ろから肩を抱き寄せられていた。


「スレッタ……君が欲しい」


吐息混じりの声が耳にかかり、スレッタは身を震わせる。

さっきまで生気のなかった彼の目が、獲物を狙うかのように爛々と光っていた。


◆ ◆ ◆


「んっ……!ひゃっあっ…あぁッ……!!」


耳を喰まれ、首筋に舌が這わされる。肌をつたう未知の感覚に、スレッタは強い恐怖と同時に不思議な高揚感を覚える。


エランは所謂インキュバス――淫魔だった。女性を襲い精を注ぎ、悪魔の子を孕ませるという。書物では知識を得ていたものの、まさか自分が標的にされるとは夢にも思っていなかった。


(どうしよう、どうしよう、どうしよう!)


震える両手で胸元のロザリオを握りしめるが、合わさった両手をこれ幸いとばかりに片手で掴まれる。エランの手は思っていたより大きく、片手なのにがっちりと掴まれ身動きが取れない。


「ぃ、いやッ!んぅ…はっ、離して…ッ!!」

「離さないよ」


両手を拘束する力がさらに強まり、今度は空いているほうの手でスレッタの胸をこねくり回す。


「きゃっ!あぁん……だめっ……!!」


後ろからやわやわと揉まれ、指で乳頭を軽くつままれ、ツンツンと弄ばされる。エランの大きな手に蹂躙され、自分で触るのとは段違いの快感をもたらす。


「はぁんっ……!ぁっ…ぉおねっ…、お姉ちゃん……!!」


どうしようもなくなり、思わず姉を求める言葉が出た。

恐怖と羞恥と快楽が綯い交ぜになり、自分でも訳が分からなくなっている。前後不覚となり、気付いたらぽろぽろと涙が零れていた。


「お姉さん、いるんだね」


頬を伝う涙をエランがそっと口付ける。相変わらず両手を拘束する力は強いままだが、頬への優しい口吻にスレッタは困惑する。


「君のこと、もっと教えてほしい」

「ふぇ……そ、れならっ……っ手…離…してっ…!」

「……いいよ」


意外なことに、エランはあっさりと了承した。


「君の手を拘束している右手か、胸を触っている左手か、どっちかな」

「んうっ…りょ、りょうほうです……ッ!!」


絞り出すように発声した瞬間、エランの両手がパッと離れた。


「うわわっ!!」


いきなり両手を離すものだから、スレッタは大きくバランスを崩し、床に転び――そうになったところを、寸でのところでエランに抱きとめられる。


「いい、いきなり離さないでください!!」

「君が離せって言ったんでしょう」


何か問題でも、と言わんばかりの口ぶりとは裏腹に、エランはスレッタを抱えて近くの椅子にすとんと優しく座らせた。ぜえぜえと息を整えるスレッタを、じっと見つめるエラン。


「うっ……あ、あとっ、いきなりその……お、襲わないでください…!こっ怖かったん、ですから……!!」

「怖がらせてしまったのなら、申し訳ない」


さっきとはうって変わって素直になるエランに、スレッタはもうどうしていいか分からなくなってきた。


「……そうだね、僕も空腹でおかしくなっていたようだ。お互い、少し落ち着こう」



◇ ◇ ◇



「さっきも言ったとおり、僕は淫魔だから本来は女性の体液が栄養なんだ」

「そ、そうでしたか……。じゃあ、さっきのパンとミルク、返してください…」

「あれはあれで血肉にはなるから、有り難く頂いたままにさせてほしいな」

(……ちゃっかりしてるなぁ……)


お互い大分落ち着いたところで、簡単な身の上話をする。

どうやら淫魔といっても様々おり、エランは短命の種族だが必要な魔力も少なく、性交をしなくとも女性の体液を経口摂取できればそれなりに生きることができるらしい。


「自分がただの人間ではなく淫魔だと知った時は……正直、絶望したよ」

「そう、だったんですね……」

「実は女性の精を啜って生きる悪魔だったなんて、きっと君には想像もつかないだろうね」

「………」


スレッタは肯定も否定もできず、俯くエランにどう声を掛けるべきか分からなくなっていた。

生に対する忌避感が芽生え、かといって自ら死を選ぶほどの理由があるわけでもなく、飲まず食わずで放蕩していたが、とうとう限界が来てこの教会にへたり込んでいたそうだ。


「でも、君がパンとミルクをくれた時……不思議と、やっぱり生きていたいって思ったんだ。そうしたら止まらなくなって……」


あんな乱暴を働いてしまった、本当にすまない。

そう言うエランの目は弱々しく、申し訳なさそうに伏せられていた。


「えっ、えっと……そう、ですね。いきなりは、良くないです」

「そう……だね」

「きっ…きちんと、これからは、相手の了承を得ましょう!」

「うん」



これで僕の話は終わり。

次はスレッタ、君のことを聞かせてほしい。


そうエランに言われるも、自分の身の上話なんてそうそう思いつくものではない。


「えぇと、私は……ここの、シスターをやっています」

「だろうね。見れば分かるよ」

「で、ですよね……あとは、お姉ちゃんがいるんですけど、今は遠くでボランティアをしています。災害があって、それの応援に行っています」

「立派だね」


姉を褒められるのは素直に嬉しい。


「はい!お姉ちゃんはすごいシスターなんです!……私とは違って、たくさんの人から頼られています」

「君は違うの」


不思議そうに首をかしげるエランに、スレッタは苦笑いを浮かべる。


「私はその…、いつもドジばかりで、機転がきかないというか、何なら迷惑をかけてばかりで……この前も聖水溢しちゃって、助けてもらってばかりで……他にも色々……」


あんなことやこんなこと、とにかく色々と迷惑をかけっぱなしで。


――いけない、やらかしたことを話し出すと止まらなくなりそうだ。

だがそんなスレッタを遮ることなく、エランは真っ直ぐスレッタを見つめる。


「……誰かを助けたいというのは本当なんです。神様の教えというのもありますけど、神様だけじゃない、私自身もそう思っています。でも結果が伴わないんですよね、あはは……」

「……それなら、僕を助けてほしい」


急にエランが、縋るような眼差しでスレッタに向き直った。


「少しでいいから、君の…体液を分けてほしい。

……純潔を奪うような真似はしないから」

「じゅ、じゅんけつ!?」


シスターになる前に読んだ少女漫画の、いわゆる純潔を散らしているであろうシーンをあれこれ思い浮かべ卒倒しそうになる。


「体液……さえ貰えれば、その他は求めないよ。むしろ対価として何か、力仕事とか……そういうので良ければ提供できると思う」


力仕事、という言葉に少し心が揺らいだ。スレッタ自身は別に非力なほうではないが、こんな小さな教会でも有事の際は何かと忙しく、男手は願ってもやまない申し出である。


(……体液、かぁ……)


もし姦通、しかも相手がインキュバスとなると間違いなくシスターの職は追われるだろう。大好きな姉にも軽蔑されてしまうかもしれない。


けれども目の前の、やっと生きることに希望を見出せそうなエランを、悪魔だからといって見捨てるような真似はスレッタ自身が許せなかった。


しばらく考えて――そして。


(体液…少しくらいなら、いいよね……?)


「たっ、たた、体液……なら、いいですよ……」

「……本当に、いいの」

「ええ、ええ!そ、それでエランさんが生きていけるのなら、……いくらだって差し出しますとも!」


自身の胸をどんと叩き、半ば鼓舞させるかのように力強く申し出る。


「私を、信じてください!」

「……ありがとう。すごく嬉しい」


ふわりと笑顔になるエランの顔を見て、思わずスレッタも嬉しくなる。


初めて誰かの役に立てた気がした。




「では早速、体液を準備しますね!えーと…………ふあぁ〜」


唐突にスレッタが口を覆い欠伸をしだす。


「君、何やっているの」


エランが理解できないといった様子でスレッタを見つめる。


「体液といえば、涙が一番手っ取り早いかなと……」


人体から出る液体は基本的に『体液』と呼べるだろう。少量しか出ないが、他人に与えるのに鼻水や唾液よりは涙のほうがマシだ、とスレッタは考えたのだ。


(どれくらい出せばいいんだろう)

「スレッタ…君はなにか勘違いをしている」

「……えぇ、涙じゃ駄目なんですか!」


でも鼻水や唾液なんて……そう口篭るスレッタに、エランはまたもスン…とした顔になる。



「僕はずっと『愛液』と言ったでしょう」

「ふぇ?」


彼は何を言っているのだろう。


「……分からない? あ、い、え、き」



◆ ◆ ◆



「ひゃあんッ……!んっ…!!うぅ……ひっ……!」


スレッタのトゥニカの中に潜り込み、エランは容赦なくその蕾を舌先で弄ぶ。初めて知るその感覚に、スレッタは震え上がった。


「うそッ…あっあんっ!はにゃ…はなしが…ッ、ちがいますっ…ああっ!!」

「何も違わないよ。聞き間違えだとしても僕は悪くない。僕が愛液を欲しいと言って、スレッタがそれに『了承』したんじゃないか」

「でもっ…んっあぁッ…!あっうぅ…」

「嘘じゃない。きっとこの聖母さまも証明してくださると思う」


いつの間にか愛撫を中断したエランは、乱れたトゥニカを整えてスレッタを抱きかかえた。


「ひぃっ!」


そして聖母像の正面のテーブルにスレッタを座らせ、再びエランはスレッタの秘所を責めたてる。


「せっかくだし、聖母さまに見ていただこうか」

「あぁ…っ!やっ…見ないで…ひゃんっ!!」


信仰対象である聖母像にあられもない痴態を見せつけてしまっているという事実に、たまらず両手で顔を覆い隠す。


「うぅ……ッ、せいぼさまッ、どうか……あんっ、お許し、くだひゃぃ……んんッ!!」


羞恥で涙を零しながら、胸の前でぎゅっと手を組む。

その所作とは裏腹に。


「すごく濡れてきているよ、スレッタ」


クチュクチュと卑猥な音がスレッタの羞恥心をさらに煽る。


「僕のご飯がちょっと特殊なだけで、君は何も悪いことをしていないよ」

「あっあん…あぁ…でもっ……」

「すごく美味しい……」


恍惚まじりの声音で、エランが囁く。その吐息が秘所にかかり、思わず息が漏れてしまう。


「こんな卑しい悪魔に施しをくれるなんて、僕にとっては君が女神様だ」

「はぅ……んっ!えらん、しゃん……っ!」


快楽の波に抗えず思考がまとまらない。淫魔の甘言なんて信じてはいけないと、そう分かっているはずなのに、スレッタの脳には心地よく浸透してゆく。


エランだけは、こんな自分を認めてくれているような錯覚を覚える。

情けない部分も含め、何もかもを。


「すっ……しゅき……えらんしゃん……!」

「………っ」


一瞬愛撫の動きを止めたエランだが、聞こえなかったふりをして再び蕾を舌で舐りあげる。


(……僕のような下賤な淫魔と、清いスレッタが釣り合うわけないじゃないか)


エランは淫魔だが、その一方で施しをくれたスレッタを穢してはいけない――少なくとも、一線は越えてはならないと心に決めていた。


「ひぁっ…ああっ!!なにかきちゃうッ…!!」

「そろそろ絶頂を迎えるんだね。イッていいよ」

「ぜっ……?ああっ…いっ…わかんにゃいれす…!」

「そのまま快楽に身を委ねてごらん」


スレッタの全身がビクビクと震えだす。


「んっあぁあっ……!イッちゃうッ……ひゃんッ!!」


天にも昇るような不思議な感覚を覚え、スレッタは背を仰け反らせた。



◇ ◇ ◇



「わぁ…エランさん、修道服似合ってますよ!」

「その言葉、喜んでいいのかな」

「はい!褒めてます!」

(エランさん、かっこいいなぁ……)


特に行くアテもないということと、力仕事を任せられる貴重な人手ということで、しばらくエランは教会に身を寄せることになった。信徒の目もあるので、修道服はちょっとしたカモフラージュである。


「僕の部屋まで用意してくれなくても良かったのに」


ちょうどいい空き部屋もあったので、当面はそこで生活してもらうことになった。


「いいんです!使ってないお部屋ですし、ないよりはあったほうが良いかと!」


それに……と、スレッタが口篭る。


「やっぱり……一人で過ごすの、寂しいんです。お姉ちゃんも忙しそうで、私から連絡もしづらくて……」

「そう……」


人前では常にスレッタは着丈に振る舞うが、内心は常に寂しくてたまらないのだろう。シスターということを除いても、彼女は根っからの善良な人間であり、人と接することが好きなようだから。


――それなら僕が、彼女のそばにいてあげたいと思う。

叶うのなら、ずっと。


「……スレッタ」

「はい、なんでしょう?」


「お腹、すいちゃった」

「……!!」


かあっと、スレッタの頬が紅潮する。

エランが空腹を訴えるのは、つまり『そういう』食事をしたい、ということだ。


誰も入る余地のない、二人だけの秘密の合図。


「……お腹、すいてしまったんですね」


スレッタは長いトゥニカの裾を両手でつまみ、下着が見えるところまで捲りあげた。




「……………はい、どうぞ……♡」



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