イスラフィル護衛任務

イスラフィル護衛任務


イ「地球圏に生きる者として、私は決してプラントの非道を、エイプリル・フール・クライシスの齎した、混乱と惨劇を忘れさせるわけにはいかないのだよ」

ヒ「……失礼ながら、エイプリル・フール・クライシスは地球軍の起こした『血のバレンタイン』への報復行動です。これを元にプラントを一方的に糾弾するのは無理筋かと思われます」

イ「ほう……では君は、ニュートロンジャマーを撃ったプラントは正しかったと? 24万人の命に対して、10億もの命を持って贖わせたシーゲル・クラインは正しかったと、君はそう言いたいのかね?」

ヒ「そうは言っていません……ただ、フェアではないと。それに核兵器は、持つだけに留めて使わないことを前提にする抑止力です。核を撃つ、ということは『自らも撃たれるつもり』ないし『そうなる前に敵を燼滅させる』思惑がある、と取られる行為です。もし向こうが本気の報復に出ていれば核ミサイルが地球に降り注ぎ、ナチュラルは滅んでいたでしょう。先ほどの命の代価の話に則れば、『10億の犠牲で世界が滅ばずに済んだ』とも、考えられます」

イ「あまり連合軍人として褒められた物言いではないな。気をつけたまえよ、大尉」

ヒ「……失礼しました。不謹慎な物言いでした。ともかくこの件を引き摺ることは双方にとって得がない、ということを言いたいのです。お互い様と納得して、次に進むしかない。人は忘れるからこそ前に進める。私はそう思うのです」

イ「なるほど。『人は忘れるからこそ前に進める』か……面白い考えだな、バーズ大尉」




(専用の極秘回線を使った通信会話にて)

《اسرافيل》

「……という事だ。ヒダカ・バーズは完全にコンパスへ裏返ったと見て良い。あちらを内側から切り崩すプランは使えなくなった」

《Dolce》「圧をかけ過ぎです。せっかく護衛任務で得た好感度が台無しですよ」

《Risolute》「それについてはすみません。僕の不手際です。口を滑らせて彼に感づかれてしまった」

《اسرافيل》

「『宇宙(そら)のコーディネイター』という言い回しで彼の目つきが変わっていたな。再会しても疑いの目が続いていたから彼の本心を探る方が優先とした」

《Dolce》「あぁ、それは……わかりました。一度の違和感で感づいたヒダカ・バーズを称賛する事にしましょう」

《اسرافيل》

「それに、このタイミングで気付かれたところで相手はもう未然に防げまい。君も同様だろう? ドルチェ」

《Dolce》「まぁ、そうですね。アスランとメイリンが探り始めていますが、私に辿り着く頃にはもう事が始まっています」

《Risolute》「エネももうすぐアプリリウスに到着予定です。彼女が合流すれば暴力的手段でもイスラフィルに手を出す事はできなくなる」

《اسرافيل》

「あとはフリーダム強奪計画の首尾次第か……ドルチェ、戦力の進捗は?」

《Dolce》「リソルート達のストライクは改修も調整も順調です。問題はエネルジコのカラミティで……要求値をクリアした部品が不足しています」

《اسرافيل》

「カラミティなら私の予備機から部品を取れば良い。ヒダカ・バーズの離反も期待できない今、コンパス相手に絡め手無しで挑めると確信できるパイロットはエネとフリーダムを奪えた場合の私だけだ。彼女は万全にしておきたい」

《Dolce》「承知しました。綱渡りが増えますが今更ですね」


Report Page