アーバンレジェンド・チェーンソーエッジ

アーバンレジェンド・チェーンソーエッジ


M霊園、O交差点、K駅前で3回、アサ達は電ノコ男を目撃している。次に出て来た時、電ノコ男はアサを食べるのだろう。

アサは少し遠出して、幽霊が出ると言う公園を訪れていた。これまでの経験から、電ノコ男は曰く付きの場所に好んで現れる事がわかっている。

アサに身体を明け渡されたヨルは持ってきたこれまでの戦果を用意し、公園内の森で戦いに備える。

腰に児童の足から作ったナイフを括り付け、手にはサンタクロースに届けられたウェディングドレスを対価にした剣。

そして、露店の主に施してもらった祝福。朝から口数の少なかったヨルの表情は張り詰めており、顔を眺めるアサは彼女の不安を感じ取っていた。

ヨルは霊園で拾った長い黒髪から作った地雷を周囲に埋めている。地面に危険物を埋める発想は古代から存在したが、高性能爆薬の開発が進むと、急速に地雷は発展していった。

「そんなの効くの?」

「そうだな…もし踏んだら…多分、びっくりするんじゃないか」

「冗談?」

地雷の威力はヨル自身、期待していない。相手は不死身の怪物だ。ほんの一瞬、動きを止めてくれればそれでいい。

地雷の埋設が終わった頃、刃の回転する耳障りな音が響いてきた。そして2人の視界に、頭部と腕から電動鋸を生やした怪物が姿を現す。怪物は無言でヨル目掛けて突進してきた。

疾風としか思えぬ速度による魔獣の接近を、爆発が阻む。雛鳥を武器化した爆弾が電ノコ男の疾走コース上の木々に吸着されており、熱源を感知した結果、炸裂したのだ。

ヨルは仕掛けた地雷を避けながら間合いを詰め、ウェディングドレス剣を薙いだ。電ノコ男は身を翻すが避けきれず、切先で傷つけられた胴体に深い裂傷が走る。血潮と腸が2体の間に撒き散らされた。

電動鋸が唸り声と共に宙を翔る。ヨルが通り過ぎた位置に刃が疾った。時には躱し、時には剣によって回転する刃を弾く。肩が脱臼するかと思われるような震えがヨルの腕を襲うが、得物は刃毀れもせずに持ちこたえている。

祝福によって成立する攻防の中、仕掛けた地雷が幾つか駄目になった。地雷が炸裂する瞬間に生まれる僅かな隙に、ヨルは電ノコ男の身体に剣身を見舞っていく。

身体が貧弱な為に防御を中心としたいが、勝負に時間をかけることはできない。先程から飛び散っている馬鹿でかい金属音と火薬の炸裂音、木々が倒れる音。一般市民はやってこないにしても、通報されればハンターが駆けつけてくる。

攻防が十数回続いた頃、ウェディングドレス剣が電ノコ男の右腕を捕らえた。右腕を斬り飛ばしたヨルは続け様に突きを繰り出し、電ノコ男の心臓を穿つ。

その勢いのまま、ヨルは怪物を地面に縫い止めた。なおも抵抗を試みる怪物の左腕に、児童ナイフが打ち込まれる。

「とったぞ!!チェンソーマン!!」

長年の宿願が達成されたヨルは口の端を裂けそうなほど吊り上げた。そのままウェディングドレス剣を滑らせ、自身から奪われた概念を取り出してやろうとしたヨルの動きが止まった。

「ヨル?どうかした…」

疑問に思ったアサは近づき、ヨルの顔を覗き込む。その表情は耐え難い衝撃に打ちのめされた者のそれだった。呆然としていたヨルの顔は、すぐに歯を食いしばった怒り顔に、そして終いには泣き顔にも見える表情で震え出す。

アサが声をかけられないでいると、ヨルは突然絶叫。地面に縫い止められた電ノコ男の体を何度も蹴り始めた。

「ちょっ、ちょっと…どうしたの!?勝ったんでしょ!?」

「ち…ちがう……!こいつ!…チェンソー…マン…じゃ!ない!」

「はぁっ!!?」

蹴り続けるのをやめると、ヨルは肩で息をする。すぐに息を整えたヨルは仰向けに倒れている電ノコ男の首に手をかけた。

「都市伝説チェーンソー!!」

ヨルは持ってきた鞄を持つと、電ノコ男の首以外の武器を全て捨てて、公園から姿を消した。

放置された電ノコ男の首から下が変貌する。高層ビルを思わせる上半身の各所には薄く微笑む唇、腰から下は魚のシルエットだが鱗はなく、代わりに白線のひかれたアスファルトで覆われている。

ヨルは電ノコ男の変貌を見る事なく、自宅に帰った。見るまでもなかった。剣を突き立てて見下ろしている最中、匂いが変わったからだ。

「じゃあ…体を返す約束は?」

「返すわけないだろう…あれはチェンソーマンじゃない」

自宅でヨルから事情を説明されたアサは絶句する。これでヨルと縁が切れると思ったら、まだ戦いは終わらないなんて。

「これからどうすんの!?武器も全部無くなったし…!」

「いや、一つある」

ヨルは持ち去った電ノコ男の首を示した。頭部は若干変形しており、角の付け根にある小さなトグルスイッチをヨルが操作すると、顔の部分からチェーンソーが突き出てきた。

「噂の元になったオリジナル…そいつがまだいる」

戦利品のチェーンソーを見ていると、闘志が湧き上がってくる。己そっくりのチェーンソーで奴を倒す。皮肉が効いているじゃないか。


最終戦果:都市伝説チェーンソー

チェンソーマンに擬態した都市伝説の悪魔の首を武器化したもの。チェーンソーの刃をスイッチ操作で収納できるため、携行性は抜群。


他の戦果は全て喪失

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