アンジャッシュ系ロー+コラさん再会話
43もとい33「コラさん!? コラさんなのか……っ!! い、きていたなら、なんで……っ!!!!」
「……コラさん? 何を勘違いしているのかは知らないが、」
今回が初対面だろう、おれたちはーーそう、ロシナンテが返答した直後。
……ポロリ、と。
目の前の海賊の男ーーと言っても、歳の頃を考えれば青年と称されても良い年頃だろう。これで30億の賞金首なのだというのだから世も末だーーの、満月を溶かし込んだような金眼が潤み、見る見るうちに溜まった涙が一滴、頬を伝う。
その光景にギョッと目を見張ったのは、ロシナンテだけではなかった。
ロシナンテはおろか、彼の部下たち、そして、ハートの海賊団の船員たち。その全員の目が眼前のありえない光景ーー最早、堪えきれぬとばかりにポタポタと大きい雨粒のような涙を落とす青年ーーを凝視し、驚きのあまり、動きを止める。
「お、おい」
さしものロシナンテも動きを止める。
いくら相手が無頼の海賊であるとはいえ、無垢な幼子のように目を見開いて、次から次へと涙を流し続ける相手へと攻撃を仕掛けることは憚られたのだ。そうやって……ぐずり、と。つい先だって、同盟相手と共に四皇二人を打ち倒したはずの大海賊が鼻を啜る。
「お、おれのことを、覚えて…い、ないのか」
「いや、だから、おれはお前とはしょたいめ……」
だらりとぶら下げられたままの長刀・鬼哭。困ったことに、微塵の殺意も感じられない。
その姿に、泣きじゃくる幼子の姿を投影してしまったことが運の尽きだった。ついさっきまで(少なくともロシナンテ側は)一触即発だったはずなのに、どうしようもない居心地の悪さを感じてしまい、どうにも戦意が込み上げてこない。
「お、れに…っ、あ……ぃ、してる って、言ってくれたことも、嘘だったのか……っ!」
「アイエ!?!!」
突如放り込まれた爆弾発言に、甲板の空気が一気に騒ついた。
ハートの海賊団の船員は『あ……っ』みたいな表情を浮かべ、さっきから自分達の船長とロシナンテの顔を見比べる。俯いたまま、喉から搾り出すようにして言葉を綴るトラファルガー・ローの本意は不明だ。不明なのだが、周囲から向けられる疑惑と驚愕の眼差しに、ロシナンテは意味もなく両手をワタワタと動かした。
「待て待て待て待て……っ、え、ちょ、」
「あんたが、ぐす……っ。と、隣町で会おう……って、迎えに、ひっく、来てくれるって、言うから、おれは、……っ!」
「え!? あ!? わ!!!」
事情を知っているらしいハートの海賊団の船員たちが、鎮痛な表情を浮かべる。『かわいそう、キャプテン……』『キャプテン……』ぐす、と。愛らしい白熊がつぶらな瞳をウルウルと揺らし、ペンギンの帽子の船員が表情を隠すように、帽子を目深に被る。シャチの帽子を被った船員が、あからさまに非難する眼差しをロシナンテへと向ける。
しかし、身に覚えのないロシナンテにしてみれば堪ったものではない。
同じ船に乗る仲間として固い絆で結ばれていた筈の部下たちが騒然とし始める。『え…、准将』『ええ……!?』と俄には信じ難いと言わんばかりの表情を浮かべ、武器を振るうことも忘れて、チラチラとこちらを気遣うように視線を送ってくる。ものすごく居心地が悪かった。
「え、まさか、准将。まさか……??」
「待て待て待て、誤解だ!! 何度も言うが、間違いなく、おれとこいつは今日が初対面なはずで……!!」
「…………しょたいめん」
ひどくショックを受けた顔のトラファルガー・ローは、ロシナンテの拒絶を受けて、呆然とした表情のまま、ロシナンテの言葉を反復する。どうしようも、めっちゃくちゃ罪悪感を刺激される。それは部下たちも同様だったようだ。
『准将、あんた、今度はどんなドジを……』『流石に笑えませんよ……』
チラリチラリと向けられる、部下たちの疑惑の籠った眼差しと囁き声が心に刺さる。どうしよう。どうしようもない記憶の欠落を抱えながらも、清く正しい海兵を目指し、日夜ドジを踏みながらも頑張って、やっとのこさ准将にまで出世したというのに、本当にどうしよう。なんとかして、我が身が潔白であることを証明しなければーーそう、勢いづいたロシナンテが声を張り上げるよりも先に。
「つまり、あんた……おれのことを弄んだのか……」
「ひょえ」
助けて、センゴクさん……!! と。
ここにはいない尊敬する養い親へとSOSを送るが、当然のことながら、その声は届くはずはなかった。