アロンソがローの船に襲撃かます話・6

アロンソがローの船に襲撃かます話・6



(チッ、しかたねぇ……)

ローは背後で戦々恐々を見守っているベポたち船員に、ハンドサインを送る。


≪気づかれないよう、ゆっくり前進≫


この先の海は深そうに見えて隆起している箇所も多く、波の具合によっては引っかかって座礁するおそれがある。

ドフラミンゴの船はローの船より速力があるが、大型故に小回りがきかない。

できるかぎり潮に流されているふりをして件の海域まで近づき、そこからはいっきに駆け抜け、潜る。

このあたりの海図は、読まずとも船員全員が頭に入れてある。心配はない。

ただ、問題は、ドフラミンゴの能力『イトイトの実』の効果範囲だ。



ローはファミリーに身を寄せていた頃から、ドフラミンゴの戦闘をほとんど見たことがない。

ドフラミンゴが戦場に出ることはめったになく、あったとしてもファミリーに危機が及んだときくらいのもの。

ドンキホーテ海賊団は下っ端も含め実力者が揃っている。

そうそう危機に陥ることはない。


そもそもローは、おなじく子供であったベビー5、バッファロー、そしてそのドジっ子加減を危惧されたコラソンとお守り役のレイナとともに船で待機が常であり、戦場に出ることなどなかった。

さらに数年前、ドレスローザ国王の座をかけて前リク王と≪タイマンステゴロ七十二時間耐久ファイト≫を催して以来、ドフラミンゴは海に出ることさえ稀になった。

ローには、ドフラミンゴの能力含む戦力がわからない。だが、金とコネだけで手に入るほど、王下七武海の名が安くないのも事実。



(向こうの船にどんなやつが乗っているかも、ここからじゃわからねぇ。

俺が知っているやつならまだ対策もたてられるが、知らない、それも能力者が乗っていたとしたら……)

「……オイ、アル。おまえ、さり気なく向こうの船の様子を探って……」

「ヨオ――――ッシ、野郎ども! この先の海域はでかい船が入れない!

そこまで逃げ切るぞ!

全力ぜんし――――ん!!!」

「「「アイアイ、誰――――!?」」」

「バカアル――――!!??」



自信満々意気揚々。

相手に気取られぬようささやくローの気遣いを台無しにするアロンソの大音声、晴天切り裂かんばかりに勢いよく。

元気にこちらの手の内を詳らかにするアロンソの脳天に、ローの渾身のげんこつが落ちる。



「部外者のくせになに仕切ってんだてめえ!!

てめぇらもだ! ベポ、シャチ、ペンギンも!

この船のキャプテンは誰だ!?

俺だろう!

なんでこんな奴の言うこと聞いてる!?」

「いやー、あのー、勢いっていうかー」

「ノリっていうかー」

「ごめーん、キャプテーン!」

「ごめーん、ロー!」

なかよくそれぞれ頭にコブ作って、泣きを入れる船員+1を前に、ローはこめかみを押さえる。

四人とも会って一時間も経っていないはずだが、妙になじんでいるようにみえるのは気のせいか?


「まったく、コイツラは……」

四人に意識を取られて、いっときローは状況を忘れていた。

いま、自分がなにと対峙しているかを、ほんの一瞬だけだが失念した。

――――首に絞首刑の縄がかかるには充分な一瞬だった。


『フッ。

フッフッフッフ……。

そうか……やはりか……』

「ッア」



ローは己の手のひらから聞こえた声に青ざめた。

向けた目線の先には電伝虫。

しゃっくり上げるように笑う姿は、見様によっては泣いているように、とも。

『正直なところ、信じたくはなかったんだがな。

まさかほんとうにおまえの船にアロンソが乗っているとは。

まさか……。

ほんとうに――――



キサマがアロンソを誘拐したとはな、トラファルガー・ロー!?』

「「なに――――!?」」

ドフラミンゴの咆哮に、ローとアロンソ、ふたりの金切り声が重なりポーラータング号を揺らす。




「ど、どういうことだ、ロー!

おまえ、オレを誘拐してどうするつもりだ!?」

「そもそも乗り込んできたのはてめえのほうだろうが、バカアル!

いったいぜんたいどうなってやがるのか、そいつを聞きてぇのは俺の方だ!

――――おい、聞こえるか、ドフラミンゴ。

誘拐ってのは、どういうことだ!?」

『"どういう"……?

フッフッフ……さっきのおまえの言葉じゃねえが、そいつを聞きたいのは俺の方だ。

ロー、キサマなにが目的をアロンソを誘拐した?』

「だからしてねぇよ! 誘拐なんて!

いったいなにを根拠に……」




『とぼけるなあッ!!!』

「――――ッ!?」

竜の咆哮に船が揺れた。




電伝虫越しとは思えない怒りの覇気が大気を、海原を震わせる。

状況を見守っていた船員の中には気を失うものも出るなか、それでも気丈にローとアロンソは堪えた。


『この期に及んで見苦しい……。

今日の昼過ぎ、ドレスローザ近郊に現れたおまえの船に向かって、泳いでいくアロンソの姿が目撃されている』

「それだけで誘拐って決めつけたのか!?」

『そんなわけがあるか!

アロンソがおまえの船に向かったとの報告があってすぐ、俺のもとに手紙が届いた。

助けを求めるアロンソの直筆の手紙だ!!』

「「はあああああああああっ!?」」

突きつけられた衝撃の内容に、おもわずローはアロンソを見る。

おなじく目をむいたアロンソは、ちぎれんばかりに首と手を横に振った。




「し、知らん知らん知らーん!!

思い当たるフシなんかみじんもない!!

そもそもおまえの船を見つけて追いかけるまでに、手紙を書く余裕なんて……」



『アロンソからシュガーに託されたと、モネから見せられた手紙はありあわせの紙の裏に、かわいそうに血文字で書かれていた!』

「あ、あれかぁ~」

「あるんじゃねえか! 思い当たるフシが!!!」



のんきに手を打つアロンソの頭を、ふたたびローのげんこつが揺らす。

アロンソは頭にできたたんこぶをさすりさすり、

「いや、おまえの船見つけて乗り込もうと思ったんだけどさ。

このまんまなにも言わず国を出たら大騒ぎになるだろうなーって、たまたまそこを通りかかったシュガーに書き置き頼んだんだよ。

たぶんそれのことだ」

あっけらかんと答えるアロンソ(疫病神)の胸ぐらをつかみ、血走らせた目で睥睨するロー。

叶うならこのまま海に放り込んでやりたいが、その前にドフラミンゴの誤解は解いておかねばなるまい。

海獣のエサにするのはその後だ。



「どんな書き置きだ」

「たいしたことは書いてないよ。ちょっとおまえ(ロー)のところに行ってくる、みたいな内容の。

紙自体も、出版社までの地図の裏に、刺されたときの腹の血で書いた――――」

「たとえばこれみたいな?」

「そーそー、ちょうどそんな紙の……アレ?」

ベポがアロンソのズボンの尻ポケットから取り出した、それはたしかに紙だった。

ローはおそるおそる、ベポの手から紙を受け取る。

広げてみればそれはたしかに地図だったが、濡れているうえに赤黒いシミが裏から染み出し、ほとんど地図としての役割をなさない。


だが問題はそこではない。


ローはゆっくりと、最大限の注意を持って地図を裏向けた。

そこには赤黒い字で、



『トレーボルさがすの

もらえるよう

にいってくる』



「……なんだこりゃ?」

ひらがなだらけというのはこの際おいといて、ローは内容の不明さに首を傾げた。

言葉がつながっているようで、つながっていない。

不自然にちぎれているようにも思える。

見れば端の方が刻み目になっていて、これではまるで実際ちぎれた跡のような――――?


思い当たった可能性に、ローの胸は悪く詰まる。

こころなしか呼吸も滞りがちな、横を見ればおなじく紙を覗き込んでいたアロンソの顔色も蒼白の。


……まさか。


「おい……アル。

これ、もしかしてもっとでかい地図だったか?」

問えばアロンソは頷き、脂汗を流しながらつづける。

「オレ……おまえの船追わなきゃって焦ってて……。

書いた手紙シュガーに渡したとき、慌ててたから、うっかりちぎっちゃって、残りを無意識にポケットに収めてた……みたい」

「全文、覚えてるか?」

アロンソは糸の切れた操り人形のように、がくりと一度頷いた。

そして、血の気を失いすぎた紫色の唇が震えながら開く。



「"ローにトレーボルさがすの

たすけてもらえるよう

たのみにいってくる"」



ローの手に残された紙に書かれているのは、


"トレーボルさがすの

もらえるよう

にいってくる"


アロンソの覚えている内容が正しいのなら、ドフラミンゴがもっているもう片方にかかれていた内容は――――




"ローに

たすけて

たのみ"




ローの指から地図がボタリと落ちる。

ローは天を仰いだ。

アロンソはうなだれた。

ベポは首を傾げた。

どうしようもない諦念がその場におんもらと濃霧のように立ち籠めた。



なるほど。

なるほど、読み方によってはローに誘拐され、スキを見て必死に助けを求める手紙を人に託した、と見えなくもない。

血文字で書かれている点も、その疑いに拍車をかけている。



「――――いや、それにしたっておかしいだろ!!」

ぐったりと骨が溶けたかのように脱力していたアロンソが、とつじょとして頭索類が脊椎動物に進化したかの目覚ましさで立ち直り、疑念を叫ぶ。



「オレがシュガーに手紙を頼んだとき、オレはまだ陸にいた!

シュガーはオレが自分でローの船に向かって泳いでいったの見てるはずだ!

後ろから声かけられたもん! 確実だ!

なんでそれで"オレがローにさらわれた"と思われる!?

おかしい! どっかに食い違いがある!!」



アロンソの言葉が事実なら、たしかにおかしい。

シュガーとかいうやつの勘違いであれなんであれ、誤解を解く糸口はそこにある。

「アロンソ! いますぐそれをドフラミンゴに説明しろ!」

「おう!

聞こえるか、親父!?」

ローから投げ渡された電伝虫に向かいアロンソは声を張り上げた。

説得というには聞く側の耳は考慮されず、声は上ずり音は割れ、鼓膜を突き破らんばかりの蛮声、叫ぶというより吠えるといったほうがいいくらいの。

だがそんなこと気にする余裕もないアロンソ、さらに言葉をつなごうとするも、防がれる。

電伝虫の向こうから滑り込む、しずかな父(ドフラミンゴ)の声によって。


『アルか……ああ、無事なんだな』

「あったりまえだ!

そんで、親父……」

『大丈夫だ、アル。すぐに父さんが助けてやるからな』

「いや、違う! 助けとかいらない!

オレがローの船にいるのはオレから乗り込んでいったからでッ」

『わかってる。みなまで言うな』

「だからオレ、このままローの船に「おい待ておまえなに勝手に!」いーじゃん! もうこのさいだし!」

『アル、安心しろ。



おまえを洗脳したやつはいますぐブッ殺して父さんがかならず助けてやる!

待っていろ、アル!!』

「「アンタが待て――――!!??」」



ドフラミンゴの悲壮な死の宣告に文字通り待ったをかける二種の声。

双方ともに悲嘆驚嘆で形作られていて、だがどちらかといえば≪ぶっ殺≫対象であろうローのほうが悲惨の色が濃いように思える。


「洗脳!?

俺が!? アルを!? なんのために!?」

「この船洗脳とかできるやついんの!?

すごぉっ! 怖ぁっ!

さすが海賊!

さすがローの集めた船員!」

「おまえの中でオレのイメージどうなってんだ!?

というかいねえよ! そんなやつ!!

どっからでてきたんだそんな与太!?」

『この期に及んでなにをごちゃごちゃと見苦しい!

こっちの手元にはアロンソの助けを求める手紙と――――』

「だから、そもそもその手紙自体アンタが考えているようなもんじゃ

『じっさいに船でキサマに教化され変わり果てたアルを見たとの報告がモネからあった!!』

あの女――――!!??」



思いもかけぬ名がドフラミンゴの口から飛び出した瞬間、ローは血走る目で周囲を睥睨した。

だが思い描いていた姿は甲板のどこにも見えず、かわりに聞こえてきたのが、

『ああ、おかわいそうな若様……』

悩ましげに瞼を伏せた電伝虫から、つい先程聞いた声が憂いをたたえて滔々と。



『私だって最初は信じられなかったわ。

でも、シュガーから、手紙を託したときのアロンソ様の様子がおかしかったと相談を受けてまさかと思った。

以前新聞で読んだことのある、特殊な薬による洗脳を受けた患者の症状と似ていたから。

だから、みずからハートの海賊団への斥候を志願したの。

そうしたら案の定……船で出会ったアロンソ様はふだんの快活な姿からは程遠い、まるでゾンビのようにうつろな顔で私のこともわからなかった様子。

私はなんとかアロンソ様を取り戻そうとしたけれど、洗脳されたアロンソ様は暴れて、そのうち船員に見つかってしまって――――。

ごめんなさい、若様! 私にもっと力があれば!』

『モネ……』

ヨヨと泣き崩れる電伝虫の、これが舞台であればスポットライトに舞い散る花びらも抜かりなく、見事な女優ぶりだと称賛もできただろう。

だがここは壇上でなく海上で、ローからすればとんでもない大根役者だと謗ってやりたいところだが、電伝虫越しに聞こえる反応を見るに、どうやらドフラミンゴはモネの言い分を完全に信じ切っている様子。


トレーボルが愛想をつかすのも当然の耄碌ぶりだと見るか、あるいはどんな三文芝居でも団員が演じれば信じてしまうほど家族(ファミリー)愛が強いと見るか。

ローとしては前半を採用、それを交えておもいっきりドフラミンゴをこき下ろしてやりたいところだが、隣で遠慮なくローの肩をガクガク揺すりまくるアロンソがいてそれどころではない。



「ど、どどどどどどどういうこと!?

なんでなんで!?

なんでモネがあんなウソを!?」

「おちつけ、バカアル!

――――あの女、どうやら俺たちを利用する気らしい」

電伝虫越しのモネの演技は、ドフラミンゴに見せつけるのと同時にローたちに言い聞かせるような響きももっていた。

≪こちらはこういう手筈でゆく。そっちもあわせろ≫と、言外に語っていた。


最後に見たモネは言っていた。

≪フェルナンドと若様――ドフラミンゴ――のためならなんでもする≫と言っていた。

そうだ。利用する気だ、あの女(モネ)は。

自国の王子(フェルナンド)を助けるために。

自国の王子(アロンソ)を伝書鳩代わりに使うために。

ハートの海賊団(ローたち)を巻きこんで罠にかけたのだ。




(あの女、俺とアルをハメやがった――――ッ!!)

「ロー、ごめん!

乗り込んどいてなんだけど、オレ、一回親父の船に行く!

行って説明して、そっから改めていっしょにトレーボル探しに行こう!」

「ぜひそうしろ!

そしてこっちには二度と戻ってくるな!」

船べりに立って海に飛び込もうとする、アロンソの臀を激励代わりに蹴っ飛ばしてやろうと身構えたローであったが、次の瞬間船が大きく揺れて無様にすっころぶ。



「いっ……ててて。

なにが起きた!?」

「キャプテーン! 大変だ!

ドフラミンゴの船がッ」

こけつまろびつ船員の一人が船室から飛び出してきた、と――――爆ぜた! 左舷の海!


海面に水柱が上がって、船が大きく傾ぐ。

と、それを支えるように反対側にも噴火するように水が上がって、ポーラータング号は右往左往。

乱暴なゆりかごよろしく、高波に好き勝手に翻弄される。

船室からワラワラと船員たちが甲板に転がりこんできた。




「砲撃だ! ドフラミンゴの船が撃ってきやがった!!」

「おまけにものすごいスピードで追ってきてやがる!

いまは全速力で逃げてるが、向こうの船のほうが足は早い。

追いつかれるのは時間の問題だ!」

「おい、ウソだろ!?

オレが船にいるのに!?」

船が揺れた刹那、運良く船側に転がり落ちたアロンソが甲板に叩きつけた腰をさすりさすり、おなじく甲板をコロコロ転がる電伝虫にすがりついた。

「おい、聞こえてんだろ、毛玉親父!?

いますぐ撃つのをやめろ!

オレごと船を沈める気か!!??」

『安心しろ、アル。

船とローを始末したら、すぐにおまえを回収してやる。

能力者のローは沈むだろうが、非能力者のおまえは泳げるだろう?』

「いやオレも沈むわ!

泳げる泳げないとか能力者非能力者関係なくふつーに沈むわ!!」

『大丈夫だ。

おまえは将来のドレスローザとドンキホーテ海賊団を背負う人間、なにより俺とレイナの息子だ。

こんなことで死ぬようなヤワな漢じゃねぇ!!!!』

「わー! 愛されてるね! 赤髪の人!?」

「そうだねぇ! シロクマさん!

でもオレ、もっと別のところで親の愛実感したかったなあ!!」

互いに抱き合い泣きが入るベポとアロンソの脇を縫うように、ペンギンが悲壮な顔でさらなる悲報を叫ぶ。



「だめだ、キャプテン!

いまの砲撃で帆柱にヒビが入った!

これ以上スピードが出ねぇ!」

「くっ――――そぉ!!」

当初の作戦――――気づかれないよう航行難の海域まで進み、その後は潜行して逃げる――――はこれで完全に潰れた。

この場で一番手っ取り早いのは元凶(アロンソ)を縛り上げて海に放棄し、相手がそれを回収しているスキに逃げる、なのだが、やったらやったであとが恐ろしい。

レイナの顔もちらついて、自身への嫌悪感で吐気もする。



と、なれば。

で、あれば。




「――――全員、なかに入れ!

いまからポーラータング号は潜る!

海上では向こうのほうが速いだろうが、海中ならこっちに分がある!

急速潜航後、砲弾とヤツ(ドフラミンゴ)の能力が及ばないところまで全速前進!

わかったらとっとと持ち場につけ野郎ども!!」

「「「アイアイキャプテン!」」」

「てめえもだ、アル!」

「う゛ぇっ!?」

ローは床にへたり込んだままのアロンソの胸ぐらをつかみ、頭突きを食らわせてやる。

涙でゆがむアロンソの瞳に映るローは、焦躁の色こそあれど絶望の歪みはない。

「てめえだって仮にも海賊。

船の動かし方くらい知ってるだろ。

俺の船に乗りたいなら役目を持て。穀潰しを養ってやるほど、ウチはやさしくねえぞ」

「え、じゃあ……」

「わかったら返事!」

「ッ! アイアイキャプテン!」

泣いたカラスがもう笑っている。

破顔一笑。飛び上がるようにアロンソは他の船員の後に続く。

その背中を見送って、ローは床に落ちていた電伝虫を拾う。

波をかぶってしっとりと濡れた電伝虫は、完全に沈黙していた。

ローは電伝虫をポケットに仕舞った。

(あの女の思い通りになるのは癪だが、だからってアルをこのまま放り出してもろくなことにならねぇのは目に見えてる……)

いまこの場で放逐したところで、アロンソのことだ。

トレーボルを探しにいくことをけっして諦めはしないだろう。

下手をすれば、おのれただひとりで海に出る可能性さえある。

(まがりなりにも古馴染みだ。

俺の知らねぇところでくたばられるよりは、手元で管理していたほうが俺の精神衛生上よっぽどいい。

それに……)

ロー自身、トレーボルのことが引っかかっていた。



あれほどドフラミンゴに執着していた男が、ドフラミンゴの前から姿を消した。

そこがどうにも腑に落ちない。

なにか、広い海原のどこかに機雷が放置されていると人づてに聞いたような、いわく言い難い不安感がつきまとう。


(なにごともなければそれでよし。

だがもしトレーボルがなにか罠を――――レイナさんたちを陥れようと企んでいるのなら)

「……俺が****しねえとな」

ローは暗い覚悟を瞳に燃やし、手にした鬼哭を握りしめた。



「おーい、ロー!

もう潜るぞ!」

「キャプテン、はやくはやく――――!!」

アロンソとベポが青い顔のまま、船室から両手を大きく振って呼びかける。

「いまいく!」

ローは一声返すと、砲撃に揺れる甲板を駆け出した。


:ここのローはたぶん初登場からギャグ堕ちしてる:

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