アラヒメ様にもっと甘やかしてもらうお話

アラヒメ様にもっと甘やかしてもらうお話


 ふと夕涼みにお屋敷の裏手に出てみれば、どこからか小気味のいい音が聞こえてきた。


 誘われるように音のする方に向かってみれば、がたいのいい男の人が斧を手に木を割っていた。

 割られた木々はおそらく薪としてお屋敷で後々使うのだろう。アラヒメの御巫としての私の暮らしはこういう人たちの目には見えない働きによって支えられているのだ。


 見られている気配に気づいたのか、男は不意に作業の手を止めると顔を上げてこちらを見た。

 その表情が驚きの色に染まる。


「ア、アラヒメ様。な、何故……このようなところなどに」

「そうですね……、貴方を『甘やかす』ために参りました」


 私自身の思いがけない発言にあたしは内心驚きの声を上げる。


 思い返されるのは、この前の夜のひと時のこと。

 いつか見かけていた男の子におっぱいを跡が残っちゃうくらい吸われた記憶。

 あの後はそれを隠しながらニニとハレに会わなくちゃならなかったから、もしかしたらその跡が何かの間違いで見えちゃうんじゃないかって冷や冷やしっぱなしだった。


 一方で驚いたのは彼も同様だったようで、真意を測りかねて身体を強張らせていた。

 しかし私はその困惑も予期していたようで、男の手を取るとそのまま近くにあった物置き小屋に連れて行った。


「ほ、本当に……、俺のような下々の者がアラヒメの御巫様に甘えさせてもらっていいんですか?」

「もちろんです。貴方の日々の働きに感謝してオオヒメ様からの慈しみと愛を差し上げたいのです、アラヒメの御巫として」


 私が柔らかく微笑むと、男がゴクリと生唾を飲み込む音がはっきりと耳に届いた。


 薄暗く狭い物置の中、あたしよりもずっと大きくがっしりとした体格の男がゆっくりと迫って来る。

 そして男が手を伸ばしてあたしの胸元の衣装を下ろすと、ぷるんと揺れるようにおっぱいが露わになった。


「こ、これが……、あのアラヒメ様のおっぱい……」


 男の節だった大きな手があたしの両方の胸をむんずと真正面から鷲掴む。力加減を考えずに荒々しく動く手のひらにあたし自身の柔らかな突起が擦れて思わず声が漏れそうになる。


「……っっ」

「アラヒメ様、どうかしましたか?」

「いっ、いえ。殿方が乳房に傾ける情熱に驚いていたのです」


 それは私じゃなくて、咄嗟に紡がれたあたし自身の言葉だった。

 思いもよらない事態に頬が引き攣りそうになるけれど、こんな状況で動揺を悟らせるわけにはいかない。


 あたしは淑やかに微笑むと、ゆっくりと首を傾げてみせる。

 そんな反応に満足したようで、男は鷹揚に頷いた。


「女のおっぱいが嫌いな男なんていませんよ。ましてやアラヒメ様のような高貴な方のそれであるならば、なおのこと」

「……それは、素晴らしいことです。ですが、貴方はこうして触れるだけで満足なのですか? 遠慮をする必要などありませんよ。この身体はオオヒメ様の慈しみと愛を与えるためにあるのですから」


 おぉっと男は歓喜の声を漏らすと、膝をついてあたしの身体に抱きつく。

 そのまま胸元に顔を寄せると、あたしのおっぱいにしゃぶりついた。湿り気を帯びた舌が突起を弄ぶようにれろれろと転がし、時折ピンと弾く。

 その勢いのままに音を立てておっぱいを強く吸われれば全身を痺れるような刺激が駆け抜けて、思わず身体がビクッと震えて仰け反りそうになった。


「アラヒメ様、もしかして……感じていらっしゃるんですか?」

「んンっ……っ、そ、そんなことありません」


 男の問いかけにあたしは首をブンブンと振って否定する。


(違う……っ、あたしは……こんなふしだらなことなんて、望んでないはずなのに……)


 アラヒメの御巫はオオヒメ様をその身に宿すスゴい存在なはずだ。

 ニニやハレからも憧れられる存在がこんな暗がりで下卑た欲情を向けられていいはずなんてないのに。


 それでも、男の人を甘やかすのがオオヒメ様の慈しみや愛を施すことになるのであれば、あたしにそれから逃げることなんて出来るはずがなかった。

 だって、フゥリであることさえ求められてないあたしがあたしであるためには、アラヒメの御巫としてあり続けるしかなかったから。


 あたしは手を伸ばすと、彼の頭をゆっくりと撫でてあげる。柔らかな笑みも自然と浮かんできた。


「貴方が上手におっぱいを吸えたことに感嘆していたのです。上手にできましたね、エラい♡ エラい♡」

「へへっ、そうやって褒められると何だかおっかさんに褒められてるような気分になってきます。アラヒメ様の方がずっと年下なはずなのに」

「私は慈母神であるオオヒメ様を宿すアラヒメの御巫。それ故に貴方が甘えて当然の存在なのです。だから私の乳房を吸うことに恥じらいを覚える必要なんてないのですよ?」


 撫でていた手を男の後頭部に回すとあたしのおっぱいの方に導いてあげる。


 男はそのまま顔を寄せると、あたしのおっぱいを口に含む。最初はちゅぱちゅぱとまるで幼子のように吸っていたが、その勢いが徐々に増してきて激しい水音が小屋の中に響き渡り始める。


「……ッ、んっ、あっ。や……っ、っっ、上手い♡ 上手い♡ その調子ですよ♡♡」


 褒めるように頭を撫でると、男は歓喜したように息を荒々しく零す。

 そして空いていた手で先程まで愛撫していた乳首を指で挟むように持つとキュッと抓り、同時に口の中に含んでいる乳首にも軽く歯を立てた。


「…………っっ、んんっっっ」


 いままで感じたことがないようない激しい痺れが全身を駆け巡り、視界が明滅する。


 声が漏れそうなのを必死に堪えていると、男は弓なり状に反ったあたしの身体を逃さないように抱きしめる。

 そして仕上げと言わんばかりにあらためておっぱいを激しく吸って責めたてた。


「――いつまでも薪を持って来ないと思って様子を見に来れば、いないじゃないか。まったくアイツはどこに行っちまったんだい!」


 そのときだった。小屋の外から辺り一帯に響きそうな大声が聞こえてきた。

 男は我に返ったような表情を浮かべ、あたしからパッと離れた。


「アラヒメ様、その、俺……っ」

「行かなければならないのですね。名残惜しいですが、仕方ありませんね」


 男は立ち上がるが、その顔には後ろ髪を引かれるような未練が滲んで見えた。

 だから、あたしは首を振って優しく微笑みかける。


「何も案ずる必要はありませんよ。私はアラヒメの御巫としてオオヒメ様の慈しみと愛を示し与えるためにいつもいますから」

「は、はいっ。ありがとうございました、アラヒメ様っ」


 男は満足そうな笑顔を浮かべると小屋を後にして去っていく。



 その足音が完全に遠のいたのが分かった次の瞬間、あたしは脱力するように崩れ落ちた。


「どうして、どうして……っっ」


 不特定多数の男の人に肌を晒すという淫らな行いだけでも嫌悪が爆発しそうなほどだったのに、あの男の人を甘やかすのを最後までやり通せてしまったことにやるせなせが募る。


 それでも止める道なんて選べるはずがなかった。


 だって、これもアラヒメの御巫としての大事なお勤めの一つ。


 そして、アラヒメの御巫としてあり続けることしかあたしにはもう残っていないんだから。

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