アラバスタでの一幕
秘密結社バロックワークスの陰謀渦巻くアラバスタにて、海軍本部大佐"白猟"のスモーカーは偵察任務から帰ってきたウタとたしぎの報告を聞きながら『俺も行ってくる』と書き置きを残し、勝手にいなくなった馬鹿の帰りを待つ。
自由奔放なところは祖父譲りなのだろう・・・いくら言っても聞きやしない馬鹿の手綱を握る術は無いのかと少し前にあの馬鹿の幼馴染であるウタに尋ねた事があるが『食べ物そう例えば肉で釣るしか無いですね』と言われた事を思い出し、スモーカーは深いため息をついた。
情報を整理し次の目的地を定めたところでルフィが戻って来た。
「ただいま〜!」
「ようやく戻って来やがったか。さて」
スモーカーは立ち上がり、海楼石が仕込まれた十手をルフィに突きつける。
「確認だ。お前のマリンコードは?」
このような事をするのにはもちろん理由がある。
海軍本部からの情報によるとバロックワークスのエージェントの中にはMr.2ボン・クレーというマネマネの実の能力者が居るらしい。
右手で対象の顔に触れる事でその相手の姿形だけでなく声や性別等を完全にコピーし変身できる能力だ。
その情報をアラバスタ入国直後に手に入れられたのは幸運だろう。
いくら姿形をマネられても海兵1人1人に割り振られている識別番号であるマリンコードを問えば1発で分かる。
その為、部隊から離れた者には戻って来た時にマリンコードを聞くと決めていた。
偵察任務から帰って来た2人には既にその問いかけ、それぞれ正しい答えが返ってきている為、偽物では無いだろう。
単独行動をしていたルフィに対してスモーカーがこの問いかけをするのは自然な事だった。
そんなスモーカーの問いかけに対し、ルフィは自身のマリンコードをスラスラと淀み無く答えた。
そう、"スラスラ"と"淀み無く"答えたのだ。
「ホワイト・ブロー‼︎」
その瞬間、スモーカーは自身の右腕を煙にして目の前にいるルフィの偽者を捕らえる。
「いきなり何すんだよケムリン!?」
「俺は舐めていたぜ、お前らバロックワークスの事をな!俺の呼び方はともかく、まさかマリンコードまで調べ上げるとは・・・」
ガチャガチャとスモーカーの周りの海兵は偽者のルフィに銃を向け、たしぎは静かに剣を抜き、ウタも身構える。
「いや、だからちゃんと言ったじゃねェかマリンコード!」
偽者の叫びを無視してスモーカーは続ける。
「だが、詰めが甘かったな!あの馬鹿があんなモン覚えられる訳ねェだろうが!!!」
「!?」
その発言をしたスモーカーとその発言に驚いた偽者のルフィ以外のその場に居た者全員が強く頷いた。
「!?」
その様子を見て偽者は更に驚いた。
そしてスモーカー達は本物のルフィはどこだ?と考え始める。
マネマネの実の能力者が避けたい事態は本物との鉢合わせだ。
どれだけ相手を欺き騙しても本物が現れては台無しだ。
良くて拘束からの監禁・・・もしくは・・・あまりの事態に最悪の展開が脳裏をよぎる。そのせいかこの場に居る者達は冷静さを欠き始めていた。
「人を騙し、嘲笑う貴方達を私は許せません!」
たしぎは怒りを滲ませ叫び
「ルフィをどうしたの?もしルフィに何かあったら貴方達の事・・・」
ウタは偽者を殺しかねない勢いで睨みつけ
「あいつはこっちの言う事は聞かねェし、はっきり言って馬鹿だが、悪ィ奴じゃなかった!!」
スモーカーまでこんな事を言い出し
「あいつは良い奴だったんだぞ!大食らいだけど」
「あいつは面白い奴だったんだぞ!寝相めちゃくちゃ悪いけど」
「あいつは・・・あいつは・・・ウタちゃんと仲良くて羨ましかった!!」
周りの海兵も言いたい放題始めた。
「いや、だから俺は本物で!」
「まだ言うか!」
スモーカーは偽者に十手を押し付け、そのまま押し、左手を伸ばす
「あいつはゴム人間だ!だからこうすれば」
そのまま偽者の右頬を掴んで力強く引っ張った。
「伸びるんだよ!!!」
偽者の右頬はビヨ〜ンと伸びた。
「「「・・・・・・?」」」
スモーカーは手を離し、掴み直すと
もう1度引っ張った。
変わらずビヨ〜ンと伸びた。
「「「え〜〜〜〜〜〜っ!!?」」」
「お前ら失敬だな!!ホントお前ら失敬だな!!特にケムリン!」
「・・・スマン」
何故自分が偽者と思われたのか?その事情を理解したルフィからの本人からすれば当然の怒りをぶつけられたスモーカーは謝罪の言葉を口にする。
「すげ〜傷ついたんだからな!全部終わったら絶対肉奢ってもらうからな!腹一杯になるまで!!」
「あ、ああ・・・いい・・・だろう」
ルフィに気圧されとんでもない約束をしてしまったスモーカーだが、ある事を思い出す。
「いや、待てそもそもお前が勝手に居なくなったのが原因」
「よ〜し!次行くぞ〜!」
「おい!待て!」
これは陰謀渦巻くアラバスタを救う英雄が産まれる少し前のお話である。
「あーそういう事か」
「どうかしたんですかウタさん?」
「ルフィがマリンコードを覚えてた理由、分かっちゃった」
「それは何故?」
「それはたしぎさんにも内緒」
「え〜」