アポピス=禁じられた聖杯説
《禁じられた聖杯/Forbidden Chalice》
速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が400アップし、効果は無効化される。
―――――――――――――――――――――――
クズノハ「……む、鷹の小娘が目覚めおったか」
セイア「あれは……恐怖への反転? 色彩の力もなく自分の意思のみで至るのか」
クズノハ「色彩はただそこにあるのみよ。であればそういうこともあるであろうな」
セイア「反転、か。色彩の影響なく反転した場合でも、元に戻ることは不可能なのかい?」
クズノハ「死した事実が変わらぬように、それは不可逆よ」
セイア「まさかシロコ・テラーが訪れた世界の分岐を見ていたらこんなことになるとは……ままならぬものだね。こちらの世界への影響は?」
クズノハ「死の神が動いておるのだ。先生も生きているならば心配することもあるまい」
セイア「ならポップコーン片手に観賞させてもらうとしよう」
クズノハ「妾にも寄越せ。あとコーラもだ」
セイア「なんと図々しい。どこかの焼き鳥大好きを彷彿とさせる」
クズノハ「あやつもまた百花繚乱であるからの」
セイア「答えになっていないんだが……」
セイア「そういえば聞いてもいいかい?」
クズノハ「む?」
セイア「恐怖への反転……テラー化というのは恐ろしいものだとは理解した。となれば必然としてこちらの世界の彼女、小鳥遊ホシノもまたテラー化する可能性があるだろう」
クズノハ「そうさな」
セイア「こちらの彼女はアポピスにより肉体性能が跳ね上がっている。そんな彼女がテラー化したら、想像を絶するような被害を出すだろう。シロコ・テラーでも敵わず世界が滅ぶ結末は避けたいところだ」
クズノハ「其方の懸念は正しい」
セイア「だろう?」
クズノハ「……しかし、それは今のところ考慮せずともよい」
セイア「それはどうしてだい?」
クズノハ「言ったはずだな。砂蛇は『名もなき神々』の遺産である、と。そして『名もなき神々』が敵対しているのは『忘れられた神々』だ」
セイア「言っていたね。故に自然現象に逆流するように、敢えて捻じれ歪んで作られている」
クズノハ「然り。そしてこの『忘れられた神々』とは我々でもある」
セイア「……私たちが?」
クズノハ「『忘れられた神々』の作り上げた世界に存在するものは、いわば神の子である。『忘れられた神々』の力の一端を受け継ぎその身に内包している。神の子もまた神の一部である、ということよ」
セイア「……三位一体か」
クズノハ「トリニティである其方にはそう言った方が伝わりやすかったみたいだの」
セイア「なら反転とは」
クズノハ「我々の中にある『忘れられた神々』の力を引きずり出して表出させる。元に戻らぬというのも、表に出て来た『神』と元の『只人』では、どちらが強いか歴然であるからして」
セイア「……ものすごいことを聞いた気がする」
クズノハ「くふふ」
セイア「話がズレたな。テラー化する心配がない、ということはアポピスはテラー化させたくない、ということかい?」
クズノハ「漫画ではないのだから当然よ。『名もなき神々』は『忘れられた神々』に敗北したが故に『名もなき神々』なのだから。その遺産たる彼の砂蛇からすれば敵であるというのに、反転させてわざわざ強化してやる理屈がどこにある?」
セイア「砂糖により性能は向上しているが、あくまでアポピスの掌の上――蛇に掌とかいうのもどうかと思うが――での強化であり、それ以上は望んでいないからか」
クズノハ「然り。砂糖による砂蛇の精神干渉能力もそうよ。敢えて反転せぬように歯止めをかけている」
セイア「この砂糖の美味しさが?」
クズノハ「人は苦痛には強くとも快楽には弱いからの……あのホルスとなった小鳥遊ホシノを見ていれば分かる」
セイア「彼女は……」
クズノハ「内に閉じこもり、誰にも胸中を晒せず、鬱屈した感情を溜め込み続けてきたのであろうな。自己嫌悪の結果として当然のように限界がきて、自己否定で爆発して反転した」
セイア「辛い状況だね」
クズノハ「翻ってこちらの世界はどうだ? 美味な砂糖による快楽と幸福がある。怒りを保ち続けるのは困難で、反転するほどの激情を維持できるだろうか?」
セイア「……なるほど、そういうことか。それがアポピスの罠」
クズノハ「摂取するだけで幸福があり、肉体的な強化もされる。砂蛇の支配下になるならば、これ以上の力を求めて反転することなどないな」
セイア「ホシノも好き好んで反転している訳ではないと思うが……」
クズノハ「砂蛇にそこまでの機微を求める方が間違っておるわ」
セイア「頭がない、だったね」
クズノハ「『王女』がいればこんな回りくどいことなどせずとも良かっただろうに」
セイア「それはおいておこう。アリスは勇者の道を選んだのだから」
クズノハ「……いかにも。妾としたことが、野暮であったな」
セイア「まとめると、この世界ではアポピスの活動により生徒が反転することはない、ということでいいんだね?」
クズノハ「彼奴の影響下にない者が色彩と接触して反転するのは知らぬがな」
セイア「色彩と接触しない場合、ホシノのように自力でなることもない」
クズノハ「いくら自己否定しようと、己が殻を破ることができるほどの神秘を持つ者はキヴォトスでも少ないであろうな。反転とは生徒という自身を殺すことと大差ないのだから」
セイア「単純な後悔や絶望が深いだけではなく、相応の神秘も必要か」
クズノハ「それらが奇跡的な確率で嚙み合ったのがあのホルスよ」
セイア「嫌な奇跡だ」
クズノハ「だが奇跡であることに変わりはない」
セイア「それがプラスであれマイナスであれ……なら次の奇跡も起こりうる、か」
クズノハ「妾達は傍観者よ。ならば傍観者らしく、安易な奇跡を望んでも罰は当たるまい」
セイア「そうだね」
クズノハ「……話し疲れたのう。コーラお替わり」
セイア「はいはい」