アビリティの使い道
悪い大人の戦闘スタイル俺はヤクザだ。それも鉄砲玉みたいに命を賭ける奴らじゃなく、組長みたいに立場のあるやつでもなく、稼ぎ袋だ。
この長ドスを突き立てた液体は、乾かすと中毒性を持つ粉になる。昔は水を甘くするアビリティだと思ってたが、真実に気がついたのは彼女が壊れてからだった。
さて、今日も今日とて暗い部屋の中。水道水に長ドスを突き立てる日々が続く。
組長から大事にされたせいで、ほとんど監禁状態なんだよな……。毎日のようにこれだけを繰り返し、見張りの若いやつに給金をもらい、そしてそれを彼らに渡して買い物をしてもらう。
使いきれない金も宝の持ち腐れだ。せいぜい美味い飯をデリバリーするぐらいしか使えないからな。
だからこそ、あの日の事は予想外だった。まさかあんな面白い事になるとはな。
その日、俺はちょっと良いカップ麺を啜っているところだった。
この所、裏の世界で新興の組織が幅を効かせてるとかで見張の若い衆も増員中だ。これでトランプに付き合ってくれればありがたいのに。
さて、食べ終えたカップ麺に入れる米を探しに立ち上がった時だった。俺のいる事務所の屋根が砕け散った。
襲撃かな、と思って顔を上げる。いやここは頭を庇えよだって?知らん。
目の前には一人の変身ヒーローが立っていた。
『お邪魔するぜー』「恨みはないけど、父さんのためだ。ここで死ぬか付いてくるか選んでくれ」
目の前の二人ぼっちは静かに言った。なるほど、年貢の納め時ってやつじゃんの。
「おいおいおいおい、初対面の相手に酷いな。取り敢えず答えは決まってるから」
俺が答えるのと同時くらいに見張りが駆け込んできた。これで六対……一?二?とにかくこちらが多数だ。
「どっちも断る。お前が正義でも悪でと碌な事にならなそうだ」
その言葉と同時に後ろの見張りたちの持つ銃が火を吹いた。俺も懐から銃を出して弾幕に協力する。
『交渉決裂だな!んじゃグッドバイ!』「銃で死ぬヒーローはいない、常識だ」
なるほど、確かにその外殻は硬質なようだ。小便弾を弾くとはまあ強いこと。そして相手は身を屈め……そして一瞬で戦闘は終わった。
背後の見張り達は全員顔から血を吹き出してぶっ倒れ、手に持っていた銃は全部相手の手の中にあった。
『よーしよしよし、殺してない。多分』「あなたは父親にとって利用価値があるらしい。だから無傷で連行する」
こちらに手を伸ばす相手に、俺はポケットからもう一つの拳銃を取り出した。これだからこの仕事はやめられない。本当のピンチを味わえるからな。
「待て、俺のイグナイトはこの拳銃。なんと当たった対象を操れるものだ。これを自分に撃ち込んだらどうなると思う?」
「まさか……!」『おいあいつ止めろ!』
目の前の敵が狼狽える隙に俺は自分の頭に銃を撃つ。ぱあんと音がして、俺は即座に行動に移った。
俺の利用価値があるなら相手は俺を守る。そうでなくとも相手のアビリティ発動を許すわけはない。ならば発射前に俺の手が掴まれてあらぬ方向は撃つのも予想通りだ。そして何より重要なのは相手が守れたことに気を抜いて、しかも目の前にいる事。
「くらいな、ガキ。これが大人のやり方さ」
俺はやつの体に左手でイグナイトの長ドスを突き立てた。
「えっ……」『あ、こりゃやべえ』
さっきからちょくちょく形を変えてたからその装甲の本質は液体と見ていたが正解だったらしい。いきなり全身が麻薬になるのはさぞびっくりだろう。何よりそこまで変質してはおそらく装甲を維持できまい。
目の前で敵の装甲が形を失った。
「じゃあ悪いな。俺は急いでるんだ」
そして俺は全速力で身を翻して駆け出した。復活すれば勝ち目はない。ならば三十何計逃げるが勝ちだ。
「あっ…待て!」『無理だろ、お前じゃ追いつけないし』「お前も頑張れよ!」
言い争う二人の声を尻目に俺はその場からまんまと逃走を果たした。
今回の事で得られた教訓は多いだろう。
この世界でアビリティは価値だ。でもその使い方次第でもっと違う価値を得る事もある。
「うんうん……至言だな」
今日も俺は暗い部屋でドスを振るっている。また襲撃の来る日を夢見……。
「警察だ!全員両手を地面につけろ!」
俺は笑いながら戸口に手をかけた。
「さあて、頑張って生き残りますか」