アステリの独白みたいなやつ

  アステリの独白みたいなやつ


 一度目の生に於いて焼きついているのは白髪と燃える様な眼差しそして紅雷。死闘を演じその果てに討たれた。


 しかし、運命の悪戯か迷宮の奇跡か二度目の生を授かる。モンスターとしての力、ヒトと同等の知性と理性、新たなる力を得て今度こそ我が道を往かんと誓う。全ては脳裏に焼きついた憧憬を倒すために、迷宮の深層に於いてただただ鍛錬を重ねる日々。

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 ある時、魔術師の願いに応じ地上に出る。強者達と死闘に興じ、片腕を根本から切り落とされると言う重傷を負い、そして、再び合間見えた猪人の師に誘われ、たどり着いた先でそれを見た。

 

 脳裏に焼きついた姿とは大きくかけ離れた好敵手の姿。自らの1度目の死より、それ程に経っていない筈。それなのに好敵手は大きく変わっていた。


 背は記憶より大分伸び、髪は背にかかる程に長く、何より確かな胸の膨らみが見て取れる。臭いも雄では無く雌のそれに近い。

 その眼差しはまごう事なき己が仇敵にして憧憬、しかしどう見ても雄では無く雌に変化している眼前の相手。



 一瞬、困惑に包まれる。

 だが、そんな事はどうでもいい。


 一度死し、何の因果か再び生を受け好敵手と戦える歓喜、あの紅い雷光への憧憬、雄としての興奮、様々な感情が渦巻く。その全てをぶつける為に


「ベル、どうか再戦を」


 そう口走り、飛びかかる。此度こそは勝利をこの手に。


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 一度目の決闘は自らの死で幕を閉じた。2度目はお互い満身創痍の末辛くも上回った。一勝一敗、つまりは借りを返したに過ぎない。ならば次だ。次こそは完全なる勝利を。来るその時の為、二度の戦いの激情と、日々強まる雄としての興奮を糧とし鍛え上げる。 今生での、最後の好敵手との戦いに備え、更なる高みを目指すべく深層にてただひたすらに戦い続ける。


 ーーー 幾ばくかの時が流れ再び出会った時、纏う気配がかわっていた。

 同胞に曰く、地上にて最も強大な存在を倒したらしい。嗚呼確かにかつてとは比べ物にならない程に強くなっている。それでこそ我が好敵手。


 だが同時に、かつての面影は髪色と瞳に残るのみ。背も髪も大きく伸び、身体は雌の特徴を嫌と言うほど強調し欲情を誘う。臭いも気配も完全に雌そのもの。


 己の中の魔物が叫ぶ。眼前の仇敵を撃てと。己の雄が怒張する。眼前の雌を征服せよと。

 殺し合いたい、愛したい、犯したい、喰らい尽くしたい、喰われてしまいたい。相反する思いが頭の中で巡る。己の中の魔が、雄が、本能が、何より戦士が暴れ出す。


「ベル、どうか決着を」


 気がつけば口走る。

 今度こそ完全なる勝利を掴む為、或いは互いの命尽きるまで戦い抜く為、或いは雄として雌を屈服させる為。


           決闘が、始まる


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