アクシデントも蜜の味
こたつの中は天国だ。共有スペースにいくつか鎮座しているそのうちの一つに身を委ねて、エフフォーリアはもたもたとぎこちない手つきで蜜柑の皮を剥いていた。
「エフフォーリアくん、失礼していいかな?」
「ジャックか、好きにしてくれ」
「じゃあお言葉に甘えて」
ジャックドールはエフフォーリアに向かい合うように座ると、自動販売機から買ってきたらしいミルクティーのペットボトルを置いたあと、リュックからチョコレートを取り出して口に運んだ。どちらもその辺で買えるような値段のはずなのに、ジャックドールが持っているだけで価格が一桁跳ね上がるように見える。
その間もエフフォーリアは蜜柑の皮を剥いては口に運び、三個目に突入しようとしたその時だった。
「……あ」
皮を剥こうとして、勢い余って果実の方まで指を突き入れてしまった。エフフォーリアのこぼれた声よりも勢いよく果汁が弾け飛ぶ。
「……っぶ!」
「す、済まないジャック、目に入っていないか?」
ティッシュを慌てて差し出すと、ジャックドールは問題ないとでも言いたげに首を振る。ティッシュで顔をさっと拭い、スマートに微笑む。
「ボクは大丈夫だよ、エフフォーリアくんこそ蜜柑はいいのかい?」
「あ、あぁ……」
「皮を剥くのは苦手?」
「あまり器用じゃないんだ……」
「代わりにボクが剥いてあげようか?」
「い、いや、お前が食べないのにお前の手を煩わせる訳には」
「じゃあ半分分けてくれたら、それで充分だよ、キミがあんまりにも美味しそうに食べるから食べてみたいんだ」
ジャックドールの微笑みに、これ以上断る理由も思いつかず、穴を開けてしまった蜜柑を手渡す。
ジャックドールの剥いた蜜柑の皮は、花びらのように綺麗だった。