アクア目線
星野アクアは目を覚ます。
隣室での叫び声を聞いて。
「ター…また悪夢を見たんだな…」
ターは俺やルビーのような転生者じゃない。普通に生まれ、過去のしがらみなど無い、普通の少女だ。
ター…星野汰愛恋津は僕達星野アイから生まれた三つ子の末っ子。大事な妹の1人。
あの子は俺たちと違って精神年齢が老成しているわけでも無い、等身大の子どもだ。
そんな少女が僅か4才で徐々に温もりと鼓動が消える母の姿を間近で見たらどうなるか?
毎週どこかで悪夢を見て錯乱する。
彼女が言うには大切な家族が状況を変えて命を落とすそうだ。
…俺でも辛いのに毎週見せられる妹はどうなのだろうか。
「精神安定剤は…いや、身体のこと考えてバナナとホットミルクか?
ター、お兄ちゃんだ。入るぞ?」
妹を思いながら部屋に入る。そこには先客がいた。
「ター…大丈夫。私が…お姉ちゃんが側にいるから、安心して?ターは女優さんでママとの約束を必死に果たして偉い偉い…」
「姉貴…姉貴…僕が…僕がお母さんを…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「ターは何も悪くない。もし私がママの代わりにターが危なかったら私もママと同じことをするから。貴女は何も悪くないよ…さ、ミヤコさんが迎えに来るまで寝てなさい…良い子良い子…可愛い私のターコイズ…大好きよ…」
「ありがとう…だいすき…ルビーおねえちゃん…」
泣き叫ぶターコイズを優しく宥めて寝かせたのはルビーだった。
ルビーは慈愛に満ちた表情でターを抱きしめている。
…いつの日かの母(アイ)を思いださせる。
ルビーは扉口に立つ俺にようやく気づいたのか困ったように笑いながらターの頭を撫でる。
「お兄ちゃん起きちゃった?私1人で大丈夫だよ
ターも寝たし、私も久しぶりにこの子と寝ようかな〜て。」
「みたいだな…ルビー、ありがとう。ターは俺よりおまえには弱さや不安を出せるみたいだからな…かなり助かった」
そんなことないよーと微笑みながらターを撫でるルビー。
ターコイズは俺を嫌ってはいないと思うが弱さを見せようとしない。むしろ兄貴呼びだが無駄にくっつきに来たり勉強を聞きに来たりするぐらいは気安い仲だと思う。
同性だからだろうか?
「ターは明日になれば明るいいつものターになってるだろうし、お兄ちゃんもおやすみ」
「…ああ、おやすみ」
ルビーが言う「いつもの明るいターコイズ」
それは偽りだ。
ターはアイを目の前で喪い死の原因が自分だと強く思い込んでいる。
そのせいでターは兄として贔屓目に見ても成績優秀で容姿もアイによく似ているのに
自罰的が過ぎて自己肯定感が限りなく低く
破滅願望が見られ、「何時死んでも良いように全力で物事に取り組む」
そんな状態だ。全力を出す以上は自分を奮い立たせるために「明るい末っ子」を演じている。
本当は自分に自信を持てず、ずっと俺たち家族や亡くなったアイに対して罪悪感を持ち続けながら涙を見せずに泣き続けている。
そんな少女だ。
「ター…お兄ちゃんが必ずおまえを本当に笑顔にして見せる。
そのためにもアイを死なせ、おまえの心を壊したやつを…俺たちの父親を地獄に落としてやるからな。」
妹達の幸せが俺の幸せ。もうターが泣かなくて良いように、アイとの優しい思い出だけが蘇るように。
俺は「復讐」の二文字を胸に刻む。