アイビーのように絡みついて
「やったなタップ!」
「ありがとうエース!アンタが一緒にトレーニングしてくれたおかげだよ!!」
あたしに憧れてその身一つでアメリカから来たウマ娘、タップダンスシチー。
ある日、タップのトレーナーが彼女に会ってほしいとお願いしてきて、気付いたらジャパンカップが開催する今日まで彼女のトレーニングに付き合っていた。
そのトレーニングの結果、タップはシンボリクリスエスを含めた強力なウマ娘達相手に、大逃げで9バ身差という圧倒的な大差勝ちを収めた。
この日はあたしのトレーナーさんと一緒に応援しに来ていて、ウイニングライブが終わった後、タップと彼女のトレーナーと合流し、彼女らの勝利を讃えた。
「URA史上最大着差記録ですって!まさか生きている間にこんな大記録が達成される瞬間を見れるとは思いませんでしたよ!」
「タップが優勝出来たのは一重にカツラギエースと、彼女のトレーナーさんである貴方の協力があったからです、本当に、ありがとうございます…」
「俺はエースがしたい事をやらせただけですから、それに、前々から貴方の逃げ戦法理論は気になっていたんです、よければ今度お話を聞かせていただけませんか?」
「僕もカツラギエースの逃げについてお話をしたいと思っていたんです!是非お願いします!」
……なんか向こうは向こうで気が合うようだな。
「なあエース!アンタもアタシの仲間になれよ!」
「仲間?」
「アタシの夢はレースで稼ぎまくって、仲間とずっと一緒に遊んで暮らせる場所を作ることなんだ!その仲間の中にエースがいれば、サイッコーにamazingな生活になるに違いない!な!いいだろ!?」
「いやぁ、あたしは……」
タップの誘いを断ろうとしたけど、言う前に急に肩を掴まれ、あたしが大好きな匂いのする方へ引き寄せられた。
「申し訳ないけど、エースは俺のモノだから、横取りしないでくれないかな」
「…………え!?」
あたしを抱き寄せて、あたしのトレーナーさんはとんでもない事を言い放った。
あたしはと言うと、トレーナーさんの今まで見たことのない程真剣な顔を、口を開きっぱなしにしながら見上げている。
タップはと言うと、あたし達を見ながら「ヒュウッ!」と短い口笛を吹いた。
「Sorry!先約があったとは知らなかったんだ!そう言うことならエースの事は諦めるよ!それじゃあトレーナー!アタシ達の城に帰って、有馬に向けて作戦会議しようぜ!」
「え?タップどうし…ぐえっ!!」
タップは彼女のトレーナーのネクタイを掴んで、引っ張って行きながら帰ってしまった。
その場に残されたあたし達は、お互い何も言わないまま立ち尽くしている。
「………………」
「……トレーナーさん……」
「……ごめん…彼女押しが強いから…エースを取られると思って、つい口走って君を俺のモノ扱いしちゃった……」
再びトレーナーさんを見上げると、トレーナーさんは空いている方の手で耳まで真っ赤になった顔を覆っていた。
「いや……あたしは断るつもりだったんだけど……それに嫌じゃなかったし……」
むしろ何故か嬉しく思ってる。
トレーナーさんのあの言葉を聞いてから、内側から聞こえる心臓の音が煩くて、振動が凄い。
「………っあ、ごめんエース!ずっと抱き付かせてた!むさ苦しかったよな!」
トレーナーさんはあたしの肩から手を離すと、距離を取ろうとした。
けど今度はあたしからトレーナーさんの腕にあたしの腕を絡ませて、また距離を縮めさせる。
「あ、あの、エース…?」
「寒いからよ、このままくっ付いて帰ろうぜ!」
まだ何か言いたそうなトレーナーさんだけど、あたしが離れないと察したのか、「じゃあ途中のラーメン屋さんに寄って行くか」と言って、あたしを振り払わないで歩き出す。
あたしは、トレーナーさんよりも少し遅く歩いた。
もっとこの時間が長く続くように願いながら、腕に力を込めて。
「………しかし、タップが仲間に勧誘するのを諦めるなんて珍しいな」
「流石にアタシでも恋する乙女の邪魔は出来ないからね」
「恋する乙女?もしかしてカツラギエースがか?」
「Bad!エースの顔を見てないのかい!?ありゃあどう見てもそうだろうよ!」
「ええ…そうだったかな…」
「………トレーナー、女にモテたことないだろ」
「!?」
終わり