わやわやソウルソサエティ

わやわやソウルソサエティ


「随分けったいな霊圧放ってるやないの、坊」

朽木倭玄がその気配に気づいたのは、必然ともいうべき事象であった。

未だ大戦争の傷が癒えぬ尸魂界。郊外も郊外だったとはいえ一瞬膨大な霊圧が膨れ上がったことを確認し、これは下手な者の手に負える相手ではないと判断した疒王は、他の者に手出し無用の伝令を投げた上で自ら急行した。

「なんややりたい事でもあるんか?話してくれたらワイがお手伝いできるかもしれんなァ」

音もなく、病魔を広げていく。目の前にいる男はあの姫君ほどの悪辣さはないが、依然としてユーハバッハに匹敵しうる脅威であるということは事実である。仮に何か企んでいるのだとすれば、ヨーイドンで殴り合うようなことは絶対に避けたい。

突如飛んできた純白にしばしぽかんと口を開けていた青年は、あり得ないほどの気安さで返事を寄越した。


「ああ、はい。爆炎五指って名前にするべく新しい鬼道を開発中なんです。宜しければ助言をお願いできますか?」

「────何を、言うてんねや?」

かつて滅却師の悪夢とまで呼ばれた病魔の王には、目の前の滅却師が言った言葉の意味が本当によくわからなかった。


「……正確に事情を把握してもらうためにはまず少しだけ僕の生い立ちについて語る必要があるんですが、いいでしょうか。少し長くなるんですが」

知っとるわ。……などとは言わずに、倭玄は小さく首肯する。

「ありがとうございます。……ええっと、まず僕は親との仲が割と最悪でして。父は……その、大きな夢があったんですが、僕個人としては、やり方がちょっと」

「ほーん。ま、よくある話やない?」

「その父がずっと寝てたり忙しかったりなもので部下に養育されていたんですが、その人たちとも………その、なんというか、折り合いが悪く」

こっちについてはそれなりに初耳であった。が、実の子供がいるにも関わらず拾ってきた子供を後継者へと据えていた時点で、まぁ予測がつかないというわけではない。倭玄は、静かに頷いて続きを促す。

「それで困っていた時に助けてくれた人がいて、僕としてはこの人こそ自分の魂の父親であるとすら思っているのですが…その人から受けた恩を、僕は全然返せている気がしない」

「……ええ心がけやね」

「なので恩返しになるかはわかりませんが、せめてあのすごくかっこいい技名だけでも歴史に残せないかと。炎熱系全体の宿命として山本元柳斎重國を超えるのは困難であると理解していますが、鬼道において最高点ならば可能なのではないかと思ったので。ひとまず犠牲なしで一刀火葬を超えるのが目的です」

「急に話がかっ飛んだなァ」

二度目の「何を言うてんねや」が出てきそうなところをすんでで抑え、倭玄は曖昧な笑みを浮かべる。ひとまず侵略の意思などがあるわけではないことがわかったのは収穫だが、今度は何やら面倒なことに巻き込まれそうな気配がしてきた。

「とはいえ僕の鬼道は独学ですので、専門家の方に助言をいただけるのであれば非常に助かるというか。……いや、あなたの専門は縛道の方でしたか?朽木倭玄さん」

「なんや、知ってたんか。えーと、ヨルダやっけ、名前。」

「はい。うちの実家あたりじゃ、子供が言うことを聞かない時には「疒王が来るよ!」って脅すらしいですよ。そちらこそ、ご存知で」

「はは。敵の親玉の息子の名前、知らんわけないやろ」


・ ・ ・


「いやいや待て待てちょっと待て」

「なんだバルバさん、まだ話の途中だぞ」

「こういうところで冗談言うやつじゃないのはわかってるが、話の意味がわからない。なんであの朽木倭玄相手に人生相談始めてるんだ」

「敵対する理由がなかったし、話してくれれば手助けすると言われたからな」

「おばか!」

流魂街の一角、喧騒溢れる飲食店の一角に隠れるようにして、バルバロッサとヨルダは向き合っていた。

「そう毛嫌いするものでもないだろう。確かに倭玄先生は帝国じゃ悪夢とまで呼ばれてはいるが、話してみれば意外となんとかなったぞ」

「倭玄先生!??!?」

「大声上げんじゃねえよバカが」

リルトットに横合いから頭を叩かれ、バルバが「あいたっ」と頭を撫でさする。

「飯ぐらい静かに食わせろ。……表向きまだ敵対勢力の一味なんだぞ、滅却師(おれたち)」

「……はい。で、そこから何がどうなったら護廷十三隊に入るなんて話に?」

「いや、なんかやっぱり部外者にそういうの教示するのは問題になると言われてな。ちょうど最近やりたいことも見つかってその方法を模索してたところだから、できることならやってみようかと。身分についても隊長格以外には偽装してひとまず先生の弟子って形で所属することでなんとかしてくれたし」

ブレーキとかないタイプの人かな?何考えてんの?…そんな言葉がバルバの頭によぎる。

だがしかし、ここで機嫌を損ねられて話を打ち切られてしまっては非常に困る。そう割り切り、バルバは努めてフレンドリーに話を続けた。


「……それで?知り合いとかはできたのか」

「まだそれほどでは。えーとまず平子隊長と兄君、あとお子さん方には本当にお世話になってるし、特にご子息なんて本当にいい人で色々助けられたから良ければ友達にカウントしたいな。火糊は炎熱愛好会の同士だけど微妙に趣味が食い違ってる気がするからどうなんだろう。何方かと言えばスピード仲間の三椏さんの方が仲の良さでいえばそれらしいか。矢胴丸さん……の見せてくれた本はちょっとよくわからなかったけど、まぁ好みは人それぞれだからな。隊長で言えば六車隊長あたりは結構気にかけてくれて嬉しいな。ステゴロ戦法同士ちょっと親近感が湧くし。副隊長の檜佐木さんにもちょくちょく奢る代わりに美味しいご飯屋さんを教えてもらうんだ。ここも教えてもらった。弓親さんもこの間彼女に贈るんだって言ったらプレゼント選び手伝ってくれたし、伊勢副隊長も鬼道特化繋がり…いや僕の場合はまだ見習い期間だから刀貰えてないだけなんだがとりあえず気にかけてくれるし。流石に全部独学のままだとまずいから今真央霊術院にも顔出して色々教示頂いてるからそこの先生方とも多少知り合いにはなったな。ある程度把握していると思っていた事でも、もう一度学び直すと新たな発見があったりして面白いな。死神視点での歴史の授業というのも興味深い。卯ノ花隊長には回道のご指導をいただいているし、娘の伊喜さんも初対面で急になんかしようとしてきたからびっくりして打ち消したら泣きながら斬りかかってきたからそのままチャンバラしたのが縁で今は早撃ち対決からの剣術稽古がルーティンになってるからまぁ友達でいいか。刃鳴さんも勇音さんも花太郎くんも本当に親切にしてくれてありがたいよ。なぜか斬術の指導もしてくれるし、四番隊には本当にお世話になってるな。いや、お世話になっているといえば砕蜂隊長と旦那さんにも色々教えてもらってるから二番隊もか……それと最近、朽木隊長のご子息と知り合う機会があってね、色々あって隊長からは切磋琢磨し合う新世代としてよろしくやって欲しいと頼まれたよ。光栄な限りだね。そうだ、今かけてるこの身分偽装用の眼鏡を作ってくれたのは浦原さんなんだがその縁でもと鬼道長の握菱さんを紹介していただいてね。さらにその縁で現鬼道長の美麗嶋先生をご紹介いただいたのでちょくちょく見てもらっている。ああ、それとこの間志波さんのお宅にお邪魔したら銀城が……」

「待って♡」

「なんだバルバさん、さっきから話の腰を折りすぎじゃないか?」

叫びそうになったところでこちらを睨みつけてきたリルトットにペコペコと頭を下げながら、バルバが小声で尋ねる。

「あの、あの、ヨルダさん??入隊してからどれぐらい時間経ってましたっけ?」

「五ヶ月だな」

「……いなくなったのは半年前だったはずでは」

「ああ、一ヶ月は謝罪行脚に回していたんだ。方々を回って「この度は不肖の父が多大なご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません。僕の謝罪では意味はないかもしれませんし受け入れられなかったとしても仕方のない事ではありますが、ケジメとしてまず頭だけでも下げさせていただければ幸いです。これからは三界の平和のため邁進していく所存でございますので、若輩ゆえご迷惑をおかけすることはあると思いますがどうぞ都度ご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いします」と頭を下げていた」

「…………はい?」

「虚圏に行くのは大変だったな。相当やらかしたみたいだったし、伝があるわけでもなかったから大変で……偶然瀞霊廷に遊びに来てたロゼがスタークさんとリリネットさんと一緒に仲介役を引き受けてくれなければ入れもしないところだった。いや、結局虚圏に入ったあたりでみんな揃って道に迷ったからあれなんだが……黒崎があらかじめアダムさんやネリエルさんに声をかけてくれていなければ、虚圏の偉い人たちに会い終わる前に遭難死してたかもしれない。ああ、ヴァニタスと友達になったのはこの辺りだったな。」

「大変だったらしいな。疲れすぎて悪夢見たんだろ?」リルトットが三杯目のラーメンを飲み干し、からかうように手を振る。「なんだっけか、めちゃくちゃ強いバズビーがユーハバッハ相手になんかよくわかんないけどすげー技ぶつけてたんだっけ?」

「それは違う時。虚圏で見たのはハッシュヴァルトが寝っ転がってポテチ食べてる夢だよ。苦痛と恐怖でちょっと泣いた」

あの人も勝手に夢に見られて勝手に泣かれれば流石に悲しかろう、とバルバは思ったが、あえてその辺の話を広げて地雷を踏みたくないので指摘は避ける。

「それはまた大変だったな」

「ああ、零番隊の人達に会った時より怖かった」

「───なんて?」

「ある意味今回一番迷惑を被った人たちだろう?倭玄先生が真名呼和尚と親しいと聞いたから、ダメ元で聞いてもらったらOKが出たんだ。……いやまぁ、確かに圧みたいなものはすごかったが……………まぁ……ちょっと話をしたら「またいずれ来ることもあるかもしれんな」って帰してくれた」

厄ネタに厄ネタを重ねるんじゃない。

そんなバルバの抗議の目線を見たヨルダが、弁解するように「そう大層なことじゃない」と両手を振る。

「最近の零番隊はメノスを倒したいってだけの理由で入ってきた人がいたりして、結構風通しのいい組織らしいんだ。帰りに一緒になった人なんて斬魄刀の婚活に来たって言ってたし」

斬魄刀の婚活というパワーワードに多少興味を惹かれたバルバだったが、実の所リルトットとのデートの時間を割いて話をしてもらっている以上これ以上の無駄話は避けねば後が怖い。バルバは、気になっていたところをさっさと聞いて切り上げることにした。


「顔、広いな…………ちょっと前に突然ナナナが帰ってきたことにも関わってたり?」

「ああ、涅隊長と交渉したんだ。見た目がものすごいから危ない人なのかと思っていたが、やっぱり話し合いは大事だな。僕が定期的にサンプルとデータの提供協力を約束しただけで他の滅却師を開放してくれた。石田が真顔で止めていたから大丈夫かなと心配してたんだが、待ち時間に八號ちゃんとお話したりして存外快適に過ごせている。護廷十三隊は暖かいところだな」

「そっかー。…そっかー……」

バルバは絶望した。必ずかの邪智暴虐の王子をふんじばって連れて帰ろうと決意していたのに、ふんじばって連れて帰ると新たな大戦争が始まってしまうかもしれないからである。バルバは政治は結構わかる。しかしながら、バルバはただの一般滅却師である。腕を磨き、バンビとラブラブ新婚生活を送ることを夢見て暮らしてきた。けれどもなぜだか最近「お前が次の王になれば?」という圧がとっても激しいのである。

嫌に決まっている。

そんな状況で突如起こったのが、次期皇帝論争の話題の種の一角たるヨルダ・クリスマスの失踪事件だった。自室に「お世話になりました」という書き置きを残し消えた彼の行動が桶屋を儲けさせ、なんやかんやで現筆頭候補となってしまったバルバの最後の希望が、今粉々に砕け散りつつあった。


「……戻ってくる気は?」

「戻って何をするというんだ。僕なんてただの名ばかり息子で、責任ある立場なんて任せられた試しがない。支持だって姫……いや、もういいか。ラエンネックや、果ては君にも負ける始末だろうに。年功序列的に考えても、後継として一番ありえないのが僕だろう?」

「そう言わずになんとか戻ってきてくれ。頼む。急にいなくなってバズビーだって悲しんでるんだぞ?なんというか目にハイライトがないし、あの妙な髪型もなんだか萎れて…」

「あの髪型に「かっこいい」と「イカしてる」以外の形容詞を使うな殺すぞ」

「姫様相手にも見せてなかったガチギレをここで!?」

急激にラスボスオーラを放ち出したヨルダにガチ目のビビリとドン引きを感じながら、バルバは「本当に申し訳ございませんでした以後気をつけさせていただきます」と謝罪を口にした。

「しかし妙だな、僕は置き手紙こそなんかいろんな感情が溢れてきて結局一言で済ませたし顔見たら決心が鈍りそうだから合わせなかったが、事情はちゃんと説明してくれるように頼んだはずなんだが。………フレイル?」

言いながら振り返るヨルダの背後で、今までずっと黙って立っていたエルジェイド・フレイルがようやく口を開いた。

「ちゃんとお伝えいたしましたとも。「ヨルダ様は今までの経験上どうしても受け付けない方を受け入れて暮らすことに苦痛を感じておいでのようでした」と。一言一句事実であると存じ上げますが」

「…僕の目的の方は?」

「エルジェイド・フレイルは初めてお会いした時からずっとヨルダ様の味方にございますが、長年ヨルダ様を虐げてきたクソッタレハッシュドポテト野郎やクソボケ色ボケ上から目線女狐やそれらとヨルダ様を天秤にかけてグラグラしてる馬鹿野郎の味方になった覚えはございません。主君の足りぬ部分を補うべく、ヨルダ様が許した分の倍以上許さないでいることにしています」

「………………頼むよ、エル」

「………し、仕方がございませんねー!とーっても大事な!幼馴染の!ヨルダくんの頼みですから!!!改めてご報告、行ってまいりま〜〜す!!!」


眉を下げたヨルダの言葉に急に機嫌を直したように、流魂街に不釣り合いな使用人服を着た女性が駆け出していく。

「………タラシが。後が怖いぞありゃ」

「ごめん、リルトット」

「今更別に気にしねぇよ。帝国の幼馴染属性はどいつもこいつも拗れすぎだとは思うが」

お前もな、と見つめてくるリルトットに、バルバは首を傾げる。はて、キャンディスなんかは全然そんなことないと思うが。

「人なんて出会って別れるもんなんだよ。あいつも千歳児どもも、別離に弱すぎだ」

「…千年帝国の弊害というやつだろう。その帝王が生死の境なき停滞を望んでいたように、国の流れもずっと止まっていたんだ。良いものも悪いものも、ずっとそのまま続く……ただ千年後の決着に向かうだけの閉じた世界」ヨルダの細まった目に一瞬の翳りが浮かんで、消える。「だからこそ僕は君こそが適任であると思っているんだよ、バルバ。あのバンビエッタを変えられた君なら、きっと僕がやるよりも上手くやれるだろう。第一、ユーハバッハの息子なんて肩書きに心惹かれるのはユーハバッハ政権の流れを継続してもらいたい者だけだからね。僕はその流れ自体壊したいと思っているから、上手くやれるとは思わない」

だから!皇帝になりたいとか!言ったことないよな!?!??!

叫び出したくてたまらないバルバだったが、目の前の澄んだ目からはここで何を言っても無駄な気がすることが読み取れたので「息子様公認!」とかいう肩書きを賜ってしまう前に慌てて話題を変えた。

「…さっきから気になってたんだが、目的って?」

「……僕は自分の手の届く範囲が幸せであればいいと思って生きてきたんだが……どうやら、僕の手は世界丸ごと届くほど大きくなりうるらしいから」

ヨルダがふふ、と笑って、こともなげに語る。

「滅却師と死神で協調路線を取りたい。可能ならば虚圏の破面達や、現世の完現術者なんかも組み込んで、意見共有や技術交換が自由にできるようになればいいと思っている。先の大戦で破面、死神、果ては滅却師までもが協力して陛下に対抗しようとしていたのを見て、きっとできると思った。石田と話していた時、あいつのお祖父さんの話が出てね。その思想に共鳴したのもあるかな」

バルバは思った。思ったよりでかい話が来たな。パパから独立して頑張るんだ!とかだったらお父さん心配してるからやめなさいとかなんとか説き伏せて帰ってもらう予定だったのに、なんだかどんどん帰ってこいと言いづらい雰囲気になっている気がする。

「陛下も、藍染惣右介も。世界をより良くしたいという意思から行動したのは間違いないことだ。方法が暴力だった事はいけない事だが、そこは忘れてはいけないと思う。世界を変えたいと思う者がいるとき、暴力ではなく話し合いでそれを試みることができるようになるのが最終目標かな。ひとまず、この話をした時リルトットに言われた「滅却師が大手を振って流魂街で街ブラグルメデートできる社会」から目標に頑張ろうと思う」

「ア、ハイ」

「僕が死神としての才能を持って生まれたのがどうしてか、ずっと考え続けていたんだ。こうやって、まず自分から飛び込んで仲間を見つけるためだったのなら───僕は、嬉しい。正直なところ現状の世界も最善とは言えないと思うが、いつか和尚も藍染もみんなも……陛下も納得する方法で、世界を繋げたい」

やばいやばいやばいどうするんだこれ本格的に逃げ場がないぞ───バルバの脳に高速であらゆる考えがよぎる。

ヨルダはもうダメだ。ならばなんとかしてリリー・ラエンネックを担ぎ上げるしかない。そのためにはまず現在ヨルダ失踪事件により多大なダメージを受けている千歳児三人組の機嫌を取るしかない。

「……わかった。がんばれ。ところで王になれとか絶対言わないから一回顔見せにだけ帰ってこられないか?」

「すまない。今はとにかく皆との信頼関係構築に努めようと思っていて……直弟子という形で隊所属無しの見習いにねじ込んでくれた倭玄先生の顔に泥を塗るわけにもいかないし、予定が詰まりすぎていて半年は帰れないと思う。非常に心苦しいが」

「マジでなんなんだその交友関係」

バルバは絶望した(二度目)。


───その時、救世主は舞い降りる。

「仕方ないなぁ。来週、バズビーも呼んでいいよ。その時間使って話せばいいでしょ」

「グレミィ…いいのか?せっかく久々に二人でゆっくり遊ぼうって話だったのに」

「……今回彼女(リルトット)の時間を使わせちゃったからね。友達のぼくも多少は負担しなきゃ。どうせ一緒に住んでるんだから時間なんていくらでもあるし」

ぬるりと店のドアをくぐり現れたのは、グレミィ・トゥミュー。ヨルダと同時期に帝国から姿を消していた、彼の第一の部下とも言える存在であった。やっぱりここにいたのかという顔をするバルバの心を読むかのように、グレミィは「ぼく、ヨルダの親衛隊やってるってだけで外出してもらえてたからね。幽閉生活なんて二度とごめんだよ」と空いていた最後の椅子に腰掛ける。


「そろそろ……なんだっけ?なんかの約束の時間でしょ?忘れないように伝えてほしいって言われてたから来たけど」

「果たし合い。阿多真さん相手で遅れるのは本当にまずいんだ。最悪泣かれる。ありがとう」

「え、あいつ?……あの常に想像を超える微妙さのおにぎりには逆に興味が湧いてきたけど、またあれ食べさせられるのかぁ…」

「いや、しかし、貰い物に文句を言うのはな…」

「お?俺が食べに行ってやろうか?」

「いやリルトットがそのまま出てって死神に会うのは……いけるか!阿多真さんだしな!」


わやわやと仲間同士で話が進んでいき、最後に取り残されたバルバへ「じゃあ、そろそろ失礼。お代は払っておくからゆっくりどうぞ。そういうわけなのでバズによろしく」と声が投げかけられる。

そのまま、騒がしく去っていく三人。後に残されたのは───

「……首の皮一枚は繋がった……と、思いたい……」

真っ白に燃え尽きた抜け殻であった。


Report Page