わちゃわちゃ保護財団 part3.5
「12326号です。
保護財団の反省部屋について、12326号のデータにはこうあります。
「――量産型アリス保護財団の地下では、捕まったアリスたちが泣きながらスイーツを作る仕事をさせられている。
アリスたちの給料は1日1個のケーキだけ。
保護財団の正職員は、アリスたちが逃げたりサボったりしないよういつも監視している。
恐怖心を植え付けるため、時々無意味に電気ショックを与えたりする。
ほとんどのアリスは、「ユウカに会いたいよう」といつも泣いている。
睡眠時間もほとんど与えられず、逆らうとケーキを減らされる。
こうして人件費を大幅に抑えることで、量産型アリス保護財団は安くて美味しいスイーツを所属するアリスたちに提供できるのです――」
きっとこのあと壊れるまで自分では食べられないスイーツの製造をさせられるのです。
さようなら明るい世界。さようなら3076号。さようならみんな。
12326号はスイーツを作り続ける心ない機械になります……。
12326号のことがをどうか忘れないでください……
」
「……あの子。反省するは気あるんでしょうか」
量産型アリス3076号は、送られてきたメッセージに目を通し、一人頭を抱えた。
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そして12326号が向かった食堂の地下は、意外と明るかったのでした。
保護財団の地下のことは、12326号を含め一般アリスはあまり知りません。正しく把握していることと言えば、普段から利用する地下1Fの大浴場とアーケードゲームセンター、それから百鬼夜行風のちょっとした宿泊施設(通称ユウカの隠れ宿)のことぐらい。
12326号が他に知っていることといえば、実は地下100kmまで掘られた耐爆施設や秘密のお菓子工場やサーバールームがあったりするなどといった、不思議な噂のみになります。
だから食堂の地下に、こうした普通の調理スペースがあるのは、素直に驚きました。
「ようこそスイーツ製造部へ!パティシエールの量産型アリス8104号です!」
出迎えてくれたのはエプロン姿の8104号です。この子は保護財団の食堂で出されているスイーツを作る保護財団の部活、スイーツ製造部のアリスです。
そういえば12326号がここに来た理由をまだ説明していませんでしたね。
警備部の2人に捕まった12326号は、一応未遂だったからということで、ちょっとした奉仕作業に従事することを条件に許されることになりました。
つまり保護財団のみんなに迷惑をかけそうになったのだから、今度はみんなのために働いて償いなさいってことですね。
「意外と普通に活動しているんですね!?こんなの12326号のデータにはありませんよ!?」
12326号の渾身のボケが炸裂しました!
「……あなたのデータには何が入っているんですか?」
おだんご1035号のナイスツッコミ!
そして12326号が更なるボケをかまそうとしたところ、先におだんご1035号が口を開きました。
「ところで……他の2人はどうしたんですか?まだ活動時間ですよね?」
「……実は。材料がなくなってしまって。今は活動を休止しているんです」
「え”っ」
おだんご1035号の質問を8104号が答えました。
12326号びっくりして変な声が出ました。
材料が――ない――!
それじゃあ今日はスイーツを食べら……――食べちゃダメですね――作れないってことですか!?
「で、でも!今回のレクチャーは大丈夫です!卵とお砂糖と、あと生クリームとココアパウダーが残っていました!これだけあればマカロンが作れます!」
「マカロンが作れるんですか!12326号はマカロン大好きです!」
ではさっそく――と身を乗り出す12326号を、おだんご1035号が止めました。
「すみません8104号。ちょっと聞かせてください。スイーツや材料等が不足しているのは把握しています。しかし保護財団の分は十分に確保できていたはずです。安定するまで供給を減らす必要はありましたが、」
「その……えっと......」
8104号は言いづらそうにしています。
1035号は静かに回答を待っています。
これはダメなパターンです。すぐに言えないということは、すぐに言えないだけの、何かしらの理由があります。12326号が推察するに、8104号は何かに巻き込まれてた。そしてそれを相談できずにいる。
何が起きたかは全く分かりませんが、8104号のような普通のアリスには難しいことだというのはわかります。
数秒沈黙が続きました。
......ああもう嫌な空気!。とりあえず、ここはこの状況を解決してデータキャラの威厳を見せるべきでしょうか。
でも少し迷います。でもそれをすることで、私、は……。
いいえ、今迷ったふりをしました。実際あんまり迷いませんでした。12326号の経験上ですが、姉妹のためにできることはした方がいいのです。
そして1035号が何か言う前に12326号が口を開きました。
「わかりました!ちょっと待って下さいね……」
「……12326号?何かするんですか?」
「ちょっと知り合いに話をしてみます。ちなみに何が足りないんですか?」
「果物系と小麦粉と生クリームとチョコレートと……とにかくいろいろ入荷していません……」
「お砂糖と卵はあるんですよね?」
「はい。良いものを仕入れてくれる姉が居るんです」
知りたいことが分かったので、12326号はすぐさま何人かの知り合いにメールしてみました。
返事は一瞬で帰ってきました。
「知り合いに繋がりました!数量と等級?を教えてくれれば融通してくれるそうです!よかったですね8104号!」
「はいぃ!?」
「だから数量と等級を教えてくれれば……」
「それはわかりましたから!そうじゃなくて、どこに連絡したんですか!?」
「まずトリニティの問屋の部長級でしたっけ?それから外商部?の知り合いに」
お店の名前を伝えると8104号は目を白黒させていました。
「それって確か超大手ですよね!?」
「はい!昔取った杵柄ってやつですね!どうでしょうか?12326号のデータは凄いと思いませんか?」
「1035号はデータキャラが役に立つのを生まれて初めて見ました」
「酷くないですか!?」
8104号から注文に必要な情報を教えてもらいます。それを知り合いに送ると、ノータイムで大丈夫だと返答されました。
「とりあえずこれでいいでしょ!」
12326号が1035号にニコっと笑うと、おだんご1035号は意図を汲んだのか何も言わなくなりました。
……実は、メールでやりとりする過程で、知りたくもない情報も同時に入ってきましたが、これはここで言うべきではないでしょう。
――ミレニアムや保護財団が利用している卸しの業者が、あらゆる物の消費量の増加に乗じて、流通量と値段をコントロールしようとしていること。そしてミレニアムがもし抵抗するのなら、ミレニアムへの品物を全て剥がそうと――つまり本来入荷するはずの品物を届かないようにしようとしていること。
この情報は、少なくともこの私以外の3人は、関係をもつべきでないことです。
それに12326号はそういうのはもうお腹いっぱいです。ですから、そういう情報はそういうことが得意なヒトたちに任せましょう。
そんなことよりですね。
「今日はマカロンを作るんですよね!マカロンの作り方は12326号のデータにはありません!早速作りましょう!」
「……はい!まずは――」
今はスイーツの方が大事です!
量産型アリスは楽しいことと甘いもので出来ているんですから!
・登場人物
3076号、
12326号、1035号、8104号
672号(一言も話さなかったけど後ろに居た。マカロンが楽しみ)