ようこそトロピカル因習アイランド
雲ひとつない抜けるような青空。透き通るエメラルドグリーンの海。背の高いヤシの木と白い砂浜。咲き誇る真っ赤なハイビスカス。誰もが「南国リゾート」と言われて思い浮かべるような光景が目の前に広がっている。誰もが浮かれざるを得ないような、まさにこの世の楽園を体現したような場所で、一人どんよりと重苦しいため息を吐く男がいた。
「何か悲しくて沖縄くんだりまで来てガキのお守りなんかせなあかんねん……」
これさえ無ければ優雅なバカンスも兼ねられただろうと思うと、理想と現実の落差に落胆のため息が出るのもむべなるかな。
直哉の視線の先には南国の海にテンションが爆上がりし、服を脱ぎ捨て早速海に飛び込むガキその一(虎杖)と「待って虎杖君!」とそれを追うガキその二(乙骨)がいた。
(というかアイツ、服の下に海パン履いてたんか……。プールの授業がある餓鬼ちゃうねんぞ)
あまりの苛立ちに盛大な舌打ちが漏れる。あくまでここにいるのは任務が理由だということを奴らは分かっているのだろうか。……あのはしゃぎっぷりだとそこら辺がトんでいる可能性もありそうだ。観光客のフリをして周りに溶け込め、という指示があったがこれではフリではなくガチではないか。……そんな事を考えている今の直哉の格好も完全に海に遊びに来た観光客なのだが。
「……お前は行かないのか」
苛立ちのあまり貧乏ゆすりでハイテンポのビートを刻んでいた直哉に話しかけてきたのはガキその三(脹相)だった。その出で立ちは、いつものよく構造の分からない和服モドキではなく、弟(虎杖)がよく着ているようなこざっぱりとしたパーカースタイルに、髪型はハーフアップになっている。流石にこいつも空気を読んだらしい。……いや、空気を読んだのは虎杖の方かもしれないが。
「……行くわけないやろ。何が楽しくてガキ三人とキャッキャウフフせなあかんねん」
「そうか」
「お前こそはよ去ねや」
「そうする」
さりげなく混ぜ込んだ皮肉もサラリと流され、ますますイライラが溜まっていくのを感じた。苛立ちに任せて、シッシッ、と犬でも追い払うかのような動作をする直哉。しかし、それを特に気にすることもなく、脹相は虎杖達と合流するため砂浜を歩いて行く。
爽やかな、まさに快晴という言葉が相応しい青空の下、那覇行きの飛行機の中で目を通した報告書の内容を思い返す。それはこの美しい景色におよそ似つかわしくない陰鬱な内容だった。
『年に一回行われる外部に秘匿された奇祭』
『そこでは観光客が生贄として捧げられる』
「生贄捧げる時間がウチナータイムとかそんなんアリ? 因習村としての自覚が足らんのとちゃう?」
「えっ、これ聞いてた話とだいぶ違わないですか?」
「これ俺たち関係なく単純に酒の飲み過ぎで倒れてないか?」
「シンプルに方言キツくて何言ってんのか全然分かんねー……」
女を捧げよとか神託があったけど観光客が虎杖達しかいないから男捧げようとするガバガバトロピカル因習アイランド。