ゆく年くる年・3

ゆく年くる年・3


「おやめなされおやめなされ!拙僧の髪を引っ張るのはおやめなされ!」

「マンボちゃんもぼっちで暇なんでしょ?鈴鹿パイセンもWowっちも、メイヴっちまで約束したのにいないんだもーん!一人で行くなんてあたしちゃんマジぴえんだぜ?」

「だからって俺まで一緒に引っ張ってくのはどうかと思うんすけど…」

「えぇ〜、リカっち、そんなこと言っちゃう?顔には『俺も仲間になってやってもいいんだぜ。フッ』て書いてあったんだけどなー」

「書いてないっすよ!

…いや、でもちょっと興味は…モニョモニョ…」

「そうこうしてる間に着きましたな。ンンッ、これはこれは…」


清少納言、リンボ、マンドリカルドの妙な安定感のある三人組が辿り着いたのはカルデアのレクリエーションルーム。

『カルデアゲーム配信2023』を開催中ののゲーマーたちの巣…のはずだがその様相は想像を上回る大盛況ぶりであった。

カルデア所属の英霊、その中でも年若い部類の者たちの殆どが集合してドンチャン騒ぎ、最早ちょっとしたお祭り状態となっていたのだ。


「おや?ここにも新たなプレイヤー(お客様)が侵略して来ましたね?」


圧巻の光景に呆然とする三人の前に現れたのは随分やつれたような姿のスペースインベーダーであった。ピコピコ音を鳴らし跳ね回る彼女が言うに曰く、この部屋では幾つものゲーム媒体をそれぞれ別のチャンネルで配信しているという。


「見せて見せて!」とはしゃぐなぎこさんに押され彼女はしぶしぶ新たな来客向けのゲームまで案内することとなった。


「これこれ、ドットの侵略者や、まさかワシらを置いて逃げるつもりかのぉ?」


突如としてスペちゃんの足を掴む老人、それは息も絶え絶えに床を這いつくばるパカル大王だった。


「ンンンン、悪しき気が燻っておりますな。これは如何様な配信にて?」

「私を含む特にゲームに慣れ親しんだ猛者による『クリアするまで終われないクソゲー配信24時』です。

今年は希代のゲー無、『海賊監プロジェクト』に挑戦中ですね」


部屋の隅の方、小型テレビに接続した釣りコンを握る目の死んだ大人たちが生気もなくプレイを続けていた。

規定の懸賞金額の海賊の首をひたすら海戦跡地から引っ張り上げる、倫理的にもゲーム的にも終わっているこのクソゲーは現在最難関の『50億610ベリーのベンジャミン・ホーニゴールド』の首の取得に差し掛かっていた。


「んあぁー!!!また僅かに足らない!50億600ベリーのホーニゴールドッスよ!」

「うう…生前は敵将の首級目当てに戦いましたが、ここまで多くの首は食傷気味です…」

「なんで拙者の上司の首がこんなあんだよ!教えはどうなってんだ教えは!

拙者、最早Dの意志すら感じてきましたぞ!でゅふwでゅふふふふw」


代わり映えのない水面のグラフィックともう何人目かのホーニゴールド船長に辟易し意気消沈する一同。特に黒髭にとってはかつての上司にして後年は逆に海賊を狩る側に回った男の首を無限サルベージするという訳の分からなぬ苦行状態だった。


「ワシ、初期のWii Uでもこんなにひっどいゲーム知らないんじゃけど…」

「ああ、同感だ。私の中のハンガリー全市民が揃ってこのデータに対する拒否反応を示している、そんな感覚だね」

「ぅぅぅ…姫、もう帰る!帰ってあっちでマーちゃんとゲームするぅ!」


とうとう幼児退行を起こし逃げ出した刑部姫を取り押さえ、隈だらけの顔で稀人を見据えた様は亡者の如し。

かっと血走る目を見開き這いつくばりながらゲーム狂いたちが差し迫る。


「「「「もう、代わってくれえぇぇぇ‼︎‼︎」」」」


「ンンンン!かくも悍ましきは人の浅ましさの果てなれば!こうなればもう彼らは助かりませぬぞ♡退散退散♪」

「あ、ちょっと置いてかないで下さいよ!100円玉もなしにこんな24時間稼働なんかしたら全店舗撤退もやむなしですよ!」

「ごめんよースペっち!自分で選んだ挑戦は最後までやり切るのが宮仕えのコツだかんなー!」


クソゲー。

それは世に名高い悪夢の兵器とすら言えるかもしれない。

一度ハマれば抜け出せない、人の心を壊し続ける底なし沼、だからこそゲームに飢えた彼らはそれに惹かれる。

この苦役に意味などなく、この地獄に価値などなく、誰もが口を揃えて「もうやりたく無い」と答えるはずだ。

だがきっと、いや寧ろ、必ず、彼らは更なるゲー無に挑みに行くのだろう。

それがこの娯楽に命を賭けた者たちの宿命であり、誇りであり、英雄譚なのだから…


ーーーーーー


同様の苦役故に足元もおぼつかぬスペちゃんを身代わりに逃げ出した彼らが向かった別のテレビでは、子供鯖(と保護者)が詰め寄せ某ヒゲ面配管工によるレース大会の配信を行なっていた。

「さあやって参りましたよ最終戦!この私を!打ち破ったまあそこそこ賞賛に値する四名による一位争い、解説のアビーはどう見ますか?あ、そんなに期待はしてないんでちゃっちゃと答えてくださいね。」

「は、はい、これは…ええと…つ、強い方が勝つで、しょう…?

…やっぱり無理よアン!私は貴方みたいにお口が上手く回る訳じゃないの!」

「いけないわ、いけないわ!貰ったお仕事はちゃんとこなすのよ、アビー。ロンドン橋の鼠だってパイプを蒸して寝ずの番をしてたのよ!」

「なんだかちょっと前のなかった事にされたクリスマスを思い出しますね…それはそうと論破キャラで私とアンさん被ってませんか!?」

「あ!バニヤンがジュース取ってきてくれたよ!ありがとね!」

「De rien(どういたしまして)。体が大きいと物を運ぶのも楽だからね!」

「あらジャック、貴方、解体した後で手は洗ったの?落っこちてしまったハンプティを拾うみたいに、怖いものに触れたなら清潔にしなきゃ笛吹き男に攫われてしまうわ。」

「平気平気♪お医者さんの言うことは嫌いだけど、おかあさんに怒られないように手洗いうがいで消毒もしてるよ!」


配信を盛り上げるのはアビー、アンのセイレムコンビによる解説実況だ。バニヤンから受け取った紙コップを「プハーッ!」と一気飲みし、アンはお得意の弁舌をフル回転させていた。


長きにわたる激闘も終盤戦、とうとう勝ち残った4人による決着の時となっていた。

トーナメントによって並み居るお子様を打ち果たし、名誉ある最終戦に進んだのはアレキサンダー、ボイジャー、アステリオス、九紋竜エリザの4人だった。


「えうりゅあれ!いま、いま、いちいだ!」

「うふふ。ええ、素晴らしいわアステリオス。でも、ここから追い越されたりしたら、私、幻滅してしまうわよ?」

「うん!がん、ばる!」


レースは残り一周にまで差し掛かった辺り、野生の本能を剥き出しにし、フンスと鼻を鳴らす猛牛が先頭を爆走していた。


一方レース後方、おぼつかない操作で壁に衝突していたのは九紋竜エリザである。


「どうちよう!史進くんが起きないわ!このままじゃ負けちゃうわ!」

「エリちゃん!頑張ってください!勝たないと私みっともなく泣き喚いちゃいますよ!」

「あんたもまた変なプレッシャーの掛け方すんなぁ。同じ梁山泊としても恥ずかしいからマジでやめてくれよ…」


ここまでの試合ではそのあんまりな操作テクの低さに業を煮やした史進が代打でコントローラーを操っていたが、数分の会話ですら疲労してしまう彼は肝心の決勝戦でとうとう力尽きてしまったのだ。

結果残された九紋竜エリザが自前の技術でこの勝負に挑むことになったのだが…結果は火を見るより明らかであった。


「オイ!Ⅲ(スリー)!そこどけよ!見えないだろ!」

「そ、そういうⅡ(ツー)だって…そ、そんなお菓子までこぼして行儀が悪くないかい…?」

「Ⅰ、Ⅱ、お前ら大人しく応援出来ないのかよ!?兄弟として恥ずかしいんだかんな!」

「ぼいじゃーにいさまのぎゃくてんげきはここからだ。ごーごー、ふぁいとっ。」

「ほんとーの…れーすならねー…はくとが…ぶっちぎりなのに、なー。くやしー。」

「わふっ!がぞうがぐるぐるまわってめがまわるよー!」

「あー!ちょっとボイジャー!なんでそっちのショートカット使わないのよ!」

「あんまりくっつかれると、こまるなぁ。とくに、エリセ。」


わちゃわちゃと群がる友たちに揺さぶられ、ボイジャーはジト目でムスッとした表情を浮かべている。


『ハハハハ。イザナミの娘、お前さんが一番相棒にのめり込んじまってるようだな。保護者役に徹してるんじゃなかったのかー?』

「またそうやって意地悪を言うんだから…

そう言うヘルメスだって僕にかかりっきりじゃないか。いいんですか?神霊会議とやらには行かなくて?」


宙を浮遊するヘルメス・トリスメギストスに揶揄われ、赤面するエリセを庇いながらISSはその錬金術師を模したロボットを小突いた。オリュンポスの神の中でも特に愉快犯としての気質が強い彼が行っても碌なことにはならなそうだが…


「まあエリセは他の子とも年齢が近いし妙にお姉さんぶらなくてもいいんだが…コマロフ、お前の応援は流石に引いたぞ。いい歳した大人が恥ずかしくないのかよ?」

「…何も言わないでくれ、ガガーリン…少し、自重する…」


コマロフは宇宙系サーヴァントの番になる度、物理的に大炎上する勢いのヲタ芸を爆発させていた。しかしライカからの「こまろふ、うるさい!」という容赦ない一言で今は意気消沈しているようだ。次に衝動を抑えられなかったら黒髭のところでクソゲーに強制参加させられる約束まで交わさせられ、その姿は見るも無惨に落ち込んでいた。


「いや、でも監督者が多くて助かりましたよ。リリィたちの面倒を見ることくらいなら慣れてきましたが、こうも沢山の子供たちを相手にするのは骨が折れますから。」

「サンタの師匠とは言え、あんたの苦労には同情しとくよ。まあ、うちの保護者にゃガキンチョメンタルが1人混じってるけどな」

「ぐふっ!!理由のない燕青の侮辱が呼延灼を襲う…!」

「いやぁ、そうは言ってもお嬢さん、ナイスなボディをお持ちだねぇ。この美しい放物線を描く品の良い太ももなんて特にグンバツだにゃあ。まるで黄金比のような、しなやかな健康体だよ。」

「フフン、猫目の割に見る目がありますね。可愛いでしょう、格好いいでしょう。もっともっと褒めてくださってもいいのですよ!」

「目を覚まして下さい。その猫博士の褒め言葉なんて9割がたセクハラですから。」

「いやらしい言葉で視姦されながらも喜んでしまうなんて…駄目です私!このままでは生まれてしまう…!承認欲求モンスター…!」


元々サンタアイランド仮面として子供サーヴァントと関わってきた天草四郎からしても、今年の12月は大忙しだった。カルデア内でのクリスマスパーティーの準備に奔走し、年末特別テレビではグラカニ出演までこなし、どっと疲れが出た中でのこのゲーム大会の世話役まで舞い込み、辟易してた中でのこの顔ぶれとの合流であった。


「僕、凄いことを閃いちゃいましたよ!アレキサンダー、宝具をこのコントローラーごしに発動出来たりしますか?」

「フッフッフ、お任せください!僕の宝物庫にはなんと!ブケファラスの原典もあるんですよ!さあ、この手綱を身につけてブーストです!」

「タイミング計算なら僕の本職だ。このガスマスクが曇らないうちに準備を進めてくれ!」

「面白いね。何事も挑戦だ、やってみよう!」

「(我が弟ながらとんでもない無茶を考えてるなぁ。まあ、でも、折角の友達との交友だしオジサンは黙っとくか…)」


逆転の一手を探りながら先頭集団より後方を慎重に走るアレキサンダーとその友人のパリス、子ギル、チューリング。

彼ら悪童の企みにヘクトールは溜息をつきながらもあえて聞かなかったこととした。


『子らの成長とは良いものです。たまのおいたくらいなら許してやるのも大切ですが…イリアスの大英雄には要らぬお節介でしたね。それくらいの度量はとうに持ち合わせているとお見受けしますよ。』


側には巨大な機械仕掛けの女神像のようなグレートマザーが並んでおり、その子らに向ける笑みを今は隣のトロイアの王子に向けていた。


「ハハハ。俺は面倒ごとが嫌なだけですよっと。ま、大母サマくらいの愛ってモンに溢れてる人を見るとちょっとノスタルジックにはなっちゃうけど。」

『──貴方は…そうですね…。お母様もさぞ辛かったとは思いますが、それでも貴方は国のため立派に戦った、それなら胸を張ってもよろしいかと…』

「お優しいね。オジサンもちょっとは気が楽になったよ。これが母性ってやつかい…?」


微笑を浮かべながらその母なる地球と共にプレイヤーを見守る男は、優しく弟のやり取りを静観していた。


「よし!このカーブを超えた先!ここからコンマ1秒から速度は最高に到達だ!」

「オーケー、やるぞ!

──暗雲よ、雷よ、父よ、見るがいい!『始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)』!」


真名解放と共にアレキサンダーの駆る車体が輝き、ゲームのバグとでも言わんばかりの速度と衝撃を伴いコースを踏破していった。

道中で追い抜かれた他のプレイヤーの車やNPCの車、おまけにコースを取り巻く地形までもが、明後日の方向へ弾き飛ばされ遂には残存敵対者は1人もないまま彼はゴールインを果たした。


驚愕の展開に空いた口の塞がらない一同は殆ど同時に2人仲良く座るアビゲイルとアンの方向を見る。

手をマイクを持つような形にして口に当て、アンは意気揚々と言葉を発した。


「さあ、物議を醸すような試合結果でしたが、アビー、この勝敗、どう思いますか!?」

「え、ええ…こ、これはいくらなんでもやり過ぎよ!いけない子だわ!」

「と、いう訳で無効ですね、これは。あ、4人は取り敢えず反省の意を込めて首でも括っておいてください。」


解説実況のセイレムコンビの無慈悲(だとう)なジャッジの宣告により途端に顔面蒼白になる悪ガキたちの中、足元からへたり込むパリスは後ろのヘクトールを見上げた。


「ヘクトール兄さん…コレは…」

「いやいや、まさかここまでとんでもないこと考えてたなんて思わなかったって。あーダメダメ、そんな目潤ませたってダメなものはダメ!」

「まあ、この結末は薄々予想は出来てましたね。」

「うん、好奇心というか、ちょっとした興味でやってみたけど、正直その時点で勝ちは捨ててたね。」

「クソッ!どこで計算を間違えた!突撃系宝具なのが不味かったか?もっと隠匿性のあるものが正解だったか… ?」

「そんなぁーー!」


涙目のパリスをヘクトールがはたき、どっとその場に笑いが巻き起こる。


勝負は仕切り直しだがこれは仕方ない、誰もがそう思った時…


「あれ?でも、まだ一人分だけアイコンが画面に…」

「なんだろう、嘘つくのやめてもらっていいで…

──いや、まだ一機残ってますね!…こ、これは!エリザさんのマシンですよ!」


そこにはたどたどしい操作ながら着実にゴールラインまで向かっている車が一台あった。

遥か彼方にまで取り残されていたが為にブケファラスの影響を受けなかった梁山泊希望の星が今、自分1人の力でその荒野を進んでいたのだ。


「エリちゃん……!エ"リ"ぢゃん"…!」

「うわっ!そんな号泣する程かあんた!?いや確かに感動の展開ではあるんだが…」

「い"い"がら"!燕青も"応援じでぐだざい"!」


涙と鼻水でぐしょぐしょに濡れながら声援を送る呼延灼と燕青の叫びを受け、遂にエリザは規定の線を踏み越えた。


「やった…やったわ!あたち、繰り上げ一位だわ!」

「ゔわ"ぁぁぁ!エ"リ"ぢゃん"!お"め"でどう"ござい"ま"ずぅぅぅ!」

「よしよしいいこいいこ!泣かないで、呼延灼!」


何の液体かも判別出来ない汁にまみれながら天威星の侠客は優勝者に抱きついた。それに合わせ燕青が、そしてつられた周囲の者たちが皆拍手で2人を迎えた。


「みんな、ありがとうだわ!こんなにあたちに拍手喝采だなんて…みんな、梁山泊に入りたいのね!?歓迎するわ!じゃあ史進くん、一言どうぞ!」

『んおっ!?いきなり振るなよ!こっちはまだ回復したてなんだがなぁ…

……あー、エリザベート、最初こそ俺の助力ありきではあったが、この勝負、それは最後まで諦めず走り続けたお前の力あってこそだ!お前は九紋の龍を継ぐに相応しい、梁山泊一の好漢だ!』


──『花発けば風雨多く、人生別離足る』

人生とは別れの繰り返しなのかもしれない。それでも別れに永遠などは存在しないのだ。巡り、廻り、立ち返り、人は何度でもまた会おうと約束を果たしに旅をする。

だから彼女たちは再会を果たせたのだ。だからこそ、喜ぼう。こんな些細な勝負でも、その結果に一喜一憂しよう。こうしてある今だからこそ、噛み締めていこう。

嬉し涙に身を濡らす2人を見て、燕青はそっとほくそ笑んだ。


ーーーーーー


「おーっ!Wowっちたちこっちに居たんか!あたしちゃんのこと忘れるなんてこの不届き者ぉー‼︎」


想定外の感動試合に心動かされ咽び泣くなぎこさんたち一行は長い回り道をしながら、当初の目的地である集団の元へたどり着いた。

彼女は見知った顔ぶれを見つけその輪に飛びこんでいった。


ここは室内でも最大サイズの特設テレビ画面。最大の盛り上がりを見せるここには老若男女、多くのサーヴァントたちが集まり魔改造大人数型格闘ゲーム『ダダダ大乱闘メルブラ無双』で各チームによる交代制の代表戦を開催していたのだ。


「オーッス!Wowっち、白熱してんね〜」

「うわぁわぁっ!急に抱きつかれたらドッキドキjan?

『今日為しうることだけに全力を注げ』、1ミス1KO、一挙手一投足でDEATHなあーしのバリバリ集中は途切らせないでほしいmindなんだけど!」

「あ、なぎこ!メンゴメンゴ!このゲーム楽しくて集合忘れてたし。ここは鈴鹿権現の名を立てて許してほしいっしょ」

「まあ、そういう訳だ。ホラ、余所見をするなサテュクロスの娘。ここは既に戦場なんだぞ!一瞬の気の緩みが命取り(ゲームオーバー)だ!」

「うへぇ、ヘファっち、殺気ギラギラしてるぅ。あー、でも良いの?ヘファっち、あっちの王様チーム行かなくて?」

「…我が王の采配さえあればグレイは大丈夫だ。逆にこのチームはまともな司令塔が居ないからな。

仕方なく!そう、仕方なく来てやったんだ!」

「全く、素直じゃないわね。チーム戦なんて名ばかりのものよ。各々が心配な相手の応援する、女の裏切りなんてそんなものよ。

…あ!ほらスカディ、また口元にアイスが付いてるじゃない!」

「んー、そう言いながら平然と敵側とイチャつくメイヴっちはマジメイヴっちだぜ…」


「んむっ、んん…口くらい自分で拭けるぞ。メイヴは過保護すぎでかなわんなぁ。

…あっ!……すまぬ、落としてしまった…ショボン」

「ああっ!ヒルド、そんなコマンド入力じゃダメですよ!そこはこう…グッというか、ガッというか…

うーん…今イメージ送ります!」

「ヒルド、何をしてるのです。スカディ様もご覧になっているのです、負けは許されませんよ。

さあ、この私の記憶を繫ぎ糧にしなさい!」

「あのさぁ!二人とも応援くらいなら良いけどさ、変な情報まで同期させてくるのやめてよぉ!」

「…だ、誰か他のアイスを持ってはいないのか…?」


「ちぇー、ぐっ様の大立ち回りが見れるって期待してたのにー、交代制かよー。えー、応援?仕方ないなぁ。おらー、がんばれー」

「あーもう餓鬼!何モタついてんのよ!そんな式盤じゃなくて項羽様の言うことに耳を傾けなさいよ!」

「ま、まあ、今プレイしているのは彼女自身なのですから。それに貴女の方針に沿ってると最終的に自爆しそうですし…」

「なによ?また虞美人差別?そんなどこぞの外道軍師と同類の扱いなんてやめなさいよ!?」

「虞よ、そう声を荒げずとも良い。これはそれなる尭族の娘が己が道として見定めた戦、ならばそれを信ずるままに見守るが必定ぞ」

「…だあぁぁ‼︎‼︎外野が五月蝿いんじゃあぁ‼︎‼︎余の王偉がこうだって言ってるんだもん!余は勝てるもん!」


「グレイ、私が教えた通りにやれば勝負は乗り切れるはずだ。気負わず、平常心を心掛けろ」

「ええい、兄上の専門は戦略シミュレーションゲームだろうに!どきたまえ、私が真の名采配というやつをご教授してやろうじゃないか!」

「ハッハッハッハ!良いではないか!三人寄ればなんとやらだ。余としては軍議は多少賑やかな方が好ましいぞぉ!」

「うう…拙は、拙は頭がパンクしてしまいそうです………あっ‼︎」


「へへッ!ザーコ!そうやって有象無象の言葉なんか間に受けてるからいいカモにされんだよ!」

「はぁ…なぜお前はいつもそう(荒い言葉でありながらも、自分自身を信じるよう助言を送れる立派な子)なのだ、バーヴァンシー 」

「ひっ……ご、ごめんなさい、お母様……」

「? 何を謝っているのです。お前は(華麗なプレイングでどんなキャラも使いこなす)私の(自慢の)娘なのですよ?」

「ウ…グッ…グエェェ…モルガン、一旦降ろして…娘可愛さに腕に力が篭るのは分かるけどさ、ボクを抱きながらそれされると苦しいんだわ。」

「なんでもいいんだけどさ、『モフモフですわ!』とか言ってバーゲストがまた鞍替えしたみたいだよ。まあ最強の僕1人居ればこんな勝負すぐに片がつくんだけどね」


「い、言い掛かりはよせ!わ、私は自らの騎士道に従いほんの一時弱者の加勢に向かっただけだ!(言えませんわ、あのモフモフに囲まれてプレイしたかったなんて…)」

「うふふ。ええ、路としてもかように勇壮な騎士さまがいれば百人力というものです。ほら、ソウスケもこんなに喜んでますよ」

「あ、ああ、任せてくれ!私が来たからにはこの勝負、必ずや勝利してやろう!まずはこの一戦、ライラプス、貴様の腕にかかってるぞ!(あぁ〜八犬士、癒されます〜♡)」

「ほうじゃほうじゃ!わしはあの人斬り娘と賭けをしちゅーがやき、負けたら招致せんぞ!」

「私もライカ(わたし)と勝数で競ってるのよ!アンタのせいでスコアひっくり返されたらどーなるか分かってんでしょうね!?」

「──(『ガンバレ』と書かれたプラカードを持ち手を振るヘシアン)」

「…何で貴方たちはプレッシャーばっかかけんのよ!?同じイヌ科ならもう少し仲間意識持ちなさいよ!プレイに集中出来ないじゃない!」

「…アッ。私ノ未来演算予測デハコノ勝負、ゲームオーバー率94パーセント…モウ、駄目デスネ…」

「えっ!あ!ちょっと!…ああーー‼︎‼︎」


「戦果:敵兵一名の撃破("げきは")に成功。この勢いで激早("げきは"や)で他のプレイヤーも殲滅します!」

「よーしよしよしよし!流石は我が後継者だ!ジョークのキレも、コントローラー捌きも、素晴らしいぞ!」

「エエ、私ノお父様ガ見てモキット驚クくラいの精巧ナ絡繰デス。私ハゲームが苦手ナノで皆様ノ足ヲ引ッ張っテシマい申シ訳ナイでス…」

「大丈夫さ。僕だって鉄道の手綱握りのお陰でそれなりに自信があったけど、ゲーム画面となると途端に操作が覚束なくなっちゃってね。

うん、まー後はバタリオンに任せよう!」

「ゲームの腕前もまた職人技と同様なのでしょう。一朝一夕に身につくものでなく、彫刻の様にひたむきに己と向き合い続けることが必要だと推測します」

「デモ驚キネ。マサカ、イカニモ得意ソウナ機械系サーヴァントデ集合シタノニ、殆ドガ下手ッピダッタナンテ…ISSニ私ノ活躍ヲ見テモラウ予定ガ…」

「まだそんな破廉恥な下心を抱えていたのですか!?そろそろ同じ人工衛星として恥ずかしくなってきましたわ!

──ところで、何故そんな集まりの中に一人生身の人間が?場違いも良いところなのですが?」

「我がむす…後継者を放置してこんな危険な娯楽に浸らせられると思うのか!?」

「羞恥:閣下…少し、恥ずかしいです…」



目前の激戦に大興奮のプレイヤーと、その背後から鼻息も荒く騒ぎ立てる外野たち。

ある意味では和気藹々としたその戦線は今、カルデア内で最も反響の多い決戦の地となっていた。

縦横無尽にフィールドを駆け巡る十人十色のキャラクターたちの派手なエフェクトが眩く輝き、1アクションごとに轟く効果音がさらにそのステージを飾り立てる。


──ズッ友(マブダチ)との友情を胸に、氷雪とは比べるまでもない温もりを噛み締め、幾星霜の果ての一瞬に安堵し、王臣と師弟は再会を分かち合い、もしもの童話は新たに紡がれ、獣は群れて歓喜し、鉄の心に血を通わせた。


きっと、それは本来の彼らにはあり得なかった結末なのだろう。

歴史という定めがそれを許さなかったのだろう。


だが、ここはカルデアであり、今は年末なのだ。

運命は自由に、縛りなく、ただひたすらに現実を楽しめば良いのだろう。

そんな、様々な結末を繋ぎ合わせ、縫い合わせ、思い出としながら彼らの旅は続いてゆくのだから…



「(どうも俺ぁ場違いみたいっすね…ちょっと楽しそうだけど、ここは見つからないうちに退散するしか…)」


一人一人が英霊の中でも上位に位置する者たちの集いに気圧され、マンドリカルドは及び腰のまま部屋の出入り口に向かい引き返していた。


その瞬間、もう何人目かも分からない誰かしらの絶叫が彼の耳に入り込んできた。


「ゔぁぁぁぁぁあごべん"な"ざい"ぃ"ぃ"お"母様ぁ"ぁ"ぁ"‼︎‼︎‼︎」

「我が夫、バーヴァンシーの残機が0になってしまいました。次は貴方の番です。父親として是非仇をとってください。」


手足をジタバタするハベトロットを抱き抱えたまま、コントローラーを差し出すモルガン。

困り顔でそれを受け取ったマスターであったがふと彼は遥か後方の気配を感じ取り、そちらを振り向いた。


〈マンドリカルド!何処行くの?〉

「え!お、俺っすか!?いや、えーと…ま、まあ、陰キャは陰キャらしくお暇しますって感じっすかね…」

〈一緒にやろ!前やった時マンドリカルド上手かったじゃん!〉

「い、いや、でも、俺みたいな根暗はこの場に相応しくないというかなんというか…」

「ふむ、韃靼の王、サラセンの騎士、マンドリカルドですか…

良いでしょう。我が夫の推挙する者ともなれば功を挙げることは必至、ならばその武勇、とくと示してみよ。」

〈…圧が凄いよ、モルガン〉


周囲の視線はいつの間にやら彼の元へと注がれており、そこには純粋な笑顔があった。

自分の様な情けないサーヴァントには入る余地などないのでは、そんな悩みも吹き飛んでゆく。

そして気付けば彼の足は扉ではなく、マスターたちの元へと駆け出していた。


「じゃ、じゃあ……遠慮なく、行かせてもらいますよ!」


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