もう少しだけ
目が覚めると、やけにふわふわとした感触に包まれていた。一生このまま寝ていたい、そう思うほど心地良いものの、明らかに自宅のベッドではない。
何故ここで寝ているのでしょう?ここはどこですか?私は…
「宇沢!レイサ!!」
うつ伏せの状態から、顔を勢いよく上げる。
廃倉庫に自分の名乗りが響いて、寝る前の記憶にかかっていた靄が晴れていく。
そう、確か昨晩…
◁◁
「くぁ…あふ……」
噛み殺そうとした欠伸がまたも漏れてしまう。寝ていないわけではないものの、やはり睡眠不足なのだろうか。
「ナーン…」
瞼を擦って眠気を誤魔化していたところに、不安げな声が聞こえる。どうやら私は、彼女に心配をかけてしまったらしい。
「私は大丈夫ですよ!きょうや…ふあ…かずさ」
疑いを払拭しようと開いた口からは、寧ろそれを裏付ける証拠が出てしまった。
ふーん、と。カズサはため息までついている。
「さては信じていませんね!この宇沢レイサの体力を舐めてもらっては困り…ッ!?」
行動でもって証明しようと立ち上がった私は、しかし平衡感覚を失ってしまい、ぐらりとバランスを崩す。
ぼすん。
そのもふもふとした感触に、全てを察した。
「ご、ごごめんなさ@#$%〜〜〜!!????」
焦って起き上がろうとする私の背を、布団のように何かが覆う。いや、ただ覆ったのではなく、押さえつけられている。
(なぜ?なにが?とにかく弁明を起き上がって眠いこのままだと眠く意識がおきてねるこのままねてしま―)
▷▷
そこで私の記憶は途切れていた。
つまり私は、この友人を寝床に熟睡していたということになる。
「なんだか…申し訳ないですね」
彼女が戻る手立てを探しつつ、それまでの手伝いをする。そのために来ているのに、私が世話をされては面目が立たない。
そんなことを考えているものの、実は私はまだ起き上がっていなかった。
理由は二つ。まず、起き上がろうと思えない。
ほんのり温かく、綿よりもふわふわで、手触りも良くて。断言する、これに抗える人間は居ないと。
もう一つは、私の背に尻尾が乗っていること。
どうやら彼女はまだ寝ているようで、これを退けた場合、起きてしまうかもしれない。
ならばいっそ、このまま二度寝をしてもいいのではないか、と悪魔が囁いた。
正直に言えば。一緒に寝るなんて状況、以前は考えたこともなかったので、少し嬉しいと思ってしまっている自分も居て。
残念ながら反論の天使は現れないらしい。不戦勝で悪魔の勝ちだ。
「…もう少しだけ。おやすみなさい、杏山カズサ」
いつか戻った時に、彼女とお泊りができたらいい。そんな夢に思いを馳せながら、私は目を閉じた。