もう少しだけ

もう少しだけ


「もう夕方かー、時間経つの早いねぇ」

「だよな、まだ少ししか遊んでねぇ感じがする」

まだ遊び足りなさそうに目の前の生徒———小鳥遊ホシノと美甘ネルが呟く。

「わかるわかる~♪楽しい時間ってあっという間に過ぎちゃうよね。もうちょっと遊んじゃう?」

「…ダメだ、そろそろ帰らないとマズい。寮の門限があるからな」

白い翼をもつ生徒、聖園ミカが呟きに同意し提案するが、その提案を諫めるのは猫背の生徒、剣先ツルギ。

全員違う学校で、キヴォトスでも有数の強者だ。きっとシャーレの当番制が無かったら友達になるどころか、関わり合いにすらならなかっただろう。今日はそんな偶然巡り合った関係で、初めて遊びに行った。


「それもそっか。皆、それぞれお仕事あるもんね。———さっきから静かだけど、ヒナちゃん、今日はどうだった?」

「……楽しかったわ。えぇ、本当に。こんな風に誰かと遊びに行くなんて初めてだったから。服屋も、ゲームセンターも、映画館も、水族館も、どれも楽しかった」


集まって開口一番「なんでホシノちゃんとヒナちゃん、制服なの?」ってミカが言い出してから始まった呉服屋でのファッションショー。背が小5の頃から伸びてないし、風紀委員会に入ってから遊びに行くよりは部屋で寝てる方が好きだったから、私服なんて本当に久しぶりに買った。

ゲームセンターは取り締まりで行くことはあっても、純粋に客として利用するのは初めてだった。エアホッケーでミカがパックを打つ際に力を入れ過ぎて、打ち込んだパックが壁に当たって砕け散ったり、ホシノがクレーンゲームのクジラのぬいぐるみを取るために、所持金全部使う勢いだったのを全員で止めたり、忙しかった。

映画館は何を見るかで揉めた。ツルギとミカは恋愛映画、ネルとホシノはロボット映画を見たがって、私はどっちにするのかと迫られた。でもどの映画も良し悪しなんてわからないから、ふと目に入った怪獣映画を希望した。…残り四人も文句を言いながらも映画を見終わったら思い思いの感想を言い合っていたから、なんだかんだ気に入ったんだと思う。

水族館は他とは違って静かだった。色とりどりの熱帯魚にミカとツルギが興味深そうに見てたり、イルカショーにネルがテンション上がって歓声を上げてた所に、イルカが上げた水しぶきが直撃したのを全員で笑ったりした。

朝から夕方まで遊んだけれど、それももうおしまい。正直、遊び足りないと思うのはわかる。だけど私たちの殆どは組織の長だ。ずっと遊び呆けるわけにもいかない。

そう理解していたのに


「それじゃあ、今日はこれでお開き。また遊びましょう?」

「おう。また近いうちにな」

「うへ、じゃあね~」

「心配無用だと思うが、気を付けて帰れよ」

皆が所属している学校の自治区に帰っていく、それを見たら———

「……やだ」

「へ?」


思わず近くにいたホシノの制服の袖を掴んでいた。

他の皆も聞こえていたのか、信じられないような目で私を見ていた。

「えっ…?あっ、これは、その、違くて……!」

慌てて手を放して取り繕うも、全然言い訳が思いつかない。どうしよう、面倒くさい子だとか思われたりしただろうか?もう遊びに行くことなんてなくなってしまうのだろうか?そんな後ろ向きな思考がどんどん溢れてきてると

「思った以上に楽しんでたんだねぇ、ヒナちゃん」

「まさかお前の口からそんな言葉が出るたぁな」

「ヒナちゃん、案外寂しがり屋だったりする?」

「…………」

何故か全員に頭を撫でられていた。しかも全員から生暖かいような視線を感じる。

「っ…やめて」

「ゴメンゴメン。でもそうだねぇ、このままお泊り会ってのも乙かなぁ?」

「うーん……そうだなぁ。どうにか誤魔化せないかな、ツルギちゃん」

「……誤魔化しは私よりミカの方が得意だろう」

「じゃ、決まりだな。大部屋で泊まれるトコ探そうぜ」

「まぁ、そういうことだからさ。もうちょっとだけ楽しもうか、ヒナちゃん」

「…えぇ。そうしましょう」


この楽しい日はもう少しだけ続くみたいだ。

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