また明日

また明日


その日は配信もなくて。大学も、バイトもない…本当に穏やかに終わるはずの誕生日の前日だった。

もう秋も深まってきたのに妙に寝苦しくて水の一杯でも飲もうとキッチンに向かいながら端末を見てみると、後数分で自分は二十歳からもう一つだけ歳を重ねる…と言ったところだった。

案外こういうところが細かい身内や友達なんかは日付が変わり次第、何かメッセージでも送ってくれるだろうか?そんな風に笑いつつ、グラスにミネラルウォーターを注いで喉を潤して…時計の針が天井を示した時だった。


「…は?」


手に持っていたグラスが落ちて割れる音が遠い。否、どうでも良かった。今、自身の脳裏をかけているこの記憶がそんな思考さえ吹き飛ばすから。


「な、に…え…?」


一人暮らしをしている部屋で、そんな風に混乱していても誰も答えをくれない。だが、分かる。覚えている。

全部、思い出したから。


「っ!」


気がついたら玄関にかけられてた上着を引っ掴んで飛び出していた。行かなきゃ…会わなきゃ…と、心が叫んで身体もそれに応える様だったが、ふと、共に持ってきていた携帯が鳴る。

何故かそれの確認をしなければならないと思って見れば、今会おうとしている彼からで思わず足が止まった。この電話にはでなければならない。でもそれと同じくらい怖くて…震える手で、応答した。


「…ルフィ?」

「ウタ!!お前今どこだ!?家か!!」

「!」


これだけの言葉で確信した。彼も、【前】を思い出したのだ。


「あ、わ、たし…ルフィに、アンタに、会おうと…走ってて…」

「な、こんな夜中に…!!おれも今からそっち行くから!!動くなよ!?どこにも行くな!!」

「う、ん…」


そう言われてしまった以上、ここで止まる他ない。そうして漸く、肌を刺すような夜風の冷たさに気付く。


「…さむ」


こんな事、前にも…ああ、そうだ…【前】にはあった。

シャンクス達を待って…港や海辺に、夜になっても…ゴードンが呼びに来るまで、一人で待ってたんだ。


「…って、言っても…この歳の頃にはすっかり待つのも諦めてたっけ、私…はは」

「ウタ!」

「あ」


互いの家はさほど遠くない。こちらもまた途中まで走って来てたのだから、ルフィも向かってくるなら、すぐに来てくれるとは思っていた。なのに…何故か今とても安堵している自分がいる。


「ル、フィ、ルフィ…ルフィ…ッ」

「おわっ……ウタ」


堪えきれなくて、あの最後の日の様に自分から抱きついた。彼もこんな寒い中走って来たのにすごくあたたかく感じる。


「つめてェ…悪い、待たせたな。てか薄着過ぎるぞ…」

「ううん、平気……会いたかった」

「…おれもだ」


そうして、自分の家の方がまだ近いという事で、二人で家に戻る事になった。戻って鍵も閉めず飛び出したことに気付きルフィに叱られるが、特に問題はなかった為許して欲しい。なにより、そんな事より話したい事があるのだから。

それを伝えると、ルフィは少し黙り込んでから頷く。気持ちは同じらしい。二人で同じソファに座ってから口を開いた。


「ルフィ、も思い出したんだよね?その…【前】のこと」

「ああ。寝てたけど、飛び起きた。それで日付みたら…ウタの誕生日で……あ、お、おめでとう?」

「くふっ…い、いま言うの?…ははっ」

「だ、だってよ…」

「そうだね。うん、ありがとう……祝ってくれて…あと」

「お?」

「…あの日、助けてくれて、ありがと」


その言葉に、ルフィの表情は固まる。理由は知っている。責任感があって、優しい彼の事だ。恐らく、あの日あの時の私を、彼は救えたなんて思っちゃいない。

だから、よかった。こうしてちゃんと言える機会が出来て。


「ルフィのお陰で、シャンクスと仲直り出来たし…あんな計画を止める事が出来た」


多分、あの日自分が生き延びたとして…生涯培ってしまった歪んだ死生観の矯正は難しく、また、あの時代は生き難かったことだろう。死んだ事を肯定はしないが…でもこうして【今】ウタウタの力もなく普通に生きて、育った私にはあの計画の悍ましさと狂気もキチンと理解できているのだ。


「…おれは」

「助けてくれたよ」

「っ…でも」

「もし、謝らなきゃいけないなら私の方だよ。ごめんね、私とシャンクスの問題に巻き込んで……いやホント、世界巻き込んだ親子喧嘩だったよね?改めて考えても」


ルフィの表情があまり良くない。私の対応も良くなかったかも…配信とかで盛り上げようとする時みたいに無理矢理テンションと表情と声を作ってしまった自覚がある。

改めて、長く息を吐いてからルフィの手を握る。さっきといい、やっぱり彼は子供体温だと思う。温いな、なんて思いつつ、ルフィの肩に寄りかかった。


「…ごめんね。もっとちゃんと、話せばよかった。もっと、シャンクス達を信じればよかった……ちゃんと、苦しいなら助けを求めるべきだった」

「…お前は悪くねェよ。それに…もう、もうしねえよな?」

「しないしない!出来ないし!…私は、ちゃんと生きたいって思ってるよ」


ルフィもシャンクス達もキチンといる世界で、歌を歌って、生きていきたい。暴走したり、置いていったり…しない。されて辛かった事を思い出したから。


「…アンタ、どうするの?このあと」

「んー、帰って寝る…ぁ、い、いや!違うぞ今のは!!」

「あはははっ!!だから大丈夫だってば」

「…本当か?」

「本当だよ」


食い入る様に返事をした。だってもう不安はない。【前】をこう思い出した以上忘れる事も出来ないだろうが…きっと酷いお別れなんてしない様に、私達は向き合っていけるはずだ。今度こそ。


玄関までルフィを送る。本当はもう少し話したり、遠くまで送りたいけど、ルフィも明日…もう日付が変わっているから今日になるが予定があるし、私一人で夜道を歩かせたくないらしい。随分と、気遣いの出来る男に……いやこれは割と【昔】から、だったかも?


「…ルフィ!」

「んあ?」


既に少し離れているルフィの背中に、最後に声をかける。すると、彼は振り返る。振り返らないで酒盛りなんかしない。勿論今のシャンクス達も流石にそんな事しないだろうけど…それでも、こちらを向いてくれるだけで嬉しい。

日付が変わってるのに言い方がおかしいかもしれないけれど……我慢出来なくて言ってしまう。


「…また、明日ね」

「…シシッ、おう、また明日!」


とりあえず【前】の記憶なんていうぶっ飛んだものの扱いなんてわからない。何せ私達はまだまだ21になったばかりと19歳。しかも深夜だ。さっさと寝てしまいたい。

これから、考えていけばいい。

これから…またたくさん話せばいい。だって今の私達には明日があるから。

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