またしても何も知らない俺(牝馬)さん
馬に生まれ変わったわけだが、運悪く俺を産んだ母は産後の肥立ちが悪く早々と亡くなってしまい。
そんな母の代わりに乳母として俺を育ててくれた牝馬がいた。
その牝馬には俺と同い年の仔がいて、その仔と俺は半ば姉妹のように過ごした。
『着いてきなさい××』
『はいっ!』
その仔は人間で言えば歌劇の男役のような雄々しい牝馬で、すごくカッコイイのだ。"いい女"っていうのはこういうのを言うのだろうと思うほどに"いい女"なのだ。
『よォ男女。今日もお嬢を侍らせてんのかよ』
『出たな汚物!』
『誰が汚物だ。実の兄になんて言い草…』
そうしていると彼女と彼女の兄が喧嘩をし始めた。
いつも通りのやり取りに仲がいいんだなぁと思う俺。
これを言葉にしたら『『仲良くない!』』と言われるだけだろうしな。
よし、今日も喋らんとこ!
───────
た、助けて幼なじみィ…!
いやホントマジで助けて欲しい。
だって、
『あの子、可愛いな…』
『可憐だ…』
『美しい……』
周りの鼻息が荒い。
周りの視線が熱い。
そして必死に見えないようにしている視界にちらりと映るのは…うん。
……マジで御勘弁をォ。
まさかはじめて幼なじみと離されたレースでこうなるとは思わんかったわ。
幼なじみも俺と一緒のレースに出る!と駄々をこねていたが距離的に無理だろうと説得すると何とか落ち着いてくれたのが記憶に新しい。
(でも…、)
ど、どうしよう。
み、みんな臨戦態勢()じゃん…。
こ、これでゲート入れって…?
そう慄いていると聞き覚えある声が、
『お?なんだ、お嬢じゃねぇか』
『お兄さま!』
『『『『『お兄さまァ!?』』』』』
救世主!
救世主来たよ!
よかった、幼なじみはいなくてもお兄さまがいるなら大丈夫じゃん!
『おう○○ゥ!ンなかわい子ちゃんと何処で仲良くなったんじゃコラァ!?表出ろや!』
『もう表だろうが!』
なーんか周囲がザワザワ〜。
その間にヒトにうながされてゲートインする俺。
そして、
『あれっ!?』
ぎゃあぎゃあ言い争いしていた彼らは大きく出遅れて、俺ひとりだけが実質逃げのようなものになってしまって…、
『か、勝っちゃった…』
呆然とする俺に近づいてくる足音。
『よォ』
『お兄さま!』
『ぶっ!?…え、ちょっと待てお前、なんで俺のことお兄さまって呼ぶんだ!?』
『え?だってあの子がお兄さまって呼んでるので…』
それに俺、そもそも目の前の彼の名前知んねぇし。
でもまぁ、いっか!
(勝ったって幼なじみに報告するぞ〜!)
***
俺:
元ヒトミミ♂現牝馬。警戒心が皆無。
気づいていないがめちゃくちゃ可愛らしい顔立ちしている。
適正がステイヤーなので天皇賞・春に出走させられたと思ったらいろいろが重なり勝ってしまった。
会う牡馬会う牡馬にうまだっちされる運命にある可哀想な子。
幼なじみ:
クソデカ牝馬。ゴリウー。
基本牡馬に警戒心がない俺を守っている。
適正は2500mまで。
昔は兄を『お兄さま』と呼んでいたが、兄が俺に一目惚れしたあとはもっぱら『汚物』呼びになっている。
俺と共にありながら自分が男だったら…って思ったことも一度や二度ではなかったりする。
お兄さま:
幼なじみの全兄。体がデカい。俺のことは『お嬢』と呼ぶ。
実は俺に一目惚れしている。菊花賞馬。
全妹である幼なじみとは喧嘩するほど仲がいいを地で行なっている。
適正が被っているのでこれからずっと俺の帯同(と書いて騎士)をすることがヒトミミたちの手によって決めれてしまった系兄。
これから気苦労は絶えないだろうけど、それに耐えきったら俺を娶れるのでそれまで頑張ろうね!